ゲルハルト・シュラーダーはドイツの化学者で、IG(イーゲー)という化学会社に勤務していました。
彼が「神経毒ガスの父」の異名をつけられたのは、農薬研究からナチスによって軍事目的の研究に転向させられたからです。
有名な「サリン」を主導的に開発したのはシュラーダーだと言われています。
サリンは携わった化学者の名前を組み合わせて名付けられました。

すなわち「SARINE」のSはシュラーダーのSです。
あとオットー・ンブローズのA、ゲルハルト・ッターのRI、ハンス・ユルゲン・フォン・デア・リデのNEです。

ナチスは第二次世界大戦でサリンを手にしましたが、使わなかったのは事実らしい。
アメリカの偉いさんがそんなことを演説で言うてましたね。
ナチは終戦時、約7,000トンものサリンを保有していたらしい。
一説にヒトラーが第一次世界大戦で化学兵器(ホスゲンガスもしくはマスタードガス?)で目をやられ、その経験からゲッペルスの進言にもかかわらず使用に踏み切れなかったという嘘のような話が伝わっています。
ホスゲンについては以下を
http://www.group-midori.co.jp/logistic/bc/chemistry/choking_agents.php
マスタードガスについては以下を。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%AC%E3%82%B9

ヒトラーはユダヤ人殺害をするにあたり、彼なりに「苦しめず」にやりたがったのでしょうか?
ガス室(チクロンBによる青酸ガス発生)もIGの研究所で開発された殺虫剤でしたが、その使用による大量殺害は不可能だったとも言われています。
けれども、ガス室でユダヤ人が殺されたのは事実ですから、なんらかの毒ガスが用いられたのでしょう。

IG(イーゲー)という化学会社は第二次世界大戦まで存在したInteressen-Gemeinschaft Farbenindustrie Aktiengesellschaftというトラストです。
interessenとは英語のinterestと同義ですが、この場合「利益」とかそういう意味だと思います。
Gemeinschaftは「共同体」です。
Farbenは「色素」、industrieは「工業」、Aktiengesellschaftは「株式会社」です。
このことから、染料や人工色素の化学会社だったことがうかがえます。
しかし、のちに農薬にも展開し、神経毒の作用は農薬から発展した薬剤だったのです。
この会社が開発したものに「ブナ」という合成ゴムがあります。
ブタジエン(「豚自演」と誤変換しやがった!)をナトリウム触媒で重合させるもので、1930年代、天然ゴムが戦時下でひっ迫する中、航空機のタイヤ、車両のタイヤのゴムとしてドイツ軍を支えました。
ナトリウム錯体を触媒に使わずに、アクリロニトリルやスチレンと乳化共重合させる方法も発明されました。
これは第二次世界大戦勃発前にアメリカにも伝わり、改良が密かに行われ軍事用に量産された模様です。

ドイツではナチの命令でブナゴム製造の専門会社としてヒュルス社が設立されました。
ヒュルスはDegussa社に吸収されます。
Degussa(デグッサ)はDeutsche Gold- Und Silber-Scheide-Anstalt の頭文字をとったものです。
あたしもデグッサの「カーボンブラック」を取り寄せて、黒の塗料を開発してましたね。

IGのトラストを構成していたドイツの化学会社は世界的に有名なものが多く、BASF(バスフ:Barden Aniline und Soda Fabrik)や、フリードリヒ・バイエル、ヘキストなんかが参加していました。

このトラストは当時台頭し始めたナチスに急接近します。
おりしも世界恐慌でトラストが危うくなっていたのです。
経済的に後ろ盾を必要として生き残ろうとするトラストの当然の成り行きでした。
トラストIGは、ブナゴム工場やV-2号のロケット燃料工場の劣悪な環境でユダヤ人を酷使しました。

あたしは化学を学んで、ドイツ化学から得たものは多いです。
世の中の化学者は大なり小なりドイツ化学に依拠したはずです。
オストワルドやリービッヒの打ち立てたドイツ有機化学は化学の金字塔でもありました。
それがこのトラストにつながっていくのです。

トラストは、ガス室の殺人ガス「チクロンB」や化学兵器「マスタード」「ホスゲン」「サリン」などを作り出します。
悪魔の手先になった化学者は、第二次世界大戦後、戦犯として裁かれることになるのでした。

しかし、その後もこれらの化学兵器はなくならず、今も脅威となっています。

あたしたち化学者はアルケミスト(錬金術師)を起源に持ちます。
それは黒魔術のような「よこしま」な学問でした。
そしてその血は「ケミスト(化学者)」の中に今も流れている。
いつ何時、化学者が悪魔の手先にならないとも限らない。

日本学術会議は「軍事目的」の研究に与しないと決めました。
しかし防衛省は、金を積むから「やってくれ」と意気込んでいます。

核爆弾、BC(生物化学)兵器、劣化ウラン弾、焼夷弾、対人地雷、枯葉剤…もうやめてほしい。

戦わない方法を我々は知っているはずなのに。