現場に向かう足取りは重かった。

捜査一課長は、さらに物証を要求している。
わたしは、容疑者の田中裕介がまだ、何か隠していると思えてならない。

「自白だけで公判を維持できるとでも思っているのか?」
デカ長はそういって、捜査員を叱咤した。

「なおぼん先輩、おれは、田中の線でいけると踏んでるんですがね」
新米の、高田刑事が早足のあたしの後を追いながら言う。

「高田君、捜査線上にもう一人浮上しているわよね」
「辻本ですか?ヤツはパシリでしょう?」
「ただのパシリじゃないわ。デカ長が疑っているのは、辻本敬三に金曜日の夜のアリバイがないからよ」

あたしたちは、押上駅前の交差点に来ていた。

あの日、金曜日の夜に犯行は行われた。
被害者の大迫昌也は胸に銃弾を一発、至近から見舞われ、即死状態だった。

あたしたちは、現場に再度、足を運んだ。
現場百回と叩き込まれているから。
「ここが、かつらぎレジデンスよ」
「先輩、銃声を聞いた住人はいなかったんですよね」
「この交通量よ。マンションの密室で発砲しても聞こえやしないわ」
「犯行時間が午後八時から九時の間かぁ」
「それにね・・・」
あたしは手帳を出して、調べてきたことを高田に話した。
「このマンションは空室が多いのよ。大迫の部屋の右隣は空家、左はホセとかいう外人で、ほとんど帰らない。最上階だから上は関係ないし、真下も空家。どう?銃声なんて聞こえようが聞こえまいが関係ないの」

ただ、田中の単独犯という線が消えたわけではない。
辻本は田中を脅していた・・・
そういうことも十分に考えられる。
辻本から事情を聴取したいのだけれど、今週になって、杳(よう)として行方がわからなくなった。

ケータイが鳴った。デカ長からだ。
「はい、ケータイ横山です」
「なおぼん、辻本の死体が上がった。晴海埠頭だ。急行してくれ」
「了解しました。すぐ向かいます」
「高田君、辻本が死体で発見されたわ。タクシー捕まえて」
「ほ~い」
チャーラ、チャン、チャン、チャチャン・・(BGM)
あたしは、タクシーの中で、考えていた。
「田中以外に辻本を消したいやつって誰なんだろ」
同じことを高田もつぶやいた。

あ~あ、あたし、刑事になりたいなぁ。

今日の妄想でした。