宇宙でケータイ?スマホ?
ギガヘルツ帯では波長が短すぎるし、中継なしでは通信は無理やなあ。
減衰して、ぜんぜん受信できないやろ。
まったく使えん。

ただし、「曙(あけぼの)」艦内では使えますよ。
単なる、Wi-Fi無線LANですけど。
ブリッジ(艦橋)と各部署、機関室、食堂、気密室、甲板どこでも快適につながりまっす。

本気でやるなら、せめてVHF帯ぐらいで、100Wの空中線電力でのデータ通信をするもんよ。
太陽光パネルをぱらぱらっと開いてね、お日様に向けてね。

ただいま、暗号化デジタル通信、秘話回路付き電話、モールス暗号で「なおぼん艦隊」は宇宙をかけめぐっております。

上条和子さんが、ソフトなキータッチで縦振れ電鍵を操作して、モールスを奏でております。
彼女は、わけあって、音大中退で絶対音感の持ち主のピアニストでもあります。

本艦は中波~超短波までゼネカバ(ゼネラルカバレッジ、つまり切れ目なしで送受信ができる)の通信設備が整っているんだな。
こういうものは命綱(いのちづな)なのよ。
惜しんじゃいけないの。

宇宙ロラン(電波灯台)、標準電波(マーカー)、位置信号、ボルメット放送、妨害放送、地下放送、海賊放送なんでもござれだよ。

タブレットがあたしの目の前に浮いている。
ブリッジには机というものがないのね。
チャート(海図:宇宙でも慣例でこういう)はタブレットか、据付の液晶画面で見ることになる。
けっこう狭いよ。
通信士の和子がさかさまになって座っている。
じつは、あたしが逆さなのだった。
操舵は副長の吉田さんがやるの。
六時間ごとの交代制で、あたしもローテーションに入っているよ。

「曙」は惑星間フリゲートに分類される中型の巡航艦です。
五年ほど前に、条約軍で退役したものを払い下げてもらったの。
就役中の名前は「トリニティ」だったはず。

化成燃料推進式で、ロケット砲12門、自発砲12門、圧搾空気機銃36門、ミサイルトーピード9門、煙幕、爆雷敷設の能力があるの。
火薬も使えますがね。
条約軍の主力艦とか、空母なんかは原子力推進型もあるけど、そりゃ最新鋭だからね、手が出ないわ。

レーザー砲?ほしいけど、これもあたしらには無理。
出力を上げようとすれば、機関に影響が出るし、電装設備が大変なんだよ。

もちろん、大気圏突入はできない。
火星ぐらいの希薄な大気でもあぶないよ。
地球などに乗務員が降りたいときは、別のシャトル便を使う。
つまり、民間の空港に行って、切符を買って乗せてもらうのよ。

宇宙戦艦「ヤマト」とか「アルカディア号」とか「クイーンエメラルダス号」ならいざしらず、こんな小舟は大気圏に入ると摩擦熱で燃え尽きてしまうわ。

太陽系では民間のいろんな輸送機器が活躍していて、これを略奪する輩も少なからずあるわけ。
ただ、リスクが甚大なので、そんなことをする組織は限られているんだけど。
絶対真空の世界は、人間にとって、死の世界なのよ。
アニメみたいに自由に飛び回ったり、合体したり、撃ちまくったりできないのよ。
やってみたらわかるけど。

撃てば、反動で軌道がずれて、もどれなくなるし、星の重力場につかまったり、スーツの気圧が漏れたらさあ大変!空き缶のように膨れて、体が弾け飛ぶ。

ラグランジュポイントに港やコロニーが設定されるのは、機動戦士「ガンダム」でおなじみよね。
重力のつりあいが取れて、建造物が安定化するの。

モビルスーツもあるけど、船外工作用です。
あれで、戦うということはリスクがありすぎてありえないな。
マクロスの戦闘機風、あるいは「ヤマト」のコスモタイガー風の宇宙戦闘機らしきものは存在するよ。
「おりひめ」がそうよ。
デルタ翼で、スマートとは言いにくい代物だけど、パイロットの安全性をよく考えてあって、コックピットシェル自体が小さな宇宙船になってる。
派手な空中戦はできず、威嚇射撃が関の山ですね。
あたしも、これがかっこよく戦ってるの見たことない。

極端に足が短いのよ。
数分しか飛べないらしい。
固形もしくは液体のロケット燃料とか補助に圧搾空気を使うほかなく、優雅に舞うしか能がないのね。
火器も無造作に使うと、戦闘機自体が母艦に戻れなくなる事故が続出よ。
本艦で回収に行ったこともあるわ。

かくいう「曙」も何度か、操舵ミスで、木星に落ち込みそうになった。
木星は恐ろしい星で、その重力につかまると、抗うことは不可能なのよ。
海賊船がまっさかさまに捕らわれて落ちていくのを見たことがあるわ。


さあ、殿様ワッチの時間やね。
あたしは、ブリッジから、回転銃座のある砲塔にふわふわと向かった。
手すりがあちこちにしつらえてあるので、うまくそれを使って、泳いでいくの。
無重力に慣れて丸みを帯びた体は、どこに当っても痛くないわ。

ではでは・・・