あたしは、エクセルシートのコピーの束を前に、電話をかけていた。
指定暴力団「琴平会」の蒲生会頭に「寝てるだけやったら、これ頼むわ」と言って渡されたものだ。
この紙束は住所録である。
電話番号と住所、名前がカタカナで書いてあり、日付と時間ごとに電話に出た人間の性別を書く。
アマチュア無線のログ(業務日誌)を思い出させる。
コンテストログだ。

「あー、もしもし、ヤマダさまのお宅ですか?リサイクルショップヨコヤマの・・・」
「うちは、リサイクルするようなもんはない!」
思いっきり切られた。それでいいのだ。
「14時22分、男中年」と書き加える。
そして次の番号へ。
「もしもし、クワタさまのお宅でしょうか?」
「そうですけど」
「こちら、リサイクルショップヨコヤマと言いますが、お宅で何かご不要の物・・・」
「ちょっと、いま忙しいねん」
当然、切られる。
「14時26分、若い女」と書き込む。
一ページ分を掛け終わると、一時間ほどになる。
また最初に戻って、電話を掛ける。
「もしもし、やまださまのお宅でしょうか?保険の見直しにご興味は…」
「もう死んだ。興味はない!」
なかなかおもしろい受け答えの人や。
「15時34分 中年男」
次はクワタさんやね。
「・・・」
10コールしても出ない。
「15時38分 不在」
このようにいろんな者になりすまして、その家の不在時間を洗い出す。
あたしは病身ゆえ、仕事がないので、こんなことをして日銭をかせぐ。
このデータは蒲生が、空き巣や訪問詐欺などに使うらしい。
あたしは知らぬ存ぜぬである。
善意の第三者なのだ。
あくまでも。

こういう「さぐり」の事案は、よくある。
特殊詐欺事件などは、とくにそうだ。
詐欺や空き巣の片棒を担ぐのは気が引けるが、あたしにできることはそんなことしかない。