柿が美味しい季節です。
渋柿は渋(しぶ)を抜かねば食べられませんね。
そこで、いろんな渋抜き法が、考えられました。
①完熟させる(熟柿)
②皮を剥いて干す(干し柿)
③加温(38℃程度)による追熟
④エタノールを用いる(焼酎漬け、さわし柿)
⑤二酸化炭素を用いる(ドライアイス)
ざっと、こんなもんでしょうかね。

このお話をする前に、なんで「渋く」感じるかを調べておきます。
サルや鳥たちの中には渋柿でも食うやつがいますんでね。
彼らも渋味は感じているらしいよ。やっぱり、熟してからのほうが食いつきがいいから。
柿としては未熟果を食われると子孫繁栄ができないので、完熟して甘くしてから食べてもらうように、若いうちは渋を残してるんだといわれます。

ですから、柿渋の原因化合物はカキタンニンです。
タンニンはカテキンの仲間で、フェノール性水酸基を分子内に多数持っていますから、水溶性です。
これが唾液に溶けて味蕾(みらい)に到達して堅固な結合をしますから渋いし、その味がなかなか取れない。
ところが、先にアセトアルデヒドとカキタンニンが結合するともはや水に溶けないから、味としては感じないのね。
同時に、熟すると柿の実の中では果糖などの糖が作られます。
それが甘いのよ。
で、甘柿はカキタンニンがすでに不溶化してるんですよ。
黒い点々が実の中にあるでしょ、あれが不溶性タンニンです。

柿はその実の中でいろいろな化学反応を起こしています。
そのうち、解糖系というサイクルがあってピルビン酸という物質を作り出しています。
これが無酸素状況になると、ピルビン酸はアセトアルデヒドに変化しますから、これとカキタンニンが結合すれば渋は感じないんですね。
渋柿も完熟すると甘くなるの(①)。
いわゆる熟柿(じゅくし)って、トマトみたいにやわらかくなった柿があるでしょ?
あれは渋柿でも、とっても甘い。

柿はね、皮を剥くと果肉表面に皮膜ができ、呼吸不全を起こして、やっぱり無酸素状態になるの。
すると、果実内にピルビン酸由来のアセトアルデヒドが蓄積して、これがカキタンニンと結合して不溶化するので渋みを感じなくなる。
だから、干し柿は皮を剥いてから野外に晒すのよ(②)。

完熟の経験から人工的に追熟すれば、柿渋は抜けることにも人は気づいたのね。
そこで、人肌程度の温湯に浸ける方法が考案されたの(③)。

焼酎漬けは干し柿の次に広く行われている渋抜きです(④)。
これはね、焼酎のエタノールの酸化によるアセトアルデヒドの生成を促して、これとカキタンニンを結合させ不溶化させるの。
やりかたが積極的でしょ。
焼酎で抽出されたタンニンは取っておいて、柿渋エキスとして、渋紙(撥水効果)に利用されるわ。
水に溶けないんだから水をはじくので、番傘とかに使われたようね。

近年、ドライアイス中に渋柿を密閉し、気化した二酸化炭素で渋柿を窒息状況に置くことで、柿の渋が抜けることが発見されました(⑤)。
広島の西条柿はこの方法で甘くして出荷されているわ。
最近多い種無し柿も渋柿で、ドライアイスを使って渋抜きしているようよ。
渋抜きをした柿は追熟も進むので、早く食べないとすぐにトマトみたいに「熟柿」になっちゃうよ。

種無し化は、ジベレリン処理か倍数体交配によるものだそうです。
奇数倍体では減数分裂が起こらず、種ができません。