木星軌道上にある、我が「なおぼん艦隊」は衛星「イオ」からの「テクネチウム含有鉱石」を運搬する惑星間船団を護衛すべく、旗艦「曙(あけぼの)」、巡宙艦「十字星」、「黎明(れいめい)」の三隻で展開していた。

「なおぼん艦隊」のごとき独立系護衛艦隊は雇われてなんぼの成果主義で、連戦連勝しないと食いっぱぐれて、「アブラ代」にも事欠くことになりかねない。

安かろう悪かろうでは、信用問題なので、非常に苦しい経営を余儀なくされている。

社長兼艦隊司令のあたし、横山尚子「曙」艦長と、吉田悦子副長、上条和子上等無線技士、山本ハテナ砲術長以下略のメンバーで運用中である。

空戦部隊も一応、二十機の戦闘攻撃機「おりひめ」が配備されている。
彼ら(彼女ら)は別の防衛会社で、こういったいろんな中小零細防衛会社がジョイントベンチャーを形成して事にあたっているのだ。

さて、あたしたちが活動の場にしているこの宇宙・・・

宇宙空間はだれのものでもなく、何をしてもよく、何をされても文句は言えないところなのだ。
まったくもって、無法地帯なのである。

裁判はできても、証拠集めができないので、事実上、訴訟にならないのだ。

だから、危険を冒してでも、略奪が絶えない。
絶対真空の世界で、そんなことができるのは、「鬼のキム」集団しかない。

数々の通商オービタル(軌道)を破壊し、レアメタルの略奪と価格操作で巨万の富をなしている。
「キムヘ、キムへと草木もなびく」と民謡にも歌われる存在だ。

その昔、地球に生まれた、客家(はっか)という人々が祖先という、キム集団。

そんなことはどうでもいい。

要は、この船団を首尾よく守備して(シャレかい)、ボーナスをいただけたらと思っている艦隊司令であった。

「艦長、かみのけ座の方向に、高速移動体が赤方偏移しながら本艦を横切ります」
上条和子がマジックテープをはがして、座席から浮き上がり、体を捻りつつ知らせた。
無重力で我々は、体型が丸くなりつつあった。
「遠ざかってんねんやろ?関係ないわい。近づいてくんのを注意せい」
レーダーは、近い範囲しか効かない。
跳ね返ってきても、十日もかかっとったら、レーダーの意味があらへん。

宇宙はあまりにも広い。
だから、何事も悠長である。
敵が撃ってきても、着弾点には、我々はすでにいないのだ。

護衛など、ほんとは赤子の手をヒネるように容易(たやす)いのだ。

広い宇宙とはいえ、さまざまなものが飛び交っている。
たいがい、無人のリモート船で、決まった航路をコンピュータが操っている。
これを海賊どもが狙うものわけないこっちゃ。

木星の衛星、イオには人が住んでいて、たいそう繁栄していた。
ガニメデとかエウロパにも植民地がある。
この星間を艦船が行き交う。

タングステンとか重い金属がよく出るそうだ。
「曙」のシールドもここのタングステンを一部使っている。
宇宙線とか有害な放射線を遮断すべくそういう重い金属が艦には必要なのだ。

本艦の右舷に、巨大な木星が明るく見えている。
もっとも直接ではなく、モニター越しだけれど。

大赤斑はここからは残念ながら見えないが。
あれは、巨大な「台風」みたいなもんだと言われている。
じっと見ていると、渦がゆっくり動いている。
地球がすっぽり入ってしまうほどの大きな台風だ。
電磁波も発しており、空電がひどい。
特別なフィルターでノイズリダクションをしなければ無線通信は不可能だ。

「出るんか、この空域」
あたしは副長のえっちゃんに訊いた。
「ええ、二、三日前に機雷を敷設したという情報があります」
「ふうん」
「黎明(れいめい)から電文。座標(102、23、267)に不審船を発見とのこと」
和子が低い声で知らせる。
「本艦原点の極座標で言うたらどこや」
「このへんですね」
スクリーンの擬似天球に和子がカーソルで示した。
「ちゃうな」
「何がです?」
「キムやない」
「そうですか」
「あいつらが単独でうろうろするかいな。多分、パケット(コンテナ)船や」
パケットとは重力を利用して、カタパルトで打ち出す無人船である。

「さて、そろそろ、お客さんの護衛につくで」
もうすぐ、会所座標に到着する。
そこで一時待機するのである。

なおぼんのスペースオペラが始まります。
「続くのこれ?」
「たぶん」