小学校の上映会で「父ちゃんのポーが聞こえる」という映画をみんなで観たことがあった。
映画の最中でも教室ですすり泣く音がいっぱいしてた。

観た人は、必ず号泣してしまうという名作なのに、なぜかビデオとかDVDでは手に入らない。
※「父ちゃんのポーが聞こえる」がYoutubeにダイジェスト版でアップされてます。
あたしだって、こんな切ないことがこの世にあるのかと、今の幸せを噛み締めたものだった。
学校から帰って、母に抱きついて、また泣いた。
「どうしたん?尚子」
「うぇ~ん」
「だれかにいじめられたん?」
「ううん」
水っぱなを母の割烹着になすりつけて、懐かしい匂いを嗅いだの。
落ち着いたあたしは、映画のことを母に話したわ。
つたないあたしの説明だったけれど、母さんも泣いてくれた。

小林桂樹が田舎の蒸気機関士のお父さん役で、主人公が娘役の吉沢京子だった。
たしかお姉さんもいて、お母さんはお仏壇に遺影があったから、もう亡くなってて、父子家庭なのね。
そのお姉さんも近く、結婚して都会に出てしまうことになっていた。
そうなると、ノリ子(吉沢京子の役名)と父の二人暮らしになってしまうわけね。
お父さんの相棒に藤岡琢也が石炭を釜にくべる助手をやっていて、ノリ子を養女にほしいって言い出すの。
小さい頃から藤岡琢也扮する「おじさん夫婦」にノリ子は面倒を見てもらっていて、よくなついているし、自分らに子がないから、ぜひ家に迎えたいと言うのね。
小林桂樹は「それはできない」とつっぱねるの。
ノリ子まで家を出て行ったら、お父さんはひとりぼっちになってしまうしね。
ノリ子は、だれよりも「お父さん子」なんだから。
そして、姉と過ごす最後にと、父と三人で旅行に出かけるの。
そこで、それは、それは楽しい時間を過ごすのよ。

旅先で、ノリ子ははしゃいでこけちゃうのね。
それは、別に、よくあることで、姉も父も気にしていなかった。
でも、それからよくノリ子は転ぶようになるのよ。
「変だな・・・一度医者に見せるか」
お父さんは、ノリ子を町医者に連れて行くのね。
そしたら、そのお医者さん「偏平足」だからよく転ぶんだって診断するの。
お父さんもノリ子も安心して帰ってくるけど、実は、重大な疾患が彼女を襲う前触れに過ぎなかった。

だんだんノリ子は歩くことも難しいくらいになってしまうのよ。
さすがにこれはおかしいとお父さんも大病院へ彼女を連れて行くわ。
「舞踏病ですね」
医師はお父さんに妙な名前の病気を告げるの。
正しくは「ハンチントン舞踏病」と言うらしいけど、不治の病でね、筋肉が勝手に動いて、最後は呼吸もできなくなって亡くなる病気だというのね。
お父さんは苦悩するけど、ノリ子には本当のことを告げられない。
このままだと、寝たきりになるので、機関士のお父さんはノリ子の面倒を見られない。
病院に入院してもずっとはいられず、転院させられるの。
そこは山間部のサナトリウムのようなところで、木造の粗末な療養所だったわ。
ただ、近くをお父さんの運転する、C57が通る線路が走っていたわ。
そこなら、完全看護を受けられるっていうのね。

一人寂しく、ノリ子が病床に臥せっていても、毎朝、療養所の下を通過するときに汽笛を鳴らす約束をするの。
いつも決まった時間に、お父さんに会える・・・
もう、ここまでで、あたし涙腺が、だめ・・・
※当ブログ「泣かしたる」で心の自慰のことを書いたけど、これも「おかず」にお勧めです。

ノリ子は家に帰りたいって泣くわ。
夏に、お父さんが見舞いに来て、二人で小さな花火をするの。
このシーン、ものすごく、印象に残ってる。
洗面器に、お水の汲んでね、花火をするの。

お父さんの運転する機関車が、ある日踏切事故を起こすのよ。
悪いのは踏切に突っ込んできたトラックなんだけど、お父さんは大怪我して入院してしまう。
当分、機関車の運転はできない。
ノリ子はそのことを知らないの。
お父さんは、相棒の藤岡琢也に頼むわ。
「あの子のいる療養所の下にさしかかったら、俺の代わりに汽笛を鳴らしてほしい」と。

もう、かなり病状が進行して、ノリ子はベッドから起きられないほどになってしまっていた。
ナースコールだけが命綱だった。
早朝、いつもの時間にノリ子の枕元の目覚ましが鳴り、不自由な手でカセットテレコをつけ、音楽を聞く。
そして、父の鳴らす(ほんとは藤岡さんが代理)汽笛、ポーを聞くの。
「ああ、お父さん・・・」
ノリ子の容態が急変し、ナースコールに手が伸びる・・・
でも、もう自由のきかない指は、ナースコールに触れるけれどボタンを押せない。
万事休す・・・
ひとりぽっちで苦しみもだえながら、ノリ子は息を引き取ったわ。
安らかな表情だった・・・
気付かれるのはずっとあとなんだろうな・・・

ノリ子のモノローグが流れる。
「お父さんが大好き。お父さんのために、もっと生きたかった・・・」

ギプスでがんじがらめになったお父さんのもとに、司葉子扮する後妻さん(とっても優しいんだよ)から、ノリ子が今朝、一人で旅発ったことを告げられるの。

「少し、一人にしてくれないか」
お父さんは言うわ。
司葉子さんが病室から出て行って、しばらくして、絞るように泣くお父さん。

ああ、あたし、ごめんなさい。
もう書けません・・・