耕三との山の生活も半年近くになった。
もうあたりの木々は葉を落とし、ずいぶん明るくなったし、息も白くなってきた。

まだあどけなさを残した耕三は、あたしにとって弟のような存在だった。
おそらく親たちは耕三の行方を追っているだろうが、この急峻な山中にまで捜索の網をかけられないと見えた。
あたしもここに住まってから、人に出会ったことがなかった。
たまさかに寺本の部落に麦などの穀物を交換しに下りれば人に会えるけれど。
耕三は飛び出した家のことを全くと言っていいくらい語ろうとしなかった。
あたしも、ことさら言いたくないことを暴こうとは思わなかった。
気まずくなって、うち捨てられて、再び寂しい暮らしに戻るのは御免だったからだ。


谷にイワナを獲りに耕三が出て行ったきり昼近くなっても帰ってこないので、あたしは探しに谷筋に下りて行った。獣道をたどって、隈笹(くまざさ)をかきわけていくと、見慣れた絣(かすり)の背中が見えた。
あたしは声をかけようとして止めた。
耕三は、朽木の株に腰かけて、着物をはだけ、ふんどしの端から松茸のような茎を出して握っていた。
あたしは何をしているのかとっさに判じかねたが、ただならぬ雰囲気は感じ取った。
目をつむり、口は半開きになり、熱に浮かされているようにみえたが、「なおぼん」とあたしの名を口走ったことから、病(やまい)などではないことは明らかだった。
耕三は、あたしを思い浮かべて分身をしごいている…
もうそれは大人のモノであり、赤黒く変色して、耕三の手の動きに合わせて、硬そうにしなっている。
「ううっ」
耕三がうめいて、白い汁を肉の棒から吹き上げたのだった。
あたしは、そっとその場を後にした。

かつて、あたしは母の愛人、銀次に犯されたときに、初めて男の精汁を腹の上に浴びせられた。
耕三と同じ表情で、その毒液を硬く大きい珍棒(ちんぼ)の穴から噴出させたのだった。
そして、善さんもあたしにしごかせて、ねばねばした白汁を吐出させたものだった。
栗の花の香りのするその汁は、子種(こだね)だと大人たちは言った。
そうやって、男が母の胎内に子種を仕込んで、あたしたちは生まれてきたのだった。

あどけなかった耕三も、いつしか「男」の体になってしまっていたのだ。
その帰り道、遅まきながら耕三があたしに恋情を抱いていることに気づくのだった。
「このままでは、いけない」
「いいじゃないか…耕三と暮らしていくのなら」
両方の気持ちがせめぎ合った。

その日の夕飯はいきのいい産卵期のイワナを囲炉裏端で焼いたものだった。
あたしは、しかし、言葉少なだった。
なんだか、妙に耕三が男臭くなって、嫌悪感さえ抱かせたのだった。
「なおぼん、もっと食べなよ」
「いい。こうちゃんが食べて」
あたしは、そっけなかったかもしれない。
「どうかしたの?具合でも悪いのかい」
「ちょっとね」
それ以上の追及はなかった。

耕三もあたしの体が欲しいのだろう。
だから、隠れてあんなことをしていたのだ。
銀次と同じだ。男って。
もう一人のあたしが、
「そんなら、善さんにされていたのは良かったのかい?」
と訊いてくる。
「善さんは特別…」
善さんだって男の欲望を抑えきれずに、あたしを求めたのではないか。
耕三が、ことさらあたしに嫌悪される筋合いはなかった。
耕三の成長著しいことに、あたしが戸惑っているだけではないか。

雪がちらつくころ、近くで銃声が響いた。
あたしの銃ではない。
長押に村田銃は掛けたままだった。
耕三が、厠から戻ってきて、
「聞こえた?今の」
と尋ねる。
「誰だろう?マタギがこの辺でも猟をしているのかもね」
善さんの猟友が一人、この先の尾根筋をなわばりにしていたことを思い出した。
たしかハマゲンとか、浜田源太郎とかいう人だった。
善さんより一回りほど若い男で、ここで何度か善さんと酒を酌み交わしていた。

「たぶん、ハマゲンさんだよ」
「だれ?」
「先達の猟友」
「ふ~ん」
耕三は、あまり興味がないという風だった。
ハマゲンさんなら、銃弾を分けてもらえるかもしれないと、あたしは考えた。
もう、弾は八つしか残っていないはずだった。

