肌寒くなってくると、ひろちゃんという男の子を思い出す。

小学校時代によく遊んだ、幼馴染の一人なんだけど、よく肥えた男の子でね、みんなから「百貫(ひゃっかん)デブ」と言われていじめられてたこともあったけど、本人はまったく気にしていない様子だった。

だいたい「百貫」ってどれくらいの目方(めかた)なのかわかんないし、この字だって中学になってから知った。
こんな「あだ名」、子供が言うかぁ?
大人の入れ知恵に決まってる。

昔の大人は口さがないというか、差別的な物言いを平気でしたものでした。
だから子供も真似するのよ。
悪しき慣習だわ。

で、ひろちゃんは肥えてるからかしらないけれど、体がとっても暖かいのよ。
だから、みんなべたべたくっついてあったまるのね。
冬だけ、彼はモテモテになるんだな。
夏は暑苦しいって敬遠されるのにね。

あたしなんか、ひろちゃんのふっくりした手を揉みながら、「あったかいねぇ、いいねぇ」とかなんとか褒めちぎって、触らせてもらった。
ほっぺたに持ってきて、温めてもらったりね。
やりたいほうだいよ。
冬の集団登校の朝のひと時はひろちゃんなしには考えられないわ。

どうしてんだろうね?ひろちゃん。
あの体は高校生になっても、そのまま山のように大きくなって存在していた。
柔道部に入ったとは聞いてたけど。

ひろちゃんは犬を飼っていて。
大きい、めんた(雌)のダルメシアンと、小さいおんた(雄)の白い雑種犬の二匹を飼ってた。
よくお散歩に、あたしはついていったよ。
稲刈りの終わった田んぼで、鎖を解いて二匹を遊ばせるんだけど、おんたの白犬が盛っちゃって、ダルメシアンに乗りかかるのよ。
小さいくせに。
そのわりに、真っ赤なおちんちんが長く伸びてね、気持ち悪いったらありゃしない。
「なぁに、あれ」
「ちんぽや。交尾したがっとんね」
「させるの?」
「あかん、あかん。雑種の変な犬が産まれるからさせへんね。こらっ!はなれぇ」
ひろちゃんが白犬を叩く。
キャンキャン言って、かわいそうにしっぽを丸めて小さくなってるけど、おちんちんは大きいまま。
ダルメシアンもまんざらでないのか、お尻を下げて、白犬が差し込みやすいように誘うのよ。
ぜんぜんやらしくないのは、あたしたちが人間のセックスについてほとんどまったく知識がなかったから。
犬は犬で、別もんだと思ってた。

そろそろ息が白くなるわね。
また歳を取るんだな。