そのころ、大学ではTSS(タイムシェアリングシステム)という施設でコンピューターを扱わせてもらえた。
大きな箱がずらりと並んだ部屋がコンピューターの本体で、そこからテレビ画面とキーボードが数十台につながっているの。
みなさんはLL教室って高校時代にありませんでしたか?
まあ、あんな部屋ですよ。

空調が整っていて、一番後ろの壁際に大きなプリンターとかX-Yプロッターなんてのが置いてあったわ。
TSSは、それでも予約しておかないと、さらに情報工学の履修をしていないと使えないの。
IDカードを入り口で見せて、端末にもIDとパスワードを打ち込んでやっと使えるのね。

課題とかは、TSSでやりたいのよ。
なんてったって、すぐにデバッグできるから。

フォートラン言語とかコボル言語なんかを授業でやるのね。
そんで、課題が出るのよ。
夏休み中に仕上げて九月の最初の授業で提出するわけ。
それが前期試験の代わりになるってこと。

TSSを使わない場合は、パンチカードよ。
どっちにせよ、パンチカードは必須ね。
あれでプログラムを用意しておかないと、安心できない。
あのね、記憶媒体がなかったのよ。
USBみたいなのとか考えられない時代よ。
磁気テープとか磁気ドラムとか、でっかいフロッピーとかは高級品でしたし、個人、それも一学生が使わせてもらえるわけがない。
だから、パンチカードなの。
一万円札くらいの薄黄色の厚紙でできててね、タイプライターとミシンが合体したようなパンチャーで穴を開けるの。
光学的に読み取るのよね。
マークシートと同じよ。たぶん。
コマンド一行ごとに一枚を使うので、簡単なプログラムでも数十枚にもなる。
大学生協でパンチカードの束を大量に買って臨むのよ。
で、そういうパンチ専門の部屋があって、こっちも込み合ってんだ。
順番待ちよ。

フォートランという言語はベーシックのようにコマンド文ごとに翻訳して機械に渡すインタプリタ言語じゃないのね。
コンパイラという翻訳プログラムがコンピュータ側にあって、プログラムの塊を一括して翻訳して機械に渡すの。
TSSの場合は、一見してインタプリタみたいに、RUNするとすぐに結果が出るので人気が高い。

パンチカードはホッパーにカードの束をセットして、読み取り作業をさせてから、RUNするんだけど、実はすぐには結果が出ない。
早くて数時間後、遅かったら明日の昼とか・・・
出た結果が「白紙」の大量生産だったりする。
「な~んも印刷されてない!」
バグが発生してて、たった一文字の間違いでこんなエラーに。
今の時代なら考えられないでしょうね。

「おう、なおぼん、やってんな」
電子工学科の織田先輩がうしろから声をかけてきた。
「あ~ん、織田さん、もう、頭が沸いてますねん」
「なんの課題や?ルンゲ・クッタか、最小二乗法か?」
「最小二乗法と標準偏差、ほんで頻度をグラフ化するんです」
「おれの見せたるわ。今日、下宿に取りにおいで」
「恩に来ますぅ」
織田先輩は、さすがに電子工学科の四年生なんで、こんなものはお手の物なのだ。
応用化学科の女子学生はふつう、情報工学なんか取らない。
あたしはバビル二世のようなコンピュータを扱えるという憧れだけでこの授業を申し込んだのが間違いやった。

