ベクトルは高校の数学でやるんやね。
あたしも記憶があいまいで、中学生にベクトルの話は難しすぎたかもね。

あたしが手伝っている塾では、どちらかと言えばお勉強が好きでない子が多い。
しかし彼らと話していると「好きでない」のではなく、「好きになれない」らしい。
こりゃ指導者の問題だね。
指導者が悪いと、こういう結果に、えてしてなってしまう。

塾頭の和多田先生は、元中学校の先生だったひとで、京都教育大学を出ておられる。
あまりの忙しさで体を壊され、中学校をお辞めになったんだそうだ。
あたしじゃうまく教えられない場合、和多田先生に助け舟を出してもらう。
そしてあたしも一緒にお勉強するんだよ。

あたしは子供らに教える時に、どうしても指導要領の順に教えないから(知らないんでね)、子供らを混乱させてしまう。
このベクトルだってそうだ。
中学生には「?」となってしまう。

世の中には、数字で表すことがたくさんあるけれど、お金とか体重、知能指数なんてのは「向きを持っていない」数字なわけね。
※こういう「向き」を持たない普通の数字をスカラーと言います。

「向き」って、あなた、何を言っているのだ?
数字に向きなどあるのか?
風向みたいに?
おお、それそれ。
たとえば天気予報で台風の進路なんかが放送される。
あれがベクトルかと言われたら、そら、違うかもしれない。

台風は北半球の場合、生まれてすぐにゆっくりと地球の自転と反対向きに動き出す。
そして太平洋高気圧の周囲に沿って、台湾や琉球方面にやってくる。
そこで速度を落として、偏西風に乗ると、スピードアップして今度は自転方向、つまり東へ進路を取るのが一般的だ。
このときの台風の速度を数値だけで表しても、どこへ向かっているのかわからんでしょう?
そこで矢印のある線分(有向線分という)を使って方向を表し、その線分の長さで速度(大きさ)を表すのはどうかな?
この向きのある線分(有向線分)をベクトルと言うのだと、おばちゃんは勝手に思っている。
どうだ?まいったか?まだわからんか?

すると、世の中には向きのある「大きさ」という概念がけっこうあるのだということに気づくでしょう?
速度や加速度、力、風向+風速とか。
見えないけれど、物にロープをつけて引っ張ると、地面に平行に引っ張るときと、やや上に引っ張るときでは、同じ力加減でも物の進み方が違いますやろ?
引っ張る方向が違うから、進む距離が変わってくるのですね。

こういったベクトルは足したり、引いたりと普通の算数みたいに計算できるんですよ。
大阪市(O)から京都市(K)に行って、次に奈良市(N)に行くとしましょか。
大阪から京都に行く矢印(ベクトルOK)と、京都から奈良にいく矢印(ベクトルKN)を足したものは、大阪から奈良に直接行く矢印(ベクトルON)に等しいのですよ。
※簡単のため各地は点であり、点の間の道は直線とし、すべての地点が同一平面上にあるとしなさいよ。

これはね、ベクトルOKとベクトルKNが「張る」平行四辺形の対角線がベクトルONだと言うこともできます。
※「張る」とは二つの線分で平行四辺形を作ることを言います。

するとね、引き算は大阪市から京都市へ行く矢印(ベクトルOK)と、大阪市から奈良市に行く矢印(ベクトルON)に注目してみます。
もともと、
ベクトルOK+ベクトルKN=ベクトルON
でしたから、こんどは移項して、
ベクトルOK-ベクトルON=-ベクトルKN
となりますね。
「-ベクトルKN」とは「ベクトルKN」の真逆の向きです。
つまり奈良市から京都市に戻るベクトルです。
「ベクトルNK」と書いてもいい。
もっと言えば、「-ベクトルON」は「ベクトルNO」だから、この結果は、奈良市を発して、大阪市経由で京都市に至る、逆ルートを示しています。
それは奈良市から直接京都市に向かうルート「ベクトルNK(または-ベクトルKN)」にほかなりません。

もう少し数学的に書きましょうかね。

大阪→京都をA、京都→奈良をB、大阪→奈良をCとします。
太字で書いたのは「ベクトル」ですよっていう意味です。
A+B=C …①
ですわな。
一般に、
A-B=A+(-B)≠C …②
なのよ。
-BっていうのはBの逆向きの矢印(ベクトル)を表してんの。
ベクトルでの「正負」は真逆の向き、なす角が180°を表してます。

だからその結果がCとはちがうベクトルになるのでした(つまり平行四辺形のもう一つの対角線の向きのベクトル)。
それをDと仮にしよか。
A-B=D …③
ですね。
ABが張る平行四辺形が正方形ならば、-Cとなるんだけどね。

これがベクトルの和と差でした。
※なお、ベクトルとスカラーの積は割愛します。言うまでもないですけどスカラーとベクトルの和や差は無意味ですし、できませんとしておきます。

ベクトルの積は中学生には難しく、デカルト座標(三次元空間)に話を拡張せねばならない。
そしてそのためには三角関数の知識がどうしても必要になるの。
二次元でも二つの平行でないベクトルは起点を合わせると、なす角θを持つことがわかると思う。
つまり平行四辺形の一角をなすのね。
この一方のベクトルからもう一方のベクトルに下ろした垂線の足で切ったベクトル、つまり正射影もまたベクトルです。
三角関数が教えるところではBへのAの正射影の長さが|A|cosθですからね。

するとベクトル同士の積の一種である「内積」はね、ABという平行でないベクトルが、起点を合わせたときになす角θで存在しているとすると、
AB=|A||B|cosθ …④
と表せるのよ。
|  |は絶対値記号だから、この結果はスカラーということになります(内積はスカラー積ともいう)。
「・」が「内積」を表す記号ね。
「×」の記号は使わない約束なのよ。
なぜなら、もう一つのベクトル同士の積である「外積」にそれを使うから。

ベクトル積は、いわゆる「掛け算」とは違うことをよく覚えといてください。
そして「内積」と「外積」という二種類の積の定義があることもね。
電磁気学でとても重要な数学として使われます。

で、「外積」ですが、これがあたしもちょっと危うい知識です。
三次元座標を使います。
x-y平面に原点を同じくする平行でないベクトルA,Bがなす角θであるとします。
そのA,Bが張る平行四辺形の面積と同じ大きさで、z軸上に上向き(増加方向)にベクトルCを一つ作ります。
このベクトルCA,Bの外積だと言うのです。
わかるかなぁ。わかんねぇだろぉなぁ。

A,Bが張る平行四辺形の面積Sは、
S=|A||B|sinθ …⑤
面積ですから、当然スカラーですね。
この平行四辺形の「高さ」が|B|sinθとなります。
すると外積「A×B」は、|A||B|sinθの大きさ(スカラー)をもつ、z軸に平行なベクトルであると定義できます。
つまり「外積」はベクトル積と言われます。
かならず元のベクトルに対して垂直な方向に外積が立ちます。

電磁気学では右手系、左手系(フレミングの法則)を数学的に論じる場合、「外積」が必要になってきます。
※これらベクトルの積に関しては、別に「行列」の知識を要します。

理系に進まない人は「外積」の知識は必要ないと思います。「内積」は高校の二年生の数学あたりで扱うかもしれません。