油脂の摂りすぎによる病気のリスクがよく話題になります。
植物性の油脂は動物性の油脂より健康に良いとか、いや、その反対だとか。
それよりも魚油を摂れだとか、コレステロールはゼロがいいとかなんとか。
※下線部「摂りすぎ」がいけないのであって、油脂の種類がどうこう言うてるのと違うのだけれど、世間ではごちゃまぜに議論しているところがあります。問題がすり替わっていることに気づくべきですね。

さて、この情報の氾濫と矛盾を、あたしたちはどう考えて油脂を取るべきか?

かつて「リノール酸が不足すると成長が阻害される」と言われ、せっせと児童に食べさせた時期がありました。
なのに現在は「リノール酸は毒」だと言われています。
これもまた極端な話です。

あのね、「リノール酸」という脂肪酸が人間の一生のうちで必要な時と、いらなくなる時があるの。
それに「リノール酸」は体内で合成できないから食べ物から摂らないといけない。
だから、成長期には「リノール酸」は必須脂肪酸として摂らないといけないの。
でも成長を止めた大人には不要と言うか、免疫系のバランスを崩して「毒性」が出て、炎症を助長するのだそうです。
そのことであたしは、学生時代に習った「アラキドン酸カスケード」のことを思い起こしました。
アラキドン酸という脂肪酸は体内で合成されるのですが、それは摂取したリノール酸から作られるんです。
アラキドン酸は最終的にはプロスタグランジンになるのね。
プロスタグランジンにはたくさんの型があるけれど、どれもアラキドン酸から作られるので、この一連の生体合成経路をアラキドン酸カスケードと言います。
プロスタグランジンはホルモンのような物質で、末梢血管拡張させ治癒させたり、反対に悪化させたり、平滑筋を収縮させて陣痛を起こしたりとさまざまな作用を持ちます。
それもごく微量で作用するので「ホルモン様」の生体物質と言われますがホルモンではありません(生理活性物質と呼びます)。
だからアトピー性皮膚炎の遠因にリノール酸が関与しているというのも、アラキドン酸カスケードの考えから推測されるわけです。
ほかに、αリノレン酸とドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)が必須脂肪酸と厚生労働省が指定して、食べ物から摂るように指導しています。
DHAとEPAは体内ではαリノレン酸から生合成されますけれども、それら豊富に含む魚類から摂取しないととうてい足りません。
だから「青背の魚」、つまりイワシやサバ、サンマ、アジなどを食えとうるさく言うわけね。
意外とね、缶詰でこれらの魚を食べれば安価で十分すぎるくらいDHAやEPAが摂れるそうで、サプリに頼るよりお得ですって。
これらの脂肪酸摂取は、コレステロールと中性脂肪(トリグリセリド)の代謝に一定の効果がみられ、動脈硬化を防いで、脳血管疾患や心疾患をも防いでくれると言われています。
そのためか「頭に良い栄養素」だとか言われてきました。
記憶や学習能力が良くなるんだとか。ラットの場合ですよあくまでも。

リノール酸とγリノレン酸はω(オメガ)-6脂肪酸に分類され分子の炭化水素末端から炭素原子の数を数えて六つ目に二重結合を持つから栄養学では「ω-6」と言います。
αリノレン酸、DHA、EPAはω-3脂肪酸の仲間です。
脂肪酸分子の炭化水素末端から炭素原子の数を数えて三つ目に二重結合があるからω-3というのです。
ちなみにオリーブオイルに多く含まれているオレイン酸はω-9脂肪酸になりますけれども、これは体内で合成できるので必須脂肪酸ではありません。
ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸は体に必要な脂肪酸には違いないのですが、ω-6脂肪酸の取りすぎ、なかんずくリノール酸の取りすぎはアレルギー疾患の増長、大腸がんリスクを高めるという臨床結果が出ていて、これがために最近では「毒」とまで言われるようになりました。
どうやら、ω-3とω-6の適正摂取比というのがあるらしく、それは、ω-3:ω-6=1:1~1:4(重量比)の範囲だそうです。
つまり、アラキドン酸カスケードにおいて、ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸が拮抗するから、アレルギー過剰反応が出たりするのではないかと言われています。
炎症反応にはアラキドン酸から誘導されるプロスタグランジンが大きく関わっているからです。

一方で、動物性油脂が健康に悪いんじゃないかとは昔からよく言われて来ました。
これも根拠薄弱なんですよ。
コレステロールが含まれているからというのが主な理由だったと思います。
もう一つは牛脂や豚脂が常温で固体なため、血液がどろどろになるんじゃないかと直感的に思う人が多いのよ。
高脂血症という病気はありますよ。
高脂血症は植物性油脂でも動物性油脂でも関係なく、脂肪の摂りすぎで起こるものなんです。
いわゆる代謝不良です。
牛脂や豚脂のトリグリセリドも胆汁酸で乳化され、リパーゼという消化酵素でちゃんと分解されます。
もちろん適量であればです。
余った脂肪は未消化で腸内に張り付いて粘り軟便化し、腸内環境を悪化させ、老廃物やラジカルを産み、直腸がんのリスクを高めることは当然の帰結であり、なんでも摂りすぎはよくないわけです。
油脂のせいだけではないのです。

コレステロールが悪いというのは、言い過ぎで、コレステロールがなければ生命の維持ができないことを肝に銘じてください。
ホルモンの骨格はコレステリン(シクロペンタノパーヒドロフェナントレン骨格)です。
ほとんどは体内で合成されるので、コレステロールを食べ物から摂取しても、普通の日本人の食生活ならコレステロール値の増加に影響しないとされています。
コレステロールの生合成回路は、ヒドロキシメチルグルタリルCoAリダクターゼがメバロン酸を合成する反応を律速段階(反応速度を決するもっとも遅い反応)とするので、コレステロールの生成量は、この酵素の活性に左右されます。
つまり、この酵素は高脂肪食を摂取すると濃度が高まるので血中コレステロールが増える原因になるのですよ。
詳しくは下記福岡大学理学部生化学研究室のサイトをご覧ください。
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/corest.htm#Top


