黒鉛とかススは炭素で出来ていると辞典で調べたら書いてあります。
書道の墨も、火鉢の炭も漢字は違うが炭素が主成分です。
塾で子供らに、よく訊かれるのが「じゃあダイヤモンドも炭素って習ったけど、どうして透明なの?」という話。


物が透明でに見えたり、真っ黒けに見えたり、色んな色に見えることから説明せねばいけません。
その根本的理解として物が見えるのは光がその物に当たっていて、そこに反射した光が私たちの目に届くから見えるんだということです。

で、黒い物質はあらゆる可視光(人間の目に見える光:波長380~780ナノメートル)を吸収して反射しないから、目に光が届かないので黒く見えるわけ。
すると白い物は全ての可視光を反射しているのだと理解でき、赤い物は青い光を吸収し、赤い光を反射しているのだと演繹できます。
艶のある黒漆は、表面で一部を反射しているのがわかります。それが光沢です。

目は光を感じる臓器であることを踏まえて、炭素の黒鉛(グラファイト)とダイヤモンドの色の違いを考察させます。

化学の世界では炭素(C)同士の結合は共有結合だと説明します。
炭素の不対電子(最外殻電子)が四つあり、炭素原子一個では不安定で、炭素同士はつながろうとします(不足の電子を共有して結合するのでこれを共有結合という)。
そうして結合した炭素のつながりは飽和結合(一重結合)からなる共有結合か、不飽和結合(二重結合もしくは三重結合)共有結合の二種類に分かれます。
ダイヤモンドは炭素の一重共有結合による正四面体が無限に連続したもので、非常に応力に強く、硬いのです。
ダイヤモンドがモース硬度10と最大の硬さをもつ所以(ゆえん)です。
(ただし、もろいので割れやすい)
反対にグラファイトはベンゼンという亀の甲のような正六角形に共有結合した炭素を基本構造としていて、その正六角形がハチの巣を真上から見たように平面を作っているのです。
するとグラファイトは正六角形の網の平面が多層で幾重にも重なっているようだと説明されます。
こういった多層構造は横滑りしやすく、重ねた紙の束に似ています。
だからグラファイトは軟らかく、すぐ粉になって、その性質から鉛筆の芯に使われるのは紙に摩擦で移りやすいから字が書けるのでした。

同じ炭素で成っている物質なのに硬さが異なるのはそういう分子の構造の違いから来ています。
グラファイトとダイヤモンドは炭素の同素体と言われます。

そして色です。
一重の共有結合から成るダイヤモンドは光を反射せず、また吸収もせず、透過させてしまいます。
ゆえに透明なのだと、説明しますが、これでは納得できないというのが子供たちの感想でした。

ではグラファイトが黒く見えるのは全ての可視光を吸収するからだと、先に述べたのでそのことから説明します。
炭素と炭素がグラファイトやその単位構造のベンゼンでは不飽和結合(二重結合)を持っている。
この二重のうちの一つは一重結合のものであり、もう一つの余った電子で正六角形の面に平行にその面の上下に雲のように存在しているのです。
ベンゼン単独ではこの電子雲は導電性はないのですが、グラファイトのように無限に正六角形の網目が拡がると、この電子雲は金属の自由電子のように振る舞い、導電性を示します。
この電子雲をπ(ぱい)電子と呼びます。
電子軌道論では一重の共有結合はs軌道(σ電子)で共有結合し、二重の共有結合はp軌道(π電子)で電子雲をつくると説明します。
ベンゼンは古くは、正六角形の一つおきの辺に二重結合を書いたものですが、それは数合わせであり実際の分子の姿とは異なっていることが電子論の発達でわかってきました。
もう少し詳しく述べると、正六角形の一つおきの二重結合は固定されておらず、正六角形の辺の上をぐるぐる回っているのです(二重結合の非局在化)。

ベンゼンが二つ、三つと縮合環を形成していくと、最終的にはグラファイトになるのですが、今度は電子雲の電子は一つのベンゼン環に固定されず、隣、そのまた隣へと移動できるようになります。
あたかも金属のように電子雲の電子は自由電子になって、電気を流すと通電するようになります。
自由電子が自由に動き回れるのは光のエネルギーを吸収することができるからだとも言えます。
これを励起と呼びますが、可視光のエネルギーを吸収してπ電子のエネルギー準位が跳ね上がることを励起されたと言うのです。
するとどうでしょう?
グラファイトはπ電子が可視光によって絶えず励起されていて、その結果、可視光が吸収されてグラファイトが黒く見えるのです。
金属のような光沢もまた自由電子によるものだと言われます。
グラファイトが「鉛」でできていると錯覚されたのは、固めたグラファイトに鈍い金属光沢があったからです。
これは自由電子によるものだと、今なら説明できますね。
自由電子が金属光沢を呈する、もうひとつの例に安定ラジカル化合物があります。
ラジカルはまさに行き場を失った電子で、不安定なのですが、分子構造が複雑な立体を形作るとき、その中にラジカル電子を閉じ込めることができます。
すると、そのような安定ラジカル化合物の結晶は金属光沢を呈するようです。
私が見たことのある安定ラジカルは「ジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)」でした。

ではダイヤモンドはどうか?
炭素-炭素の一重の共有結合はいくら可視光を当てても励起されません。
可視光を吸収しないからです。
それどころか炭素原子格子から可視光はことごとく透過してしまいます。
よって、その背景から光が反射されて、ふたたびダイヤモンドを反射光が通過して私たちの目に届くので透明に見えるのです。

ダイヤモンドのような炭素ー炭素の一重の共有結合は赤外線を吸収することがわかっています。
その程度の低いエネルギーを吸収して分子間の結合電子がバネのように振動するだけです。