鰯雲 人に告ぐべきことならず (加藤楸邨、昭和十三年)

平和な時代が過ぎ、大陸から戦争の足音がひたひたと近づいていた昭和十三年、楸邨が秋空に詠んだ句だそうです。
言いたいことも言えない時代になり、俳人も生きづらさを感じたでしょう。

このように、秋の空というと「イワシ雲」(気象学では巻積雲)ですね。
イワシが獲れる頃に湧く雲だからとか。
形から「うろこ雲」という人もいます。
似たものに「ひつじ雲」(気象学では高積雲)がありますが、一つ一つの雲の塊が大きいですし、じきにつながって曇り空になって雨模様となる予報になります。

ああいった規則的な図形は大気の「乱流」が起こすのだと聞きました。
台風十八号が近づく近畿地方ではそんな優雅な景色はなく、もう鉛色の雲が低く垂れこめていますけれど。

断面が円の管を流れる流体を観察すると、壁面近くは遅く、断面の中心がもっとも速くなっています。
非圧縮の「ニュートン流れ」では、ある流速まではきれいな層流になり、その流速を超えると乱流になるそうです。
ここでいう「ニュートン流れ」とはニュートン粘性を示す液体(流体)を言います。

あらゆる流体は「粘性」を持ちます。
その粘性は流体を構成する分子由来のものです。
そして管内を流れる流体を観察して、その管内壁に近づくにつれて流速が遅くなる。
直観的に「摩擦力」が働いているなと感じますね。
その通りで、剛体のように面と面で摩擦を生じるのではなく、「層」が「ずれ」ていく感じで摩擦が伝わります。
理想的な層流の場合、内壁面から管の中心まで放物線を描きます。
管の中心が放物線の頂点になります。
このことを発見したのが、ゴットヒルフ・ハーゲン(独)という土木技師と、ジャン・ルイ・マリー・ポアズイユ(仏)という医師でしたので「ハーゲン・ポアズイユ流れ」と言います。
ポアズイユは血管の中の血流を調べてこの「流れ」にたどりついたと伝えられています。

流速fは円管の中心からの半径距離rの関数として表され、それが二次関数だから放物線になるのです。
f(r)=gI(R^2-r^2)/4v
Rは、管の中心から管内壁までの半径、gは重力加速度、Iは動水勾配、vは動粘性係数です。
ね、変数rの二次関数になってるでしょう?

これはストークスの式とかレイノルズの式と呼ばれる式から、以下の特別な条件のときに導かれます。
・乱流でないこと、つまり層流であること。
・時間的に流速が変化しない定常流であること。
・流れは断面方向に流れる成分がないこと。
・流体にはむらがなく、連続体であること。
・壁面のすべりがないこと。

こういった流体の式は多くの人の実験によって導かれたもので、結果的には一つの物理現象に収束するのです。

一方で、レイノルズ数Rは無次元の数で、レイノルズ数の大小で層流か乱流かが判断できます。
R=ρvL/μ
ρは流体の密度(㎏/㎥)、vは流体の速度(m/s)、Lは流れた距離(m)、μは粘性係数(㎏/(m・s))です。

これら単位をレイノルズ数の式に入れると、みな消えて、無次元になることがわかります。

うろこ雲は大気の乱流で生まれるのでしょう。
するとレイノルズ数が大きいであろうことが予想されますね。