小学生のころ『地球の図鑑』なんてのを買ってもらって布団の中で夢中になって読んでいた。
内容について、ほとんどわかっちゃいないんだけど、地球の歴史みたいなところは「地獄絵図」みたいで好きでなく、また、三葉虫やら筆石(フデイシ)はそこそこおもしろかったけど、恐竜のあたりは嘘っぽくてすっ飛ばしていた。

あたしがもっとも好んだのは、金銀、宝石などの鉱物のページと地形だった。
扇状地や河岸段丘、海食台、海食洞(円月島みたいな)を見れば「行って見たい」とも思った。
陸繋島(りくけいとう)に至っては、ぜひ島に歩いて渡ってみたいと思うじゃない。

なかでも「甌穴(おうけつ)」と「土柱(どちゅう)」には驚かされた。
絵で示されているので、それがなんであるかは、だいたい小学生にもわかる。
むしろ、それがどうやってできたのかの説明図が、自然の不思議で、悠久の時間がこういうものを作り出すのだと思うと、ワクワクするのだった。
「甌穴」は英語ではポットホールと訳されるらしい。
平らな岩の表面などにきれいな円形に穴が掘れているものだ。
これは昔、川底だった岩だという。
それが隆起して、地表に現れたものだそうだ。
で、その穴がどうしてできたのかがおもしろい。

最初、川底にあったこの岩盤には、小さな穴か割れ目があったのだろう。
そこに、上流から流れてきた小石がはまり込み、水流の力でその場でくるくる回り出した。
微妙な力のバランスがないと、小石はすぐに飛び出て行ってしまうが、条件が合うと、その穴の中で小石が回り続け、穴を削って大きくしていく。
そこにまた新たに石が転がり込んで、次第に深く、深く井戸のような穴が穿たれていくのだという。
だから、甌穴の中には出られなくなった、まん丸の石が残っていることがあるらしい。
それも見てみたいものだ。
また、甌穴は海岸にも見られることがあるらしい。
波に揉まれて、石ころが岩盤に穴をあけていくのだろう。
自然の彫刻家というか石工(いしく)だなぁ。

次に土柱(どちゅう)だ。
ロッキー山脈に見事な土柱群があるらしいが、四国の徳島にある「阿波の土柱」は世界的にも有名だそうだ。
小規模なものなら工事現場などで、石を頂いた「キノコ状」の親指大のものが見られる。
土柱ができるためには、柔らかい土の上に乗っかった石ころが雨に打たれて、周りの柔らかい土が流されなければならない。
しかし、石ころの下にある土は雨に当たらずに流されない。
すると、周りの土はどんどん取り除かれるけれど、石ころの下の土だけが石の陰になって、柱のように残るわけ。
これを土柱と言うのよ。
こういった短時間の雨でできるような土柱は小さいものしかできない。
それはつまり、石を支える土の柱が弱いからで、ある程度成長したら崩れてしまう。
「阿波の土柱」のように見上げるような大きな石を頂いた土柱は、長い年月を経てできるものだ。
この場合、石を支えている土は柔らかくなく、しっかりした地盤になっている。

 ワンゲルにいたころや、フィールドサーベイに参加していたころにはすっかり「甌穴」や「土柱」のことは忘れてしまっていて、もしかしたら出会えていたかもしれないのに惜しいことをしたと思うこのごろだ。