びーびびびーびーびびび・・・
大音量で空(から)ふかししながら、改造した原付が佳奈の後ろを追うようにゆっくり走る。
田んぼの中の一本道で、夕方は人通りがまったくなかった。
「おい、おまえ、ちょっと遊ばへん?」
金色に毛の色を抜いたゴクウみたいに立たせてるアンチャンが佳奈のそばに止まって言う。
「いやや・・・」
中三の佳奈はクラブの帰りで、サッカーのユニフォームのままで、そう答えるのが精一杯やった。
立ち止まったまま、佳奈は恐くて下を向いていた。
男子学生はたぶん佳奈の通う中学の卒業生とみられた。
「な、ええやん。ちょっとこいやぁ」
すごんで佳奈の肩に手をかける不良。

「こらぁ。お前、なにやっとんねん。しばくぞぉ」
「なんやおばはん!」
「だれがおばはんじゃ。ぼけ。ガッコも行かんと、こんなとこでナンパしくさって。やるんかい。やるんやったらバイクから降りろや」
※大阪、なかんずく門真市で幼少期を過ごすと男女問わず、口が悪くなります。小学校の頃から喧嘩は口合戦から始まりましたから。

「なおぼんおばちゃん!」
佳奈ちゃんが、泣きそうになって、あたしに抱きついてきた。
「もうええ、心配しな。後ろに行っとき」
あたしは、アンチャンの胸ぐらをつかんで、シャツのボタンを引きちぎった。
バイクががしゃんと倒れる。
そしてそのまま襟をつかんで背負い投げを食らわした。
合気道やっといてよかったわ。
「おまえな、シンナーとかタバコ吸ってるから、そんな弱いんじゃ。青白い顔して、どうせインポやろ」
「うっさいわババァ!」
性懲りもなくつっかかってきよる。足を払って右手を反対にねじる。
「いたっ。うあ、折れるから、やめて」
「折ったろか。わけないで」
「わかった、すんません。ゆるして・・くださ・・い」
「よっしゃ、いってよし!」
男の子は、バイクを起こして反対方向に逃げようとキーを回してエンジンを始動した。
ぶっぶぶっぶぶぶー
「あほが。Kちゃん、だいじょうぶか」
「お、おばちゃん。すごい」
「あんなもん、わけないわ。あんたこんなとこ一人で歩いたらあかんがな。あたしが通りかからんかったらえらい目に会うとったで」
「ありがとー。なおぼんおばちゃん」
「なおぼんでええ。よしよし」
あたしはKちゃんの頭をなでてやった。
「なあ、インポってなに?」
「へ?」
あたしは、どう答えていいかとまどった。
「インポはあんなやつを言うねん。自分で立てへん、ふにゃふにゃなやつをな」
セミが鳴き、夕日が山間に沈もうとしてた。
二人の影が長くのびている。