冬になると「ドカ雪」を降らせる「冬将軍」とはどんなやつなんだろ?
よく天気予報で「冬型の気圧配置」とか「西高東低」という言葉を聞くと思います。
そんなとき、彼はやって来る…
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(うちの庭もこんなです)

この話をするまえに「風が吹く」ということを考えてみましょうか。
決して「桶屋が儲かる」話ではございません。

「舞台風(ぶたいかぜ)」って、ご存知ですかね。
劇場とかで、緞帳(どんちょう)が上がると舞台の方から吹いてくる冷たい風です。
以下、一応、満席の劇場を想定して書きますね。
客席は満席なので、人いきれといいますか、熱を発しておるわけです。
冬なら暖房も入っているかもしれません。
ところが、緞帳を隔てた舞台のほうでは役者と裏方とセット、照明も落としているので寒々としています。
この状態で緞帳が上がると、冷たい舞台の上の空気が暖かい客席の空間に流れて風を起こします。
それも冷たい空気というのは比重が重いので、客席ホールの下を客の顔を舐めるように流れていくから、お客は寒く感じるのです。
これを演劇ファンなどは「舞台風」なんて呼ぶのです。
雪の庭
(雪のピラカンサス)

この現象を掘り下げると風の正体がわかってきます。
風は空気の流れだというのは、だれでもわかるのですが、それを作る原動力がなんなのかがわかりにくい。
舞台の例では温度差がその原動力だと言えそうです。
じゃあ、空気に温度差があるとなぜ動くのだろうか?
さきほど、冷たい空気は比重が重いと書きました。
アルキメデスの原理から、比重が重いと沈み、軽いと浮くという「浮力」が生じます。
空気のような気体の場合には、それが「対流」という現象を、文字通り「巻き起こ」します。
冷たい重い空気が暖かい空気の下に入り込んで、暖かい空気は浮力で軽くなり浮き上がろうとするんです。
これが大気の「攪拌(かくはん)」といって、かき回す原因になり、ついには温度がまんべんなく均質になって、やがて空気の流れは止まってしまいます。
※見かけ上、静止した空気でも絶対零度でない限り(温度がある限り)、分子は活発に動いているから拡散は起こります(ブラウン運動)。

だから、風がやむのは、空気の温度差がなくなることを意味します。
同じようなことが海岸でも見られます(海陸風現象)。
昼間、海岸では海からの風が吹きます。
これは海の水が陽光で暖まりにくく、先に陸地の方が暖まりやすいので陸が高温になり、海が相対的に低温だからです。
夜になると逆に、海の水が冷えにくく、陸地はすぐに冷えるので陸地の方が温度が下がり陸から海に風の向きが変わります。
朝凪(あさなぎ)と夕凪(ゆうなぎ)は海と陸地の温度差が等しくなって風が止まる時間帯です(温度平衡)。
海の水が暖まりにくく、いったん暖まると冷えにくいのは水の比熱が大きいからだと説明できます。
つまり、地球の気象は、地球が自転して昼と夜を地面や海面にもたらすから生じる現象だと言うことができます。
※「口頭試問」も見てね。

もう少し空気の流れを詳しくみると、気圧の差が見えてきます。
空気が流れると気圧の高いところと、低いところができているのがわかります。
風の向きは気圧の高いところから低いところに流れているように見えますが、それは平面的な見方であって、対流を縦に切ってみると反対の流れもあり、うまく循環しています。
そして冷たい空気と暖かい空気の出会う場所に「前線」というものが存在します。

前線では湿った空気と乾いた空気の押し合いがあり、雨や雪が降りやすくなっています。
・暖かい湿った空気(南の海からくる空気)→小笠原気団
・冷たい乾いた空気(北の大陸からくる空気)→シベリア気団
夏は小笠原気団が強くなり、冬はシベリア気団が強くなるわけね。

冬はシベリア気団の高気圧勢力が強くなり、乾燥した極低温の風が北~北西から強く吹きます。
日本海には対馬海流の暖流により湿度の高い空気があり、寒冷なシベリア気団が接触して雪雲をつくって新潟とか富山あたりに大雪をもたらすの。
高い中央アルプスで上昇気流を生じて大雪を降らせた大気は急激に乾いて、関東平野に「からっ風」として吹き降ろすんだ。

このように高い山に湿った空気が当たって上昇気流を生んで発達した雨雲(雪雲)を生むのを断熱膨張といい、フェーン現象のように熱い乾いた空気を吹き降ろす場合を断熱圧縮といいます。
断熱膨張は空気の温度を下げ、含水していれば結露・結氷となり、断熱圧縮は高温をもたらします。

シベリア気団が強まると「西高東低」といって「冬型気圧配置」の典型となり、日本列島のだいたい西側に高気圧、東側が低気圧が位置して、等圧線が経線に平行になり、その間隔も狭くなります。
等圧線の間隔が狭いほど気圧の急斜面となり、高気圧から低気圧に向かって、ほぼ西~北の強い風が吹くのです。
「西高東低」の高気圧と低気圧は偏西風に乗って西から東に流れていきます。

ドカ雪を降らせる「冬将軍」の条件として、
・強い勢力のシベリア気団が存在すること。
・西高東低の気圧差がはなはだしいこと。
・日本海の海水温(対馬海流)が高いこと。
・二千~三千メートル級の山脈があること。
でしょうか。