『水滸伝』のテレビドラマ版です。
2011年ごろに中国で、莫大な金をかけて作られた大作でして、YouTubeでも断片がアップされていましたが、このほど、誰かさんのご好意で日本語吹き替え版全編(?)がアップされました。
https://www.youtube.com/watch?v=S4gCUvyKIz8

日本でもかつて中村敦夫主演の数回のドラマが日本テレビ系でありましたが、あんなもんじゃない。
舞台が中国大陸なんで『レッド・クリフ』並の壮大さが求められます。

「水滸伝」とは「水のほとりの物語」程度の意味です。
現代中国にはない、義理人情に厚い、好漢(おとこ)たちの物語なんですね。いまさらだけど。
このドラマ、長いのであたしも1~4篇を観ただけです。
漢を(おとこ)と日本で読ませるのは、漢の時代に由来があります。
漢字もそうだけど、漢という漢民族の国家こそ、中華の中華、だから漢の男性は「男の中の男」でなければならない。
そういう妄想が「漢」もしくは「好漢」を「おとこ」を読ませるんじゃないかな。
文字の意味(解字)からは「男」という意味はない。
なぜなら漢は川の名前だから。
日本にだけ「痴漢」という蔑む言葉があるのね。

原作は岩波文庫の全十巻を若い頃、読みました。
吉川英治の四巻ものや、横山光輝の漫画シリーズも読んでおります。
もう、それほど好きなんですよ。

このドラマは原作と違って、及時雨宋江(きゅうじうそうこう)のエピソードから始まります。
宋江は、今の山東省にあった、宋時代の渾城県(うんじょうけん)の木っ端役人ですが、人望が厚く、弱きを助け、強気をくじく、見た目は貧相な色黒の男です。
『宋史』に見える人物ですから、実在したのでしょう。
義に厚いのは、誰にも負けないから、慕う人が跡を絶ちません。
「及時雨」という渾名(あだな)からも「乾いた土地に降る恵みの雨」という意味が見て取れます。
そういう人なんです。
この宋江に、怪しい風体をした「公孫勝(こうそんしょう)」と名乗る行者が近づきます。
公孫勝は、ある物語を宋江に聞いてくれと持ちかけます。
原作と違うのは、公孫勝の語りが、洪信大尉の話なんですよ。
水滸伝のきっかけとなる、勅使洪信が伏魔殿から百八つの悪魔星を世に放ってしまう愚行の話です。
それら中国大陸に散らばった百八つの星は好漢(女も数人います)に生まれ変わり、世直しのために三々五々、梁山泊に集まってくる物語が水滸伝なんですね。

そして最後に、彼は宋江に、「北京(ほっけい)の梁中書から宰相蔡京に毎年五月ごろ、蔡京の誕生日を祝って、貢物が贈られる。この行列を襲って貢物を奪い取ろう。そうして、搾取されている民に戻してやろう」と強奪を誘うのです。
梁は蔡京に、毎年、民から搾取した財で賂(まいない)を贈っていたんです。

宋江はこれでも役人ですから、お上にたてつくような不遜な行為に与(くみ)することができない。
いくら義賊の片棒を担ぐといっても、それはできない相談だったのね。
そして宋江は、公孫勝を疑いつつ、その場で袂(たもと)を分かちます。
しかし、公孫勝はお尋ね者であり、宋江が彼と密談していることは上司にバレていて、そのまた上に報告されていました。
宋江の上司は「おまえはいずれ死刑になる。梁中書様の貢物強奪共犯の嫌疑がかかっているからな。疑いを晴らすには、公孫勝を捕まえてこい」と命じます。

宋江は警備の都頭の雷横とともに東渓村内を巡回し、その途中、いつもの廃寺に人の気配を感じ、忍び入ると、さんばら髪の大男が半裸で大いびきをかいて寝ていました。
最初、公孫勝かと見紛いましたが、どう見ても容貌が違いすぎる。
捕まえようとしますが、こいつ、めっぽう強い。
雷横と警備の男たちは、束になってなんとかこの大男をお縄にして、晁蓋に差し出すつもりで早朝、渾城県東渓村の名士、托塔天王(たくとうてんのう)とあだ名される晁蓋(ちょうがい)を尋ねます。
名士は警察の役目も果たしていたらしいね。

