祖父が死んだ。
とても優しかった祖父が、長い闘病の末、昨日の未明に旅立った。
あたしと、一つ違いの従弟、浩二を分け隔てなく可愛がってくれた。
「なおぼん、お祖父ちゃんにお花を供えてあげようか」
「うん。じゃあ新池の土手に摘みに行こう」
祖父が住んでいた高安(たかやす)の家は大人たちが忙しく働いていた。
今日の通夜と明日の告別式の準備に上へ下への騒ぎだった。
あたしたちのような子供がいる場所はなかった。
祖父の孫はほかにもいるのだけれど、みな成人していて、子供はあたしと浩二だけだった。

高安の家は旧家であり、その昔、曽祖父に当たる人まではこの在所の村長を歴任したという。
そんなわけで、さまざまな人たちが弔問に訪れていた。
あたしの父母や浩二の両親の伯父夫婦もあたしたちには構っていられない。

「こうちゃん」あたしは浩二のことをそう呼んでいた。
「何?」
「お祖父ちゃんの好きな花って・・・」
「わからん」
浩二とは幼い頃からいっしょに遊んでいた。
この新池という農業用ため池に続く道も二人で数え切れないくらい歩いた。
あたしは中学の制服を着ていた。
御通夜があるから、母が着ておくようにと命じたからだ。
浩二も中学生なのだが、遠くの街から来ているので普段着のままだった。

秋の空は高いと感じる。
浩二はあたしより少し背が低く、声変わりしたてで、ときおり声が裏返ってしまう。

土手に着いた。
晩秋のこの頃、花など咲いていなかった。
草ぐさは黄色く枯れ始めており、その間を野菊が儚く揺れていた。
「ノコンギクしかないね。なおぼん」
「うん。それでもいいやん」
あたしたちは、その可憐な花を摘んでいくことにした。
もう日はかなり傾いており、美しい夕焼けを見せていた。

また二人は、来た道を帰っていった。

「お祖父ちゃんとグミの実を取りに行ったの覚えてる?」浩二がふいに尋ねてきた。
「そんなこともあったなぁ。あそこの火の見櫓(やぐら)の裏山やろ」
「うん。あの山ってうちの山やったんやろ」
「そうや。でも売ってしまわはったんや」
「あそこ、ぼく好きやったのになぁ」
「探検したな。地図書いてさ」
「あの地図、まだ家にあるで」
「ほんまに?」
絵地図をふたりで描いたのを覚えている。
マツタケの取れる赤松の林とか、ヤマザクラの木、タヌキが住んでた穴・・・
お祖父ちゃんが案内してくれて。
あたしは、涙があふれてきた。
「なおぼん・・・泣いてんの」
「・・・」

家の前まで来たらもう真っ暗やった。
こうこうと明かりがともって、大人たちの声がする。
「なおこ、こうちゃん。あんたらどこ行ってたんな」
母の声がした。
「お祖父ちゃんにお花をお供えしようと思って摘んできたんや」
「もう、はよ、お寿司食べ。御通夜やさかいに忙しいねんよ」
「ちょっと待って。お棺にお花を入れてくるし」
「はよしいや。奥のお大師さんの部屋にしたくをしてあるから」
あたしたちは、急いで、お通夜の式場になっている仏間に行った。
もうすぐお坊さんが来るらしく、ぶ厚い座布団が出ていた。
お祖父ちゃんはすでにお棺に納まっている。
蓋は開いていた。
安らかそうに眠っているお祖父ちゃん。
あたしはまた泣きそうになった。
「お花、置いたげよ」
浩二も、神妙な表情で花を添えている。

その日は、お寿司を食べて、風呂に入って、子供は寝ていいということで明日に備えた。
あたしは離れの勉強部屋に使っているいつものベッドで寝ることにしていた。
浩二たちは、母屋の六畳で寝ることになっていた。
ただ、大人たちは夜伽(よとぎ)といって、寝ずにお祖父ちゃんの番をするそうだから、浩二は一人で寝ることになるだろう。

十一時を回ったころだろうか。
あたしは、ベッドサイドのライトだけを点けて、文庫本を読んでいた。
どうも寝られないのだ。
「しちゃおかな」
あたしは寝られないと、オナニーをして寝ることがよくあった。
生理が終わってしばらくすると、たいていしていた。
パジャマとショーツを脱いで、準備をした。
「えっと、ティッシュはと・・・」
エッチな妄想は、クラスの土井君っていう背の高い男の子にヤられるのとか、今年入った藤本先生に脱がされるとか。
おマメを剥いて、なぞりつつ、入れてはいけない穴をかぎ状に曲げた指でぷちっと入れる。
次第に、さらさらとした液体があふれ出して、指全体に広がるの。
そしてにおいを嗅ぐ・・・
「さっきお風呂で洗ったのに、もういやらしいにおいがしてる」
おマメをいじるスピードが速くなる。
くちゅ、くちゅと、はっきりした音が聞こえる。
おマメの上の皮膚を指で引っ掛けて、きゅーっと引っ張ると、足も突っ張って「いくーっ」って感じで果てるのが常だった。
「はぁ」
そのまま、ベッドの上で大の字になって虚脱していた。
ひんやりと股の間を風が流れていった。この部屋は隙間だらけなのだ。
「ああ」
ひとりでに声が出た。

「なおぼん・・入っていい?」
ドアの向こうで浩二の声がした。
「うあっ。ちょっと待って」
あたしはがばっと起きて、パジャマの下をじかに履いてしまった。
べとべとのオマタが気色悪い・・・
「ど、どうぞぉ」
ぎっと鳴ってドアが開き浩二が入ってきた。
「なんか、寝られへんね」
「そお?あたし、寝てた」ウソをついた。


続きます(たぶん)