あたしと中村君は、会社の車で機械の納品のために走っていた。
食品包装用の簡単な装置である。

夏休みに入ってからというもの、道路は変な時間に混む。
家族連れのワンボックスが多い。
「BABY IN CAR」なんてステッカーも目に付いて癪(しゃく)に障(さわ)る。
あたしは、自主的石女(うまずめ)なので、こういう張り紙にときおりイラっとくるのだった。
渋滞のときなど、なおさらである。
「なんやねん、赤子(あかご)が乗ってるからアオるなってことか?あかんぼが乗ってるからノツコツ走りまっせっちゅうことか?」
※「ノツコツ」とは京都方面で「滞りがちな、つっかえたような、とろとろと・・」みたいな意味で使います。

「あのステッカーには事故に巻き込まれたときにレスキュー隊に『車内にアカンボが乗ってるから探してね』という意味があるそうでっせ」
と中村君が至極冷静にお答えになる。
「わかってるわい。そのつもりで貼ってるバカっ母はどれくらいおんねん。『うちには可愛い赤ちゃんがさずかりましてん、ええでしょーっ』て自慢しとんねんがな」
「ジェラシーですかぁ」
「しばくで」
「こわぁ」

あたしは、暑さでいささか、人格が変質してきていた。
科学者のなおぼんは融解して、どっかへ流出してしまった。

「女は、こどもができたら偉いんやな」ぽつりとあたしがこぼす。
「まあ、将来の納税者が増えるわけですからね。おれら、あいつらに養ってもらうことになるんやし・・・」
「お子様は宝やからのぉ」
あたしは、五条堀川の交差点で、車を左折させながら、ダンプの運ちゃんみたいな口をきく。
勝手に産みさらせ・・・
どうせ少子化に歯止めなんかかかるかい。
「コンドーム廃止、中出し奨励」のスローガンでもぶちたてたらどないや?

ラジオから佐世保の女子高生殺害のニュースが聞こえる。
「えげつないことしよんなぁ」
「ですね。なんでも、容疑者の女子高生は小さいおりから動物の解剖をしとったらしいですよ」
「けっ。きもい女やな。親の顔がみたいな」
「母親は死んで、お父(と)んが再婚したやらで、彼女は一人暮らししとったんですって」
「片親かいな。高校生にもなって甘えんなよ。おやじが再婚したってええやないか。なにが不満で友達をバラすねんな。板前にでもなりたかったんか?」
「マグロの解体ショーやないですって」
「似たようなもんじゃ。DQNか?その娘(こ)」
「いやいや、父上は地元の名士らしいですわ」
「ますますわからんなぁ」
あたしは、なにもかもが腹立たしかった。
被害者の女の子に「なんで、殺られる前に、殺らんかったんや」と言ってやりたかった。
たぶん、後ろから鈍器で殴られて即死したんやろな。
「首と左手首を切断するとはね」
「わけわからんわ。メンヘラやろどうせ。精神異常で無罪放免てか?」
あたしはむしゃくしゃしてきた。
なんで、佐世保にはこんな異常な子供が多いのやろ。
日本中、みんなそう思ってるやろな。
校長の談話が他人事風で、自分も被害者みたいな言い方やったのも腹が立ったわ。

カミュの「異邦人」みたいに太陽のせいにでもするつもりかい。
原爆のせいにはせんといてや。
ほんまに。