日本海からの湿った海風を立山連峰が遮ってくれるので、この地方の春はすごしやすい。
だから、この県立病院は戦前、サナトリウムとして結核患者の転地療養に使われていたという。
今ではそのことを知る人も少なくなったが。

看護師の筒井悦子と山口奈々が今日の夜勤組だった。
満室ならば三十六床分を二人で翌朝の八時まで担当する。
ただし、このごろは空きベッドも目立っていた。
いわゆる一般病棟なので、あまり重くない、いろんな患者が入院している。

いつもそうしているように、先輩格の悦子が奈々を助手として仕事に当たるのだった。
悦子の帽子にはラインが一つ入って「係長」クラスを示している。
奈々は、看護師資格を取ってから、一年が経とうとしていた。
ナース・コールが鳴った。
「山口さん、303号室の岡田君のウロバッグがそろそろ一杯よ」
「はぁい、見てきます」

岡田直人は十五歳の高校生で、アッペ(虫垂炎)の手術後だった。
全身麻酔の腹腔鏡手術だったので、気管挿管もしていたが自発呼吸が戻ったので外している。
当然、おしっこの管をペニスに留置して、ウロバッグにつないでいる。
カーテンをこっそりあけて、奈々が覗く。
麻酔から覚めた彼の手にナース・コールが握られている。
「ナオトくん、どお?」
「ううん、気分わりい」しゃがれた声で直人が答えた。挿管のせいだった。
「手術は無事終わったんだよ」
「・・・」
今年で二十二歳になる奈々は直人にとって、お姉さんのようなもんだった。



昨日、担当医の命令で、直人の剃毛も、挿管も奈々がした。
経験の浅い奈々は悦子に教わりながら、直人の若い性器を慎重に倒しつつ毛をバリカンで刈った。
昔のように剃るのは、かみそり負けから雑菌が入る可能性があるので、もっぱら短く刈るのである。
直人は、すこし毛深いほうだったので、刈らないわけにはいかなかった。

ところが、途中、勃起させてしまった奈々。
「あらら」と奈々。
「元気ね、直人君は」悦子も笑って言う。
直人は、返す言葉も無い。
裏腹に、どんどん硬く立ち上がってしまった。
「ま、美女二人に触られたんじゃ、あたりまえか」
悦子は自分の腰に手をやって、したり顔で直人を見下ろしている。

それでも奈々は、顔色を変えずに粛々と刈り取りを終えた。
「もういいですか?」
奈々が、直人がかわいそうになって、悦子に尋ねる。
「いいよ、いいよ。それくらいで」
「ごめんね直人君」と、奈々は言いながら布団を掛けて隠してやった。
「謝られても・・・」
布団が少し山になっているのを横目で見ながら、悦子と奈々は間仕切りカーテンを閉めて出て行った。

「あの子、いまごろ、自分で処理してるよ」
「処理って?」
「マスターベーションよ。わかるでしょ?」
この歳で知らない言葉ではなかった。
「なんなら、覗いてくる?」悦子が奈々をけしかける。
「いやですよ。いいじゃないですか、好きにさせてあげれば」
奈々が少し不機嫌に答えた。
「終わったら、ちゃんと消毒させてよ」
そういい捨てて、悦子は持ち場に戻っていった。

奈々は、ああは言ったが、直人のことが気になっていた。
十五分ほど時間を置いて直人の部屋に向かった。
「なおと・・くん。開けていい?」
「な、なんだよ。待ってよ」
直人は「後始末」の真っ最中だったのだ。
「ありゃりゃ。お取込み中だ」と奈々。
布団をかぶせようとしてベッドから落としてしまった直人。
まだ、精液で濡れている軟らかくなったペニスがだらんとこぼれている。
「あっちいってよ」
「筒井さんの言ったとおりだ」
「なにがさ」
「マスター・・・」
「もう、奈々さんは」
「そりゃ、するわよねぇ。あのままじゃ収まりつかないもんね。男の子だから」
「わかってんなら、あっち行ってよ」
「ふふふ、お昼からオペなんだから、あたしがきれいにしてあげるよ」
直人は「えっ」という顔で奈々を見た。

濡れティッシュでていねいに、ペニスをふいてあげる。
あんなに硬かったものは、今はふにゃりと心もとない。
「かわいい」
「くすぐったいよ」
「ほら、じっとして寝てなさい」
包皮を剥いて、亀頭を露出させ、そのくびれを消毒カット綿で拭いてやる。
ゴム手袋越しに熱い直人の体温が感じられる。
また大きくなり始めていたのだ。
「ああ、ちょっとぉ。またおっきくなってる」
「そりゃそうだろ?」
「ごめんね」
奈々は、ゴム手袋を引っ張って取り去り、直接、手でそれに触れた。
「熱いね。それに硬い」
「ああ、気持ちいいよ。奈々さん」
「こうするの?こうしたら気持ちいい?」
ゆるく握るようにして、手を上下させた。
「たまんないよ」
男の子がこういう風にして自慰行為をするのは知識として知っていた。
痛み止めを使っているので、直人は心行くまで快感に酔いしれた。
前と右のベッドは空きで、はす向かいだけ、耳の遠いかなりの老人が入院していた。
だから、この303号室は二人だけの空間だったのだ。
「奈々さん、舐めてよ」
「えーっ」
「フェラチオだよ。知ってんだろ」
知ってはいたが、したことはない。
でも、この場合、するほかないようだった。
「じゃ」
ぱくりと先端を口に入れた。
栗の花のような香りがかすかに残っている。
「うあ」
直人が声を上げる。
さらに深く彼を呑む奈々。
その熱い肉の柱は、思ったより大きく感じた。

