球指(たまざし)というものがあります。
「球面計」とか「スフェロメーター」とも言います。
あたしは大学初年の物理学実験で、これにお目にかかりました。
「なんじゃこりゃ。どこをどう触るんや?」
球指
理系の大学に進みますと、嫌でも物理実験をやらされます。
そのカリキュラムの中に「球指」を使った実験があったんですよ。
「ニュートン環」の実験です。
凸レンズを平面ガラスに置いたものに光を当てると接触点を中心に同心円の環(干渉縞)ができる、あれですよ。
アイザック・ニュートンは『光学』において詳しくこの現象を解説していますので、機会があったら読んでみてね。
凸レンズの曲率半径もしくは曲率とニュートン環との関係を調べなさいというような実験だったと思います。
もう忘れちゃった。

球指は、尖った三本足を持つ装置で球面の「曲率半径」を実測する精密な器具なんですよ。
真ん中にもう一本足があるように見えますが、これは「探針(プローブ)」です(図のD)。
幾何学的に見ますと、三本の足の頂点A,B,Cは正三角形の頂点を成し、「探針D」はその重心に向かいます。

実際には球面レンズの曲率半径を測定するものです。
今はCCDカメラを用いたりしてデジタル的に曲率半径を測定するんでしょうが、こういったアナログな器具も原理が理解できて教育的な価値が高いと思います。

ここで「曲率半径」とか「曲率」という言葉が出てきましたので説明いたします。
曲線に近似した接円の半径を曲率半径と言います。
曲率半径の逆数を曲率と言うわけです。

話は飛びますが、微分学では連続関数の曲線上の任意の点における接線の傾き、つまり直線の傾きが一つ定まるのでしたね。
その接線の一次関数を導関数と呼んでいました。
この導関数をすべての点において求めて接線を引いていくと曲線が浮かび上がります。
導関数の直線の集合は元の曲線を導くので導関数と呼ぶのでした。
微分とは、その連続な曲線の任意の点に限りなく近い直線を求めることにほかなりません。
接円も同じです。

任意の曲線があり、それに円を近似してその円の半径すなわち曲率半径を求めるのです。

鉄道模型とかで曲レールの曲率半径を求めたりすることがあると思います。
まあ、知らなくてもレイアウトはできますけれど。
なお鉄道での直線からカーブに入るためには緩和曲線を経て円弧曲線につながないと滑らかに車両が曲がらず乗り心地の悪いものになります。
緩和曲線はクロソイドとか高次放物線を用います。
単一半径の円弧が一つの単曲線はもとより、異なる半径の円弧が連続した「複心曲線」、それのそれぞれの円弧が反向した「反向曲線」などに直線がつながるときに緩和曲線を挟みます。

球指(たまざし)の話でしたね。
この使い方はさっきの図を見ながら説明します。
Aの脚に直尺Lが垂直に立ってます。
ローレットNを回すとDが上下します。
Dを注意深く下ろし、球面に接するところで止め、LでD先端とA~C面との高さを測るのです。
またDの「探針」は精密なねじになっていて、上面に円盤Mがついていますね。
このDのねじのピッチが円周を百等分するように刻まれており、一回転するとMが100目盛動きます。
直定規と円盤の目盛の交点を読むんですよ。
これで高さを百分の一の正確さで読み、さらに目分量で千分の一まで読みます。
最近の球指は円盤目盛や直尺がなくマイクロメーターに置き換わっているようです。
それから各脚の距離をノギスで測定しなければなりません。
直接脚の間をノギスで当たっても正確ではないので、この針のような足を利用して厚紙などに突き立てます。
厚紙についた穴の間を正確にノギスで計るのが良いかと思います。
この長さが後で出てくるαになります。

原理は球面が正三角形で切り取られるとき、ひとつの球面上の頂点が定まり、それは三平方の定理を用いて球の中心までの距離を推し量ることができるという幾何学です。
正三角形の一辺の長さをαとしますと、中心Pと正三角形の頂点Aを結ぶ線分を半径rとする円が書けまして、正三角形ABCはその円に外接します。
また正三角形ABCの重心Gと円Pの中心は真上から見れば重なっておりますが、実際はDの読みから高さhを成しています。
真横から見ると、高さhで底辺rの直角三角形DAGになっています。
この直角三角形のhを回転軸とした回転体が、球指によって切り取られた球の一部になっています。
頂点Aから対辺BCにおろした垂線の足をHとしますと、正三角形ですから辺AHは対辺BCを二等分します。
つまり辺AHの長さはα√3/2であり、辺AHは重心Gを通り、正三角形のGは辺AHを2:1に内分します。
半径rは辺AHの2/3の長さとなるから、2/3×α√3/2=α√3/3です。

ここまでは三平方の定理と初等幾何で導けます。

次いで、線分DGを延長して求めるべき仮想球の中心Oを通り、再び球を貫く交点をEとします。
するとね、直角三角形DAGと、新たにできた直角三角形AGEは相似なんですよ。
求める球の半径をRとすれば、直角三角形AGEの底辺GEは2R-hですね。

辺AG:辺DG=辺GE:辺AG

内項の積=外項の積
ですから、(AG)^2=DG・GEとなります。
AG=r、DG=h、GE=2R-hより
また、r=α√3/3であるから
(α√3/3)^2=h(2R-h)
α・α・3/(9h)=2R-h
α・α/(3h)=2R-h

R=α・α/(6h)+h/2

球の半径Rがノギスと球指の示す数値から求まりました。