藤井聡太四段の快進撃が止まりません。
若干十四歳でのプロデビューから、負け知らずの29連勝です。

将棋を良く知る人は彼の指し方に往年の「升田幸三」を重ねます。

実力制名人の「野武士棋士」の升田幸三は、藤井君とはまったく正反対の人物に見えます。
兵隊経験者であり、戦後の占領下でGHQの責任者と将棋論で持論を展開し、論破するほどの肝の座り様でした。
ヘビースモーカーであり、一日100から200本のタバコを吸っていました。
彼の対局写真はたいてい煙草をくわえています。

藤井四段は桂香の使い方が大胆なように思います。
相手に守備を固めさせず、知らない間(?)に桂馬が飛んできて…
桂香は、序盤、中盤で入手しやすい駒ですが、ミサイル系と言われる駒で、放つと後戻りできません。
桂馬は「砦越え」の一足飛びのミサイルですから、動けぬ玉には必死の駒となります。
初心者は、なかなか有効に使いこなせず、無駄にしてしまうことの多い駒でもあります。
藤井四段は、大駒の切り方も、ミサイル系飛び駒も大胆かつ的確で、相手はバランス感覚を失い、敗色を濃くしていくのです。

加藤一二三九段が「定跡にとらわれない指し方」と藤井四段を評したように、AI将棋の申し子のような序盤・中盤の戦い方です。
そういう意味で次戦の佐々木勇気五段との勝負は見ものです。
佐々木五段もコンピュータ将棋を駆使し、研究熱心で闘争心がむき出しの青年です。
彼は非公式ですが昨年、デビュー前の藤井君に勝っている。
もし、藤井四段の連勝を止める人物がいるとすれば佐々木勇気だろうと思います。

将棋の世界も谷川さんや羽生さんが出てきたころから様変わりしたなと思います。
それまでは、升田、大山、中原、内藤、米長…などいかにもタバコ臭い、勝負師の暗い世界を想像させます。
子供が入門するなんてことは、今ほど許されるものではなかった。
「将棋指し」になるなど、親に言おうものなら、勘当されても仕方がなかった。
実際、升田幸三は家出して将棋の世界に入ります。
阪田三吉のイメージが一般の人にも強く残る時代でした。
「将棋=賭け」の図式が当たり前。
いわゆる「真剣師」の世界です。
花村元司(はなむらもとじ)という真剣師は、木村義雄名人の門下だった。
真剣師とは「賭け将棋」を生業(なりわい)とする人々です。
花村はハメ手の名手で、アマチュアで鳴らし、升田幸三にも駒落ちで勝ったこともある。
そうやってプロテストに合格してプロになった真剣師は花村が初めてかもしれない。
それでも大山康晴にはまったく歯が立たなかった。
「花ちゃん、あんたは所詮、しろうとだもんね」と大山に言い捨てられたエピソードもある。

花村や升田が藤井四段に似ているのは、定跡外しだろう。
そうしてあまたの古い頭のプロを翻弄し、勝率を上げていた。
ただ、例外なく、彼らにも斜陽がおとずれたことだ。

藤井聡太はまだ若い。
あたしは、これまでの彼の棋譜を見て、「花村や升田とは違う」と思って、期待を寄せている。
なぜなら彼は純真なのだ。
「棋聖」という言葉が、彼のものになりますように。
また、日本の、ある意味、剛直化して動脈硬化状態の将棋世界に風穴を開けてほしい。
言いたくないが、たかだか十四歳の子に29連勝を許した現将棋界の責任は重い!