何度も出し入れしていると、あごというより、こめかみがきしむ。
じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ・・・
陰嚢が引き寄せられ、射精が近づいている直人だった。
お互い初めての経験が、少年を二度目の頂上に導いていた。
「おれ、もう」
口を離したものかどうか、奈々は迷った。
迷っているうちに、どばっと青臭い液体が口の中にぶちまけられた。
「おうっぷ」
奈々は目を白黒させて、口ですべてを受けた。
入りきらない粘液は彼女の口角から漏れ出し、だらだらとあごを伝ってシーツを汚した。
しばらくして、ペニスが縮み始め、奈々も口をすぼめて、被害を最小限にしようと苦心して、彼を吐き出した。
「ごめんよ。奈々さん」
ううんと、首をふりながら、ゴミ箱の袋の中に液体を吐き出した。
ティッシュを何枚も使って、口をぬぐったけれど、その強い香りは容易には取れなかった。
「ごめん、直人くん」
そういって、足早に奈々は女子トイレに駆け込んだ。
便器の中に顔をつっこみながら、吐いた。
容赦ない射精は、奈々に深い傷を負わせたことは間違いないようだった。
奈々はよろよろと直人のベッドにもどり、彼の後始末と消毒を念入りに行い、午後からの手術に備えたのだった。


昨日は、あんなに、つらい思いをしたはずなのに、今日の奈々は、術後の直人を見て、愛おしくてたまらなくなっていた。
若者には良くあることとはいえ、奈々の脳裏に彼の「勇姿」がまざまざと蘇る。
今、思い出しても、体の芯が熱くなるのだった。
奈々は母子家庭で一人っ子として育ち、まだ男性経験もなかった。

「おしっこ見ようね」
しゃがんで、ベッドサイドにぶらさげてある、ウロバッグを見る。
濃い茶色の尿が600ccは溜まっている。
「あしたは管(くだ)、取りますからね」
「あ、ああ。また見られちゃうね」
「いいじゃない。立派よ。直人くんの」
「奈々さんは、いっぱい見てるんだろうね」
「いっぱいって・・・まぁ、仕事柄」
奈々は、直人の尿をプラビーカーに移して量を測って、記録用紙につける。
「ぼくみたいに立っちゃうひともいる?」と、直人。
「いるわよぉ。やっぱ、女性にさわられるとねぇ」
「おじいさんでも?」
「おじいちゃんは、ちょっと・・・」と言いながら恥ずかしげに奈々が笑う。

「立ったら、ああやって口でしてあげるの?」
奈々の手が止まった。
「ばかね、そんなわけないでしょ。あれは直人くんだけのサービス」
奈々は、つんとして、直人に答えた。
「うれしかったよ。ぼく、初めてだったんだ」
「あたしだって・・・誰にも言わないでよ」
「大丈夫だって。こう見えても口は堅いんだ」
「信じてるよ。直人くん」

術後というのに直人は、ずいぶん元気だった。
こんな馬鹿話を自分からするのだから。
看護師としてふさわしくない話題とは承知していたけれど、奈々も嫌いじゃないので、遠慮しなかったのだ。
ほかに楽しみもない片田舎の病院で、若い男性と話す機会はそうあるものでもなかった。
たいてい、お世話をするのは、お年寄りばかりであったから。

「直人くんは、いつもああやって、ひとりでエッチしてるの?」
「なんだよぉ」
そう言って、赤くなる直人。
「するんだぁ。エッチぃ」
「誰だってするだろっ。そう言う奈々さんはどうなんだよ」
「へへへ、するぞ」いたずらっぽく、奈々が言う。
「言うかぁ」
「だってぇ、しないと、ストレスたまるもん」
「そうなんだ」
感心している直人だった。
「じゃ、彼氏はいないの?」直人が食い下がって訊く。
「いたら、しないってか」おどけて、奈々が言った。
「ははは!」
外に丸聞こえだった。

じゃーっと間仕切りカーテンが開けられ、筒井さんが顔を出す。
「こらぁ、何、無駄話してんのよ。仕事いっぱいあるんだからね」
「はいっ!」と、気をつけをする奈々だった。
直人もバツの悪そうな顔で二人を見ている。
「じゃ、直人くん、また用があったらナース・コールね」
照れ笑いして奈々が足早に病室を出て行った。

おしまい