レーヨン(人絹)製品は洗濯機で洗ってはいけないとよく言われます。
あたしも失敗したことがある。

水に弱いというか、すっごく縮むのよ。
再起不能ね。
だから、レーヨン製品はクリーニングに出すもんだと、生前、母が口を酸っぱくして言ってた。
だいたいレーヨンを使っている服は、フォーマルなスーツの裏地だとか、そういう「家ではお洗濯が無理」なものに多いから、知らなくても洗濯屋に出すもんだ。

でも女性のブラウスなんかにはレーヨンと綿の混紡なんてのがたまにあって、綿のブラウスと同じ感覚でネットに入れて「おしゃれ着洗い」をぽちっと選択して、洗っちまう。
そんで、干すときに「あちゃー」となるのよ。
濡れているうちに、アイロンで伸ばすとか、スチームアイロンなんかで取り繕うんだけど、なかなか難しい。

レーヨンの歴史は古い。
「人絹」というくらいだから「絹(シルク)」の代わりになる、シルクっぽい風合いの人造繊維なのよ。
じゃあ化繊じゃないのというと、化繊のように百%「石油」ではない。
原料はパルプと同じくセルロースです。
つまりセルロースは綿と同じなんです。
セルロースはβ-グルコースの糖鎖でできていて、α-グルコースの糖鎖でできたデンプンのように水に溶けない。
α-グルコースは1位の炭素原子に付く水酸基が環面に対してアキシャル(極方向)を向いており、β-グルコースの1位の炭素原子に付く水酸基が環面に対してエクアトリアル(赤道方向)を向いているという違いだけ。
※環面とはグルコース(ピラノース)環のこと。

天然の高分子を溶媒に溶解して、溶媒を飛ばしつつ紡糸するのがレーヨンの作り方なのよ。
紡糸の仕方はまったく化繊と同じで、ダイスから液状のレーヨンの粘稠液(ビスコース)を押し出して引き伸ばし、その間に溶媒の二硫化炭素が揮発して、レーヨンだけになって固まり巻き取っていくの。
だから綿のように短い糸が絡まって短繊維の一本の糸になるのではなく、長繊維といって、レーヨンの一本の糸ができるのね。
するとお蚕が糸を吐くように、一本の糸でできるから「絹」のように見えるし、風合いも似てくる。
原料は綿と同じようなものなのに、「人絹」(人造絹糸)と言われる意味がここにあるの。

セルロースを長繊維化する方法で作られた繊維がレーヨンでした。
そのためにセルロースを溶媒に溶かせるように変質させる必要があるのね。
β-グルコシド結合の水酸基の一部を無水酢酸でアセチル化してアセテートにするのね。
ほら、レーヨンはアセテートとも呼びますよね。
一か二分の一アセテートと言って、β-グルコース1.5分子に一つのアセチル基が入ります。
つまりβ-グルコースの鎖のひとつおきにアセチル基が入ってるってわけ。
こうすることによって、アルカリ性二硫化炭素に良く溶けて、粘稠液(ビスコース)になるんです。
「レーヨン」とは「ビスコースレーヨン」の略された言い方なんです。

一方で、セルロースはセルロイドという樹脂にもなりました。
これも硝化綿(しょうかめん)といって、綿のセルロースを硫・硝酸で硝酸エステル化したものは溶剤に溶けやすくなり、加工しやすくなったのです。
硝化度の高いセルロースは、綿火薬として使われ、低いものはプラスチックの前身、セルロイドとして使われましたが、火によって激しく燃えるので火災の原因になりました。
今はセルロイドは危険なため使われません。
※映画の映写技師に免状が必要なのは、映写装置の操作方法が難しい事と、16mmフィルムがセルロイドでできていた時代があって、電球の熱でよく火災を起こしたからだと言います。

石油製品の化繊ができるまで、レーヨンやセルロイドは一時代を築いたのです。

商品名として「ベンベルグ」「キュプラ」が有名ですけれど、これらはみな「レーヨン」です。
シルク並の光沢や風合いは長繊維がなせる業(わざ)であり、綿にはまねのできないものでした。
そしてセルロースが原料ですから綿なみの吸湿・吸水性もあった。
だから染めやすいし、静電気も起こりにくい。
ただ、濡れると破れやすく、縮みやすい欠点があります。

レーヨン(レイヨン)で大きくなった日本の化学繊維メーカーは東レ(東洋レイヨン)、三菱レイヨン、帝人(旧帝国人絹)、クラレ(倉敷レイヨン)、ユニチカ(旧日本レイヨン)などがあります。

しかし、普段着の生地にレーヨンを入れるなよ!
いちいちクリーニングに出してたら、割高になるやんか。
洗えるレーヨンと言うのもあるらしいけど、やっぱり縮むって。