あたしは、「ちょっと出てくる」と耕三に告げて、方丈を後にした。
また銃声がした。
鹿か猪を追っているのだろうか?
このあたりは熊もでる。
杣道(そまみち)を西へたどって、銃声のした方に近づいた。
熊避けの鈴をチャラチャラ鳴らして、あたしは歩く。
今度は、かなり近くで銃声が鳴った。
桂の大木の影から、そっとその方角を見ると、毛皮をまとった男の姿が、葉の落ちた木々の間に見えた。
やはりハマゲンさんだった。
銃を下ろして、一服つけているところだった。
あたしは鈴を鳴らして近寄った。
身構えたハマゲンさんだったが、あたしを認めると、「おう」と声を発した。
「ごぶさたしてます」
「善さんが亡くなって以来だな。息災け?」
「おかげさんで」
「いい娘になったな」
そういったハマゲンは、目つきがいやらしかった。
「さみしいだろ?一人ぽっちは」
そう言って、あたしの腕を取る。あたしは驚いて引っ込めたが間に合わなかった。
「あったけぇな。もういくつだ」
「あ、あの」
あたしは硝煙臭いハマゲンから逃れようと身をよじった。
力強い腕であたしは抱えられ、口を吸われた。
うぷ…
煙草の強い口臭で、胸悪くなるほどだった。
「やめてぇ」
「ええやんけ」
あたしの下半身は剥かれ、山の冷気にさらされた。
「ほほう、ええおめこやぁ。久しぶりやな」
下卑た言葉を吐いて、ハマゲンは顔をあたしの谷筋に近づけ、においを嗅ぎ、舐め始めた。
「やぁん、そんなぁ」
あたしは足を閉じようとするけれど、強力な腕の力で阻まれた。
「たまんね…入れさせろ」
言うが早いか、毛皮の下から隆々と立ち上がった肉茎に手を添え、あたしに向ける。
舐められて濡れそぼってしまっているあたしは、軽々とその巨根を肉鞘に納めるのだった。
こんなところを耕三に見られたくない。
両足が揚げられ、あたしは尻もあらわに、犯された。
じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ…
長いハマゲンの棒を抜き差しされ、あたしは永らく感じていなかった快楽に身をゆだねてしまう。
耕三の自慰行為を見たことも刺激になっていたのかもしれない。

あたしは後ろ向きに立たされ、木に手をついて獣のように犯されていた。
ちゃりちゃりと熊避けの鈴が腰ひもにぶら下がって、軽快な音を立てていた。
「ああうっ!」
思わず歓喜の声を上げたときである。
ガキューン!
銃声が後ろで響いた。
「あう、わう…」
びくびくと、ハマゲンが震え、倒れながら射精した。
同時に霧のような血しぶきが降ってきた。
あたしは、一瞬何が起こったのかわからなかった。
どさり…
ハマゲンの巨体が崩れ、あたしの胎内からおびただしい精液が流れ落ちた。
足音が近づく。
あたしは振り向いた。
耕三が顔をゆがめて、立ちすくんでいた。
「こうちゃ…」
「なおぼん。おれ」
あたしは、すべてを悟った。
頭を砕かれたハマゲンが目を見開いて仰向けに倒されていた。
勃起がゆるやかに倒れていく…

あたしは着物を整えて、耕三の頭を撫でた。
「ありがとね」
「…」
耕三の手から村田銃がガチャリと地面に落ちた。

あたしたちは、ハマゲンの遺体を始末するために、斜面に穴を掘り、埋めた。
ハマゲンの村田銃とたくさんの弾丸を得て、あたしたちは方丈に帰った。

戸締りをして、あたしたちはきつく抱き合った。
「こうちゃ…」
「なおこ」
寒さなど感じなかった。
二人とも素っ裸になって抱き合った。
お乳を吸われ、耕三の高まりを握りしめた。
熱い肉の棒はたくましくしなやかだった。
ハマゲンのものに比べていくぶん短いが、太さは十分だった。
「い、入れて」
あたしはねだった。
十も年下の少年にしがみついて、情けを乞うた。
耕三もあせりは隠せないようで、うまく入れられずにいた。
あたしは耕三を押し倒して、上にかぶさった。
そうして、糸を引くほど濡れそぼった胎内に、耕三を差し込んだ。
あふっ
「ああ、入ってる」
「見える?あんたのがあたしの中に入ってるのよ」
「なおぼん」
「こうちゃ」
ハマゲンに拡げられた洞窟は、耕三をたやすく呑み込み、しかし、その形をも記憶しようと耕三にまとわりついて絞る。
「あ、いや」
「くっ、出ちまうよ」
「いいから、出して。こうちゃのややが欲しい」
「な、なおこぉ」
ハマゲンの子種がすでに入ってしまっているから、耕三の種は届かないかもしれない。
それでもいい。
耕三があたしをきつく抱いてきて、腰を下から突き上げてくる。
その硬さといったら、腹に穴が開くのじゃないかと思うほどだった。
ぐぐっ
喉から絞るような声を耕三が発して、あたしの中にくれた。
「こうちゃ」
「…出たぁ。まだ出てるよぉ」
「うん、感じるよ」
あたしは耕三の伸びた髪を指でかきわけ、湯気の出るような額の汗をぬぐってあげた。
ポロリと、あたしの中から耕三が抜け落ち、生暖かい種の感触を内ももに感じた。
「あらら」
つーっとその、米のとぎ汁のようなものは、膝の裏まで達した。
季節外れの栗の花の香だった。

雪が本格的に降り出し、あたりは静まり返った。
ハマゲンの墓標が雪に埋まった。

春には、お腹のせり出したあたしをいたわるように、たくましくなった耕三がそばにいてくれた。
また季節は巡るのだ。