旧ドイツ軍の海軍と旧日本軍の海軍を比較すると、ドイツ海軍はU-ボートという潜水艦が主体の兵装であり、日本海軍は航空母艦を機動部隊とする兵装でした。

これは戦域の地勢に依存します。
ご存知のようにヨーロッパ戦線は、地上戦が主であり、海戦は大西洋北部から北海、ビスケー湾およびジブラルタル海峡以東の地中海という狭い海域です。

一方で、日本の場合は広大な北太平洋からニューギニア方面、そしてインド洋にまで戦域が及び、ほぼ海戦が主でした。

だから山本五十六連合艦隊司令長官は「戦艦と空母そして水雷戦隊(駆逐艦を主とする艦隊)」に主眼を置いたのです。

また日本の海軍はドイツの技術をもらって潜水艦にも注力し、その建造数は同時代の世界の海軍の中でもダントツでした。

パナマ運河攻略に向かわせたイ-400という潜水艦は水上攻撃機「晴嵐」を搭載した最大級の艦体を有していました。

じゃあ、ドイツ海軍は空母を有していなかったのか?
これは、事実上は「有していなかった」というほかない。
建造はしたんですが、途中放棄されたんです。
「グラーフ・ツェッペリン」という空母を建造したらしいけれど、どうもうまくいかなかった。
日本の「赤城」を参考にしたとか、いろいろ言われていますが、「赤城」の戦艦から空母に無理やり改装した三枚甲板のときの「航空機運搬昇降機」を取り入れただけです。
そもそも、「赤城」はワシントン軍縮会議でやむなく戦艦から空母にされたので、こんな中途半端な設計をドイツが参考にしても良いものができるはずがない。
反面教師にはなったでしょうけれど。
「グラーフ・ツェッペリン」の建造には山本五十六の口添えもあったようです。
山本はドイツを訪問し、エーリヒ・レーダードイツ海軍統帥長官と懇談しています。
その後すぐにドイツの視察団が「赤城」を参観に来るんです。
のちに、ミッドウェーで山本が「赤城」を含む4隻の空母を失った際、ドイツに「グラーフ・ツェッペリン」を譲り受けたい旨を山本がレーダー統帥に打診しています(日本への回航が不可能と拒絶された)。

空母の代わりに、ドイツ海軍は潜水艦を多用したのです。
そして通商ライン破壊にいそしみ、英米の往来を邪魔しました。
フランスを支配下に置いたナチス・ドイツはビスケー湾岸にU-ボートの基地を数か所、作って北大西洋を暴れまわるのです。
空母の必要はなく、フランスやドイツから航空機を飛ばし、その届く範囲で戦争ができた地勢的事情がありました。
ドイツがV-2号という弾道ミサイルでロンドン市民を怯えさせたのも、目と鼻の先の戦だったからです。
足の短いメッサーシュミットBf(Me)-109が一時期、バトル・オブ・ブリテンで好成績を収めたのも近いからです。
ドイツは苦手な空母の設計より、潜水艦U-ボート建造にいそしむほうが向いていたんでしょうね。

おなじことがイギリス海軍にも言えました。
いちおう「アークロイヤル」「カレジアス」とか空母を有していましたがU-ボートの餌食になりました。
当時の「大艦巨砲主義」の考え方が健在だった英独の海軍には空母の重要性の認識は一部だった。
けれども日本やアメリカは航空機の戦力が驚異的に増し、海戦でも航空機の活用、対艦攻撃の有用性に早くから着目していました。
実は空母の運用は、その時代には懐疑的な軍人もいて、また訓練も伴わないと、無用の長物になりかねなかった。
艦載機の性能や取扱には、陸上での経験だけでは無理がありました。
着艦のオーバーランは許されず、死を意味します。
限られた滑走面からの離発着は特別の技能を要しました。
空母はつねに揺れており、また、狭い航空甲板で編隊を離発着させる時間的な制約、甲板員、整備兵の手際など、これまでの海軍の運用のレベルをはるかに超えるものばかりです。
さらに、空母の設計も未知の世界でした。
艦載機の格納庫と甲板の連絡というような基本的な技術もそうです。
日本はいち早く「昇降機(エレベーター)」を搭載しました。
対空砲火の兵装も、航空甲板によって犠牲になり、脆弱な守備をどうやって克服するかも課題でした。
ドイツの幻の空母「グラーフ・ツェッペリン」も主砲などの艤装をどうするかで悩み、結局、完成を見なかったのです。
使われなかった主砲などは外されて、陸に設置され「砲台」になったと言います。

困難な空母の運用を克服した旧日本海軍の南雲機動部隊は、当時としては誇れる艦隊だった。
それをみすみすミッドウェー海戦で海の藻屑にしてしまったのは、非常に悔やまれることです。

現在、原子力空母はアメリカの海軍の主力であり、もはや「戦艦」というものはこの世に存在しません。
「打撃群」と呼ばれる空母と駆逐艦、潜水艦からなる艦隊は、移動する島です。
そのまま軍事拠点となりうる機動性を有しています。
今も、空母を軍隊が保有することは難しいのかもしれません。
日本の場合、憲法九条の関係から、攻撃を目的とする「航空母艦(空母)」は保有できず、代わりにヘリ空母のようなものが存在するのみです。
これなら、護衛艦の位置づけで保有できるという考え方です。

日本が地勢的に戦略を立てるなら、仮想敵が中国および北朝鮮ですので、空母の必要性はありません。
あたしが海軍大将でも、金のかかる空母は必要なしと判断するでしょう。
スクランブルで航空機を運用すれば足ります。
あたしなら、旧ドイツのように潜水艦を配備します。
イージス艦との連携で、小艦隊を日本海と東シナ海に展開し、対馬と沖縄に空軍基地を置きます。
対露の睨みは新潟以北、北海道の基地で利かせ、北方四島およびオホーツク海沿岸はほぼ潜水艦と航空戦力でまかないます。
核は、アメリカのお家芸でしょうから、日本はあくまでも通常兵器の装備で訓練し、日本海側の原発を中心に守備を固めます。
旧日本海軍の「水雷戦隊」の再興も考えましょう。
また、哨戒兵器の開発に予算を割きます。
これからの戦争は「哨戒」につきると言っても言い過ぎではない。
対潜兵器、対空兵器、港湾守備はこれからも島国日本にとって重要な「盾(イージス)」となるでしょう。
そうすると余分な徴兵を国民に強いる必要もない。
海防と防空は国の主権です。

横山尚子海軍大将、自分はこう思います。