宋江は晁蓋から早朝にも関わらず酒席の厚いもてなしを受け、彼に、「公孫勝とかいう詐欺師があなたに接近して、儲け話(貢物強奪の話)を持ちかけるだろうが、乗っちゃいけない」と釘を差します。
晁蓋は、宋江が銀子(ぎんす)の入った財布を落としたというので、探すのに一人屋敷を抜けました。
そのときに納屋につながれた大男を認めます。
宋江たちがしょっぴいてきた雲助(くもすけ)でした。
晁蓋は、その雲助がただものでないと察し、彼の話を聞きます。
雲助は赤髪鬼劉唐(りゅうとう)といい、こめかみあたりに赤い痣(あざ)があるのでこの渾名だと言います。
公孫勝が企てている儲け話は、晁蓋が先に劉唐から聞かされていたのです。

蓮畑のそばから財布を見つけて戻った晁蓋に、宋江も公孫勝の企てを話し、おまけに「誘いに乗るな」と言うのね。
晁蓋としては、どうしたものかと悩みますが、ひとまず宋江には伏せて、劉唐の話に乗ることと腹を決めたようです。
晁蓋は曲がったことの大嫌いな性格で、役人の不正を許せなかったのね。
だから木っ端役人の宋江の言に従うより、劉唐や公孫勝の企てのほうが民のためになると信じたんだね。

宋江が、雲助を晁蓋に目合わせると(もう彼らは先に会っている)、雲助が「おじさん、おれだよ」と芝居を打ちました。
晁蓋も、「お前は、甥っ子の…」と小芝居を始めます。
宋江たちは「なんだ、お知り合いでしたか」とまんまと騙され、晁蓋が「甥っ子」を見逃してもらったお礼にと銀を渡すのですが、宋江は受け取らず、雷横が「それじゃあ」と横取りします。
劉唐はそれを見て、雷横に反感を持ちます。
「この小役人め…晁蓋様のお気持ちを解さない男だ、勘弁ならねぇ」
晁蓋と劉唐はあらかじめ口裏を合わせて、彼を宋江から助けたのでしたが、雷横を許せない劉唐は宋江一行を追います。
宋江一行は、途中、宋江が梁山泊方面の湖水地方に行くと言って離れます。
公孫勝が阮(げん)兄弟という好漢を訪ねたらしいという噂があったからです。
阮三兄弟は湖水地方で漁師をして生計を立てていましたが、義理に厚く、腕も立つと知られていました。

ようやく劉唐が追っかけてきて、雷横に「路銀を返せ。それは宋江殿に晁蓋様が与えたものだ」とすごい剣幕でまくしたてます。
※原作では劉唐が「もともと罪人でもないのに、捕まえられて解き放たれるのに金(かね)を渡す道理が通らない」といって、それを受け取った雷横たちを追っかけるのが理由だったとあたしは思いますけどね。

いきなり二人の激しい剣戟が始まりましたが、決着がつかず、通りかかった呉用が割って入ります。
呉用は晁蓋宅の近所で、子供らに勉強を教える私塾を開いている人望厚い先生でした。
人呼んで智多星(ちたせい)の呉用です。
後に、梁山泊に招かれ、軍師として大きな働きをする人物です。
雷横と劉唐を引き離し、劉唐とともに晁蓋宅に呉用が訪れます。
そうして、貢物略奪の謀議を行いました。

阮三兄弟と白日鼠白勝(はくじつそはくしょう)を加えた八人で、この強奪を行い、梁山泊入りの手土産にするのですが…

当時の梁山泊は白衣秀士(びゃくえしゅうし)の渾名をもつ王倫(おうりん)が首領の盗賊団で、決して義賊集団ではなかった。
梁山泊周辺の民は阮兄弟を含めて、梁山泊の荒くれ者たちに、上納金を取られていじめられていたと言っても言い過ぎではなかったらしい。
そして、役人の厳しい税の取り立てにも民は挟まれ、とても苦しんでいたんだ。
晁蓋たちは、そういう理不尽に普段から嫌悪感を抱いており、梁山泊こそ義賊集団として民を助ける側につくものとして新天地を求めたのね。
王倫は狭量で、自分より人望の厚い晁蓋のような人物が梁山泊に入山し、自身の立場を危うくされるのを恐れたから、無理な入山試験を課すのよ。

宋江と雷横や、禁軍師範の豹子頭林冲、貢物輸送団団長で貢物をまんまと晁蓋らに奪い取られて詰め腹を切らされる運命の青面獣楊志などが次々に梁山泊を目指し、王倫の不安は増すばかり。
そういう王倫の態度を好もしく思わない好漢たちも増え…

おもしろいですよ。
水滸伝
英語では「Water Margin」と訳され、つまり「水際(みずぎわ)」という意味ね。