カルニチンという化合物がある。
ダイエットに余念のないお嬢様方にはおなじみのサプリだね。

メチオニンというアミノ酸から誘導され生合成される物質で、筋肉(赤身)に豊富に含まれる。
「カルネ=肉」から見つかったからこの名があるのもうなずける。

なんでこれがダイエットに効果があるというのだろう?
効能を調べると、だいたい「脂肪(酸)代謝を促す」とある。
カルニチンは両イオン性化合物だ。
構造を見れば「ベタイン」構造であることがわかる。
つまり一つの分子の中にプラスイオン(カチオン)とマイナスイオン(アニオン)を示す官能基を持つ。
なかでも窒素カチオンの窒素回りの四つの手がすべてアルキル基でふさがっているのと、その一つにカルボキシル基を持つ構造を「ベタイン」というのだ。
基本の「ベタイン」はてんさい(ビート)に含まれる。
カルボキシベタインは両性界面活性剤としてベビーシャンプーに使われるくらいマイルドだ。

脂肪の基本物質「脂肪酸」はアルキル基の長いものを、栄養学的には指す。
長鎖のアルキル基の脂肪酸は当然、水に溶けないから、体液にも溶けにくい。
そうすると分解されずにたまっていくことになる。
そこで、石鹸のように界面活性効果のある物質で乳化されて取り込まれる必要がある。
そういう物質は体内に普通に存在し、胆汁酸なんかが有名だ。

そしてカルニチンもそういう界面活性効果で人体に有効に働く。
細胞内に目を向けると、タンパク質の合成や脂肪酸の分解などを行っている化学工場がミトコンドリアである。
ミトコンドリアは単分子膜(ラングミュア膜)で覆われ、それも二重膜になっていることがわかっている。
この膜を脂肪酸が通過しなければ「分解」は起こらない。
そのために界面活性剤の助けが必要なのだが、カルニチンがその役目を果たすらしい。
だから、カルニチンは脂肪の分解に必須な化合物を言われるのである。
カルニチンが脂肪酸を分解するのではないことに注意が必要である。

しかし、しかしである。
カルニチンにはD体とL体の光学異性体が存在し、生体内ではL体しか存在しない(由来物質がL-メチオニンだから)。
そして驚くべきことに生理活性が認められるのはL体のみであり、D体には脂肪酸分解活性の効果がないそうだ。
私は、先ほどカルニチンの界面活性効果について書いたが、界面活性効果の大小が光学異性体によって異なるという例をほかに知らない。

生体膜ではこういった細かい分子構造の差が「特異性」として現れ、進化していっているのだと理解するほかない。
一体、膜で脂肪酸とL-カルニチンはどんな複合体をつくって膜を通過するのだろう?
見てみたいものだ。

脂肪酸代謝に有効であることが、ほぼ実証されているL-カルニチンだが、そもそも不足するほど悪い食生活をしていないかぎり、普通の日本人の食事で十分供給されるそうだ。
ところが、現代日本人の生活習慣を鑑みるに、悪い食生活が一般化しつつある。
脂肪酸の取りすぎで、足りるべきL-カルニチンが相対的不足に陥っている。
だから無駄に太るのかもしれない。
そうするとサプリメントでL-カルニチンを補給することも必要になってくるのだろう。

老人ほど肉を食えとは、L-カルニチンの摂取の視点からは正しいというべきか…
筋肉を増やせばそれは解決するのだろうけれど、生活習慣が悪化しているとなかなか運動もできない。
ジンギスカン(羊肉)を食えばいいそうだ。
羊肉にもっとも多くカルニチンが含まれるそうだから。