情事のあとの、あられもない姿の尚子の背中に向かって、
「八島先生って独身かい?」と尋ねた。
理趣大学農学部農芸化学科の八島あずみ先生を紹介してくれたのは、ほかならぬ横山尚子だったからだ。
「あのせんせ、結婚してるけど、別居中なんだって言ってた」
嗄れた声で小さく答えた。
「ぜんたい、いくつなんだろ?」
「紀要の経歴では38歳ってことになってる」
「見えないな」「若いってこと?」「まあ…」「あたしくらい?」「だな」

白衣を突き上げるような見事なバストの八島先生をおれは思い浮かべていた。
同僚の加藤健太なんか、帰りの電車の中で、先生の胸の話ばかりするので閉口した。
尚子の胸も、小さくはない。
「Dよ」と言っていたはずだ。
「中学生の頃にもうCになってたわ。走るのがいやでね」
「揺れるからかい?」
「そうよ。重いのよ。ずんずんって…わかんないでしょ」
「いい景色だろうな」
「だからいやなのよ。男の子だけじゃなくって、男のせんせまでそういう目でみてるんだもん」
「考えすぎだよ」
「そうかしら」
そんなピロートークをしたことがあったな…

尚子は、理系の大学を出て、出版社に勤めたけれど、そこで不倫騒ぎに巻き込まれて辞めざるを得なくなったらしい。
それからは、その時の人脈だけでフリーランスで生きてきたんだそうだ。
おれとは、都のIT関連有識者会議で、たまたま席が隣り合わせになって、彼女のほうから話しかけてきたのがきっかけと言えばきっかけだった。
飲めば意気投合して、もともと開けっ広げな彼女のことだから、そのままお持ち帰りに…そして童貞を彼女に「ささげた」ってわけだ。
「捨てた」というと、彼女は「やめてそういう言い方。お互いにやでしょ?」とたしなめたのだった。
おれはそんな尚子に、急速に惹かれていった。
でも…結婚を言い出せなかった。

「アメリカに行ってたことがあったんだろ?」
おれは、尚子の首筋に唇を這わせながら尋ねた。
「学部生のころにね、奨学金の団体が募集してたのに応募して、面接を受けたら通っちゃったの」
「すごいじゃないか。優秀だったんだね」
「女の子がめずらしかったんじゃないの?あたしって変わってるし」
そっけなく、そう言った。
「外人の彼氏ができたんだろ?」
「友達よ、友達。英語の上達のためには、そういう関係も必要なの」
「ベッドサイドイングリッシュかい?」「そゆこと…あん…」
おれは尚子にかぶさって、乳首をほおばった。舌で転がし、吸いついた。
男にはない、柔らかさの器官…乳房とは、なんと心地よい感触なのだろうか?
はむ…あんむ…
押せば、反発し、撫でればなじむ。
乳輪には、わずかなでこぼこがあり、充血し、周囲から一段盛り上がってくる。
おれの手は、次の獲物を捕らえに向かった。
下萌えに囲まれたクレヴァスである。
野獣が潜むその茂みの中を、這うようにして「泉」へ近づくのだった。
しゃりしゃりとした、ターフのような…
尚子に教わった「クリトリス」を人差し指の腹で押すのである。軽く…
プッシュ、プッシュ…
「それでプッシーっていうのかい」「違うわよ。綴りが」
そんなことを言いながら、おれはクリちゃんのご機嫌をうかがう。
というよりその「持ち主」の表情を。
「ああん、もっとぉ」とくれば合格だ。
尚子の膝が立ち、左右に開きだし、腰が持ち上がると、彼女は忘我の境地になるらしい。
正確には「クリ逝き」と「中(なか)逝き」は違うらしい。
尚子は「クリ逝き」派であり、中学生の頃からそうなのだそうだ。
「なか逝きはね、神の啓示でもない限り訪れないの」
そう言ったのは、無神論者の尚子だったはずだ。

理趣大学は、尚子の出身校でもあった。
密教の経典「金剛理趣経」が校名の由来であるそうだ。
宗教系の大学らしく文系が主なのだが、めずらしく農学部と薬学部を併設していた。
尚子は農芸化学科の卒業であり、その先輩が八島あずみ先生というわけだった。

おれはすでに勃起している分身の頭で谷間をこすった。
ぬめるその柔らかき母貝のひだは、おれにまとわりつき、吸引力さえ発揮した。
ぬち、ぬち、ぬち…
「やん、そこ、だめえ、もっとぉ」
あられもない言葉を吐いて、尚子の背が反る。
顔は紅潮し、息も荒い。
「も、もう、入れてっ!入ってきて!」
「よし」
体勢を立て直し、おれはまっすぐに突き刺した。
うふぅん。
おれも鼻から長い息を吐く。
この狭い肉のさやを割り込む、自分の雄姿を想像した。
「こうちゃんの、かったぁい!」
その言葉が聞きたかった。
「大きい」よりも「硬い」と言われるほうが、おれは嬉しいのだ。

『理趣経』には性欲は清浄なものだと説かれている。
尚子はそれを実践しているに過ぎないのだ。
男女の交合には、陰陽の効果がある。
それこそが「理趣」であると。

尚子の両足を持ちあげて、腰だけで突いた。
そのまま両足をそろえて右へ倒し、側位に転じる。
彼女の背中から乳房を愛撫し、唇もいただく。
「ああ、こうちゃんでいっぱい」
「そうだろ?」
「したかったの?」
「ああ、したかった…すっごく、したかった」
「あたしも」
尚子の髪から立ち上る甘い香りを鼻腔に満たしながら、おれは、浅く突いた。
乳首からわきの下に、唇を寄せる。
ああ、この匂い…
どこか郷愁を誘う、尚子の体臭だった。

「今度は中に出していいかい?」
「いいわよ。そのほうが気持ちいいもの」
「妊娠は怖くないのかい?」
「こうちゃんの子なら産んであげる」
「へぇ。それはプロポーズと取ってもいいのかな」
「ふふふ」
明言を避けた尚子だった。
おれの方が、気後れしてしまい、やっぱり外に出してしまった。
「なんだ、外にしちゃったの?お子様ねぇ」
そう言って、尚子はおれのおでこを弾いて、バスルームに消えた。