織田さんの下宿は、菖蒲で有名な公園のそばにあった。
今年の春に、友達数人と先輩の下宿に行ったけど、玄関までだった。
大人数ではとても入れない、狭さだったから。

ミスドのドーナツを手土産にそこを訪ねたあたし。
下足場に靴を脱いで、便所で使うような濃い緑のスリッパに履き替えて奥のほうに進んだ。
ぺたぺたぺた・・・
「ODA」とドアに貼ってある。明かりが点いていた。
ノックすると、声がした。
「入り」
「おじゃましますぅ」
「早かったんやな。まだ四時半やんか」
「今日はもう、あたし授業がないんで」
「ま、汚いとこやけどあがって」
確かに、散らかりまくり倒していた。
男の下宿なんて、こんなもんだということは、大学に入ってすぐに経験済みだったけど。
窓にはめ込む式のエアコンが動いて、涼しくはあった。
そして、カレーのにおいがしていた。
机の上にタンディラジオシャックのマイコンとカレーヌードルが置いてあったので、なるほどと思った。
「座って・・・言うても座るとこがないな。ほら、ここやったらどうや」
ASCIIとかマイコンとかの雑誌の山をベッドに放り投げて隙間をつくってくれた。
あたしは、とにかくそこに腰を下ろした。
「コーヒー入れるわ」
「おかまいなく。あ、これ食べてください」
あたしは、もってきた土産を目の前に差し出した。
「ありがとぉ。おれも飲もうと思ってたとこやったし。お湯も沸いてんねん」
インスタントのコーヒーが運ばれてきた。
「暑いときに、熱いもんもええやろ」
「ぜんぜん。冷たいのはおなかこわしますし」
「ミスドか。うまいよな。いただこ」
「どうぞ」
「なおぼんも食べて」
「はい」
フレンチクルーラーばっかり四個だったけど、そのころは流行ったのだ。

「これ」
出力用紙の束を渡してくれた。
「最小二乗法のプログラムがここな。ここからサブルーチンで偏差値、標準偏差、分散がここ。最後にヒストグラムや」
「うわぁ、これで完璧ですわ」
「ま、わけないこっちゃ。偉そうに言うてるけどぉ。わははは」
豪快に笑う織田先輩。
急に真顔で、
「なおぼん・・・お前、好きな人とかいるんか?」
「へ?」
そりゃ、一人や二人はいるけど・・・
「い、いませんよ」
なんて、答えるわたし。
織田さん、あたしが欲しいんや・・・直感でわかった。
「おれは、なおぼんが好きや」
いきなり、告白されてしまった。
「ありがとうございます・・・」
ご丁寧なお礼が口から出た。
「なぁ。ええやろ」
そう言って、肩に手を回してくる先輩。もうすぐそばに顔が来ていた。
「あたし・・・」
「あかんか?」
あたしは、でも、先輩のこと嫌いじゃないし、このまま断って、帰ってしまうのも恥をかかせるようでできなかったし。
「いいよ」
あたしは、決心して、先輩の口に自分の口を持っていった。
織田さんはひっしと口を押し付けて、キスを受けてくれた。
でも舌が入ってこない。
フレンチキッスを知らないのだ。
あたしは、ゆっくり舌先を彼の唇に割り込ませた。
驚いた表情の先輩の顔を薄目でながめながら。
工学部の男子学生なんて童貞ばっかりなのだ。
別に恥ずべきことではないと、後輩のあたしは生意気にも、そう思っていた。
じきに、先輩の口が緩み、あたしの舌と自分の舌を絡めるように口づけを楽しみだした。
カレーの味のする熱い口づけ・・・
低いベッドに移動し、あたしは汗臭いシーツの上に横たえられた。
ぎこちない手が、あたしのクリーム色のポロシャツのボタンを外す。
あたしは目を瞑(つむ)っていた。
「かわいい・・・」
そんなことをつぶやいていたみたいだった。
「胸、おおきいんやな」
「そうかな」
「こんなこと、初めてか?」
「うん」あたしは嘘をついた。
こういう嘘はつかねばならない嘘だった。
「ほうか・・・おれも、や」
先輩は嘘じゃないようだった。
目が、そう言っていた。
ジーンズの硬いボタンを外そうとするけれど、彼の手が震えていてうまくいかない。
あたしは、助けてあげた。
自ら、ズボンを脱いで、ショーツ一丁になってあげた。
「うわぁ、きれいな体・・・」
「はずかし・・・」
先輩もTシャツを脱いで、パンツだけになってしまった。
もう後へは引けない二人だった。
「おれ、風呂に、はいってないけど」
「あたしかて、おんなじですやん」
「サックも、もってないねん」
コンドームのことをサックという人に初めて会った。
「外に出してくれはったらいいですから」
あたしは、そういうほかなかった。
「ほな、ええか」そう言って、先輩はショーツの腰ゴムに手をかけてきた。
あたしも腰を上げて脱がせやすいように協力した。