もちろん食の欧米化で過剰なコレステロールが食べ物から摂取されると、肝臓などに保存され、高脂血症の血液中にはコレステロールが大量に浮遊しだし、動脈硬化の「アテローム形成」になるということになりかねません。
これにもカラクリがあって、この手の論文はアメリカのもので、アメリカ人などを基準にして臨床実験されています。
すると、コレステロール値が1000mg/dlなんていうアメリカ人がざらにいる。
そういう人と日本人のレベル(150mg/dlぐらいか?)と比較しても無意味なんですよ。
日本人はさほど食品から摂るコレステロールを心配する必要はないものと、あたしは考えます。

かつて、草食動物(ウサギ)を使った実験では、確かに食物から摂取されたコレステロールが血中に吸収されコレステロール値の上昇を見ましたが、その後の詳細なヒトの実験では食物から体内に吸収されたコレステロールは多くなく、もし、多く吸収されたとしても、生合成を抑制するのでコレステロール値のバランスは保たれるという結果が出ています。
血液検査で、コレステロール値(総コレステロール)とLDL(悪玉コレステロール)、HDL(善玉コレステロール)をみなさん気にすると思います。
医師もこの点しか見てません。
LDLとHDLにも適正比率があって、とくにLDL過剰となると血管疾患が出るリスクが高まります。
ただしLDLも体に必要なコレステロールなんですよ。
LDLもHDLも両方あってちょうどいいんです。
LDLはHDLより分子が大きく、血管壁に付着しやすいという性質があって、これがためにアテローム血栓ができやすくなるのです。
最近、LDLの血中濃度の低い人はがんのリスクが高まるという報告があるようです。
こうなると、LDLが「悪玉」だとは言い切れなくなますね。

コレステロールの能動輸送という経路は体液に存在します。
油脂や油分(油溶性成分)の能動輸送には複雑な経路は下記「星薬科大学」サイトをご覧ください。
http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/huyperdipidemia.html


お店では「コレステロール0」と銘打って植物油脂が売られているけれど、植物油脂を製造する工程でコレステロールはほとんど取り除かれるんだよ。
いや、それ以前に、植物性原油にコレステロールなんてほとんど最初から含まれていないのです。
大豆ステリンなど、ごく微量のコレステロールはありますが、不けん化物として工程上完全に除かれます。
「コレステロール0」は嘘ではないが、明記するほどのことではないのです。あたりまえだから。
それよりもここまでのお話から、リノール酸を多く含むこれら植物油のほうが問題でしょう?

油脂工業は日本の化学業界、なかんずく食品工業の根幹企業であり、歴史も古いんです。
日清、豊年(現Jオイルミルズ)、吉原製油(現Jオイルミルズ)、味の素製油(現Jオイルミルズ)、日華油脂(現Jオイルミルズ)、雪印など、大きな企業が目立ちます。
外資系でもユニリーバがパームヤシ油などで食用油の世界シェアを総取りしている模様です。
彼らは財界では非常に影響力のある企業なので、不都合な事実は隠すのです。
厚生労働省はそのせいかリノール酸類を、いまだ必須脂肪酸として摂取推奨し、国民健康維持に資する考えを崩していません。

菜種油はもともと燈明用の油で、食用ではありませんでした。
アメリカでも菜種や大豆、トウモロコシは油粕を飼料や肥料にするために栽培しており、搾取した油は捨てていたのです。
しかしこの油を食用にできないかと油脂工業に携わる人々は考えました。
どうせ捨てるのなら有効利用にと、サラダ油、揚げ油、マーガリンに利用したのです。
安価な食用菜種油はこうして生まれました。
フライドチキンやフライドポテト、マーガリン、ショートニングなど、ファーストフードに不可欠の揚げ油になったのです。
日本にもその用途は広まり、製油会社の売り文句として「健康」が付されました。
根拠も何もなく、ただ動物性よりコレステロールが少なく(ほぼ0)、必須脂肪酸としてリノール酸を多く含むというだけで消費者に受け入れられたのです。
「バターより体にいい植物性マーガリン」などと宣伝されましたね。
まんまと消費者は騙され続け、大量に油を摂取する人は体をむしばんでいきました。
食用でない油を食用にした結果、新たな病気を生んでしまったのです。

今日では、バターを食べる方がマーガリンを食べるより安全だと言われています。
トンカツも植物油で揚げずに、ラードで揚げる本格派のほうがかえって風味もよく体に良いとされています。
植物性油を動物性油に似せようと、ニッケル触媒で水素添加した「硬化油」は、有害と言われる「トランス脂肪酸」を副生させてしまいました。
もっともトランス脂肪酸がリノール酸より有害かどうかは検証不足です。
トランス脂肪酸もリパーゼによって分解されるからです。

このように、従来言われてきた植物性油脂の善玉説は揺らいでいます。
リノール酸の多い菜種やコーン、大豆油がだめで、αリノレン酸が多い亜麻仁油やエゴマ油ならいいとか。
むしろ、人類が昔から食べてきた動物性油脂のほうが体に合っていて、適量摂取で健康になるという人も出てくる。
日本人なら、コレステロールを含む食品でも神経質にならなくてもいいという人もいる。
それぞれに正しい一面、行き過ぎた理解、拡張された論調があると思います。
要するに、自分の頭で考えるほかないと思います。
考える材料は氾濫していますから。