可撓性(かとうせい)とは「たわめられる」性質を言います。
「撓(たわ)める」という漢字からも、はっきりしていますね。

この聞きなれない言葉は、プラスチックを業としている人ならおなじみかもしれません。
あまたあるプラスチックの性質を表すのに、可撓性は非常に有用な指標です。
物に外から力を加える(応力)と、それに対して歪(ひず)みがその物に生じます。
ヤング率という指標でそれは現わされますが、もっと大きな力がかかると、破壊が起きます。
プラスチックなら割れます。

この破壊まで耐える性質を可撓性と言うのだと思ってください。
可撓性の低いプラスチックは「もろい」から、すぐに割れて砕け散ってしまいます。
プラモデルのポリスチレンなどがそうです。
反対に塩化ビニルなどは粘りがあって、変形しますがなかなか割れません。
こういうものは可撓性が高いと言います。
また可撓性は温度依存性があります。
高温だと、プラスチックは柔らかくなって、可撓性が増しますが、もっと高温になると熱可塑性といって、流動化してしまいます。
中には、熱硬化性樹脂といって、加熱しても流動化しにくく、しまいには炭化してしまうものもあります。
こういうプラスチックでも割れにくければ可撓性が高いと言えます。

プラスチックは高分子化合物に分類され、もともと非晶性(アモルファス)なので、部分的に結晶化させて引っ張りに強くすることができます。
物質は結晶化(同じような分子構造が規則正しく並ぶこと)によって機械的強度が増すのです。
単分子の場合、結晶化によって硬くなります。
高分子もそうなのですが、分子が大きいために、構造的に回転が制限され、似た構造があっても近づきにくいのです。
ところが、高分子に「延伸(えんしん)」といって軸方向に引き伸ばす力を与えると、薄く伸びて丈夫になります。
化繊の紡績は溶融した高分子をダイスという小さい穴から押し出し、巻き取りながら引き伸ばします。
そうすると強い糸(原糸)が生まれます。
ナイロン糸やポリエステル糸、アクリル糸などみんな延伸して強くして糸にするのです。
ミクロな目でこういった高分子の「部分」を見てみると、延伸前は分子はコイル状に縮まっていますが、延伸されると、コイルが伸ばされ、一方向にそろいますから、その枝になっているセグメント構造が似たもの同士近づくことができて、分子間力によって部分的にでも結晶化するのです。

みなさんは、たまご豆腐のダシの袋とか、ラーメンのラー油の袋とかを破るときに、うまく切れるときもあるけれど、失敗して伸びてなかなか切れずに鋏を使ったことはありませんか?
あの「伸びて硬くなった」部分が延伸された高分子なんですよ。
「>」型に切り目が入っていると思います。
これはV字の谷に応力集中させて破りやすいようにしているわけですが、たまに谷の部分で延伸が生じ、高分子の結晶化が起こって強くなり簡単には破れなくなるのです。

物の硬さ(柔らかさ)を表すのに、可撓性以外に粘弾性(粘性もしくは弾性と分けることもある)という表現もあります。
これを正確に定義するのは難しい。
慣習的な言葉でもあり、業界によってどっちでもいいとか、明確にしている場合とかあります。

粘性は通常、液体に用います。
スライムのような固体だか、液体だかわかんないものは粘性でいいんじゃないでしょうか?
弾性はもう「ゴム」風のものですよね。
しかし、一見硬いものでも、弾性はあります。
鋼球を落とした時に、その反発する様子は弾性で表現します。
ひずみと応力の関係の比例定数である「ヤング率」で表されるのは弾性でしょうね。
つまりフックの法則が成り立つ場合にヤング率は意味を持ちます。

可撓性はだから、定量的な表現ではなく定性的な表現だと言えます。

あたしが高分子で学位を取ったのは、こういうものの研究も含んでいました。
試作したプラスチックの試験片の可撓性を測定するのです。
アイゾット式という破壊検査ですから、ハンマーを振り下ろして、試験片を破壊する点を探るんです。
試験片には「ノッチ」といって溝を掘った(応力集中させる点)場合とノッチ無の場合の二通りで測定します。

ほかにも非破壊検査もあるのですが、それはまたの機会に。