秋の長雨がアパートの窓ガラスを滝のように潤していた。
薄暗い部屋の中から、この窓越しの景色を眺めていると、あの時のことを思い出させる。

ぼくには、十違いの叔母がいた。
その叔母が亡くなって、五年が経ち、ぼくは東京の大学に行くために故郷を離れている。

叔母は父の妹で、当時、結婚もせずぼくら家族と祖父母と同居していた。
一人っ子のぼくは叔母が唯一の遊び相手であり、また母よりも面倒をみてくれた。
小学校の運動会に、仕事で忙しい両親の代わりに観に来てくれたり、遠足のお弁当まで作ってくれたこともあった。

叔母は、名を「秀子」といい、母は「ひでちゃん」と呼んで実の妹のように接していた。
ぼくも若い叔母に「おばちゃん」とも呼べず、「ひでちゃん」と呼んで姉のごとく慕っていた。

ぼくが中学生になり、難しい年頃になって、親に反発するようになって疎外感を味わっていた時も、ひでちゃんは寄り添ってくれた。

ひでちゃんは、生まれつき心臓が弱かった。
ぼくがそのことを知ったのは小学校高学年の頃だったと思う。
ひでちゃんがいつも家からあまり出ず、用事のある時だけ出掛ける生活だった。
出かけるといっても津市内の大学病院に行くのだと聞いたからだ。
「ひでちゃんは、どこが悪いの?」
「心臓が、ちょっとね」
二十歳を過ぎたばかりの叔母は、寂しそうにそう教えてくれた。
色白でどこか影の薄かった叔母の姿は、病のせいだと知ったのだった。
母の話では、叔母は高校もほとんど休みがちで、ぎりぎりの出席日数で卒業したのだという。
手術の話もあったのだが、助かる見込みが少ないので医師も及び腰だったそうだ。
そんなひでちゃんだったが、ふだんは少し駆けたり、ぼくと明神山に登ったりしたから、ぼくは病気のことを深刻に考えてはいなかった。

ひでちゃんは高校を休みがちだったが、お勉強はよくできた。
だから中学のぼくの勉強もよく見てくれた。
ぼくは英語が苦手で、どうしても点数が伸びなかったのに、ひでちゃんが英単語の覚え方なんぞを教えてくれて、ずいぶん助かった。
県立高校に合格したのも、ひでちゃんのおかげだった。

高校に入学した春、ぼくは勉強部屋をひでちゃんと片付けていた。
忘れもしない、ひでちゃんとの大切な思い出。
なぜかその日はだれも家におらず、二人っきりだった。
ほんとうにぼくが一方的に悪いのだが、つまり、あの…女の人の裸の写真が載っている雑誌を隠していたのを、ひでちゃんがうっかり見つけてしまったのだ。
「あ、あらら…ごめんなさい」
ひでちゃんも、ばつが悪そうにさっとそれを裏返して元あったところに押し込んだ。
ぼくはどういう顔をしていいのか、恥ずかしさでいっぱいで、黙っていた。
ひでちゃんは、そっと部屋を出て行ってしまった。

この本は悪友の清水から借りたままになっている大人向けの写真雑誌で、陰部にぼかしの入ったかなりきわどい、品性下劣な本だった。
こんなものを、清廉な叔母が見たら、ぼくをさげすむだろう。
ぼくは紙袋に入れてガムテープで閉じ、ごみと一緒にビニール袋に入れた。