ブラは、彼に外してもらうことにした。
男性はそうしたがるもんだと思っていたから。
案の定、先輩はあたしを起こして、背中のホックを外そうと懸命だった。
「ちょっと待ってな」
「硬いでしょ?」
「ううん。大丈夫」
あたしの胸が突っ張って、外しにくくなっているようだったが、なんとか先輩はやり遂げた。
おそらく童貞であろう織田先輩の目の前に一糸まとわぬ乙女(?)が横たわっている。
「なおぼん・・・」
「先輩、やさしくしてくださいね」
「ああ」
そう言って、顔を陰部に近づけた。
「汚いですから、あまり・・・」
「いや、いいんだ。見せてくれ」
あたしは、恥ずかしかったけど、股を開いた。
たぶん、夏だから臭うだろうな・・・

指があたしの割れ目を探っている。
そして、いきなり舐められた。
「あっ。だめ。織田さん、やめて、汚いから・・・」
「ううん。汚くない。きれいだ。きれいだよ」
そんなことを言いながら、丁寧にクンニをしてくれる。
あたしは、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「あはっ。はうっ。いやっ」
身をよじるが、先輩の太い腕で体は抑えつけられている。
もう、恥ずかしいくらいに濡れていたと思う。

「なおぼん、入れていいか?」
あたしは潤んだ目でうなずいた。
足の間に先輩が割り込み、その腰には隆々と立ち上がった、大きなペニスがあたしの方を向いていた。
浩二のよりもずっと大きなそれは、あたしの中に入るのだろうか?
先輩が指で探りながら、膣の入り口に亀頭を当てている。
やはり、初めてなのだろう。
どうやって入れるのかわからないようだった。
「あの、あたし、上になりましょうか?」
「え?なおぼんが?」
「あたしも初めてでわかんないんですけど、そのほうが入れやすいかなっと」
とかなんとか言うあたし。
とにかく、織田先輩に仰向けに寝てもらって、あたしが彼をまたいだ。
浩二としたときも、そのほうがやりやすかったのだ。
「うわ、なんか、やらしいね」
先輩がにやにやして言う。
「そうですね。女がこんな格好でなんてね」
あたしも、そう答えた。
あたしは上半身をかがめて、先輩の屹立に手を添えて、ひざをついて狙いを定めた。
手に持った感触でも「太いなぁ」と思った。
膣口に当てて力を入れるが、きつい。
「うっ。硬ったぁい」
「痛いのか?なおぼん」
「うん、ちょっと・・・でも、待って。先だけでも入ると思う」
めりめりと音がするんじゃないかという感じで、先輩のモノがあたしを裂く。
だいたい、あたしだってそんなに経験がないので、処女に近いのだった。
十分潤ってはいるのだけど、なかなか・・・鋭い痛みも走る。
玉の汗が額から、腋の下から、だらだらと流れるのが感じられた。
「ああ、気持ちいいよ」
そんな気も知らないで先輩は恍惚とした表情だった。
ようやく、あたしのあそこは、緩み始め、先輩を感じることができるようになった。
すこし動こうと、腰を上げる。
抜ききらないようにして、またゆっくり差し込んでいく。
圧力を感じながら、それがだんだん快感に転じていくのだった。
「ああ、いい。織田さん、ええわぁ。おっきくて硬い」
「そ、そうか。ええか」
自信なさげだった織田さんの顔に、余裕が表れてきた。
下から突き上げるような先輩の腰の動きにあたしは声が出てしまう。
「ひっ。あっ、くっ。だめっ。だめぇ」
「ええのか?このままやったら、おれ、やばい」
正常位にしたいと先輩が言ってきた。
騎乗位では膣外射精がままならないからだ。
あたしは転がされ、上から貫かれた。
重い先輩の体重を感じながら、せんべい布団に押し付けられるあたし。
お互いの汗で、布団はじっとりと湿り気を帯びていた。
屈曲位で奥深くまで差し込まれ、膣がめいっぱい拡げられて犯された。
先輩の腰の動きが速まり、ほどなく絶頂を迎えるような感じだった。
あたしも普段とは違う快感に酔いしれていた。
「ああ、ああ、出る、出るで・・・」
「織田さん、外に、外に、おねがい・・」
「わかってる、わかってるよぉ。うりゃあ」
ずぼっと胎内から抜かれて、おなかの上やらおっぱいに熱い液体が弾け飛んだ。

あたしは彼の尿道から何度も白い液体が自分に向かって噴出するのを注視していた。
それを見て、また絶頂感が襲ってきたのだった。

「なおぼん、ありがとう」
「織田さん・・・あたしもよかった」
また口づけを交わして、あたしたちは少し眠った。