おおかた、整理のついた部屋でぼくは部屋に風を通しながら、鈴鹿の山々を遠くに眺めていた。
「淳くん、入っていい?」
「え、うん」
「きれいになったね。本が多かったから」
「まあね」
ひでちゃんは、お盆にどら焼きとコーヒーを乗っけて携(たずさ)えて立っていた。
ピンクのエプロン姿で。
半袖のブラウスからしなやかな腕が伸び、つんとした胸の山、細い首…
ぼくは叔母のパーツを嫌らしく舐めるように見ていたのだろうか。
「なあに?じっとあたしを見て…ほらお菓子食べない?」
「あ、うん。食べるよ」
「兄さんたち、まだ帰ってこないね」
「四日市まで行ってるからね、道路も混んでるんだよ」
国道163号線は混むのだ。
「お母ちゃん、車に弱いから…だいじょうぶかな」
祖母のことを言っているのだ。
ぼくの両親は、祖父母を連れて、車で四日市市の家具店に隠居部屋のタンスを買いに行ったのだった。
隠居部屋には古い箪笥があったのだが、虫が食って、捨てなければならくなったのだ。
二人でおやつを食べ、ひとしきりとりとめもない話をしていた。
話の穂先を探り合っていたというのが正直なところだった。
屈託のなかった叔母との会話でこんな経験は初めてだった。
今からも思えば、叔母を女として意識してしまっていたのだろう。
「淳ちゃんもあんな本を見るんだ」
とうとうその話になったか…
「ごめんね、恥ずかしいことだもんね」
「…」
ぼくはどう返事をしたものか考えあぐねていた。
「ひでちゃん、ひでちゃんは好きな人とかいるの?」
「いないよ…仕事にも出ていないし、出会いもないわ。淳ちゃんはどうなの?」
「ぼく?いいなと思う子はいるけど、つき合ってはいない」
「そっか。その子とはお話はしたことあるの?」
「ううん。あいさつくらい…かな」
「かわいいの?」
「ふつう」
「あたしもそういう人がほしいな」
うーんと伸びをする、叔母だった。
その表情がなんか誘っているようで、ぼくはどきりとした。
「ひでちゃん…キスしよっか」
「ええーっ」
ひきつった笑顔で叔母が引いた。
「いいでしょ?」
「だめだよぉ」
と拒否しながらも、まんざらでもない表情だと受け取った。
ぼくは叔母の横ににじり寄って、肩に腕を回した。
「淳ちゃん…」
ぼくは口を思い切って近づけていった。
叔母は目をつむった。
してもいいというサインだった。
ふっと、肉と肉が触れ合った。
叔母は、固まったように両手を座ったまま「気を付け」をしていた。
ぼくは大胆になって、唇を押し付け、舌を入れてみた。
叔母も舌を絡めてきた。
しかし、そのふれあいは、ガラスのようにか弱く、ともすれば逃げようとする小鳥のように微妙だった。
ぼくは慎重に、逃げられないように舌先に集中した。
はふう…
いい加減、息が苦しくなって離れた。
「淳ちゃん、キスしたことがあるの?」
「ど、どうして?」
「なんか上手だから…」
顔を赤らめて、叔母は上目遣いにぼくを見た。
叔母が年下の少女に見えた瞬間だった。

ぼくはだんだん図々しくなって、叔母の体を触りたくなった。
エプロンの下のブラウスのボタンの合わせ目から手のひらを入れようとした。
「だめよ、そんなところ」
「いいじゃないか、触らせて」
「淳ちゃん…」
叔母は困ったような表情をして、あきらめたようだった。
「待って」
叔母は、エプロンの肩ひもを腕から抜いて、ブラウスだけになった。
「いいの?」
「訊かないの、そんなこと…」
叔母は、ブラウスの前ボタンをはずし始めた。
ぼくは「えっ」という顔をしたと思う。
ぼくの目の前で、女が服を脱いでいる…
みるみる上半身は裸になり、ブラジャーの背中のホックを外そうとしている叔母がいる。
風呂にでも入るような軽さで、脱いでいくのだ。
「あの…ひでちゃん…」
「どうしたの?触りたいんでしょ?」
きっぱりと言った叔母だった。
プルンと二つの膨らみがぼくの前に押し出された。
幼いころ、風呂に一緒に入っていたのだから、見慣れているはずだった。
しかし、今、目の前にある叔母のバストはぼくの性欲を満たすために開陳されているのだった。
ぼくはためらいつつも、両手を出してその可愛らしいふくらみに触れた。
「柔らかい…」
「ああ…」
ため息ともつかない声を上げる叔母、ひでちゃん。
ぼくは、その乳首をつまみ、軽く引っ張ってみた。
「やん…淳ちゃんたら」
にっこり笑う叔母を見てぼくは大胆になった。
そしてぼくは勃起していた。
ジャージの前がかなり目立つくらいに。
「舐めてもいいのよ」
叔母がこんなことを言うなんて、信じられなかったが、ぼくはもう自分を止められなかった。
はむっ…
乳首を口に含み、舌先で転がした。
「あうん、淳…ちゃん、ああん」
あのグラビアの女のように、体をのけぞらせ、乳房をぼくに与える叔母。
二十五、六のはちきれそうな肉体をぼくは自由にしていた。
はあっ、はあっ
しんどそうに、叔母が喘いでいる。
そうだ、心臓が悪いのだった。
「ひでちゃん?大丈夫?」
「あ、ああ、ちょっと、しんどくなった…」
「ぼく、だめだね…ひでちゃんにこんなことをしてしまって」
「ううん、いいの。あたしもしてほしかったから…」
二人はどちらからともなく離れた。
「ひでちゃんも、こういうことしたくなるの?」
「うん」
赤い顔ではにかんで言う叔母。
「セックスなんて、やっぱりしたくなる?」
「うん」
「でも経験はないんだろ?」
「ないよ。相手いないもん」
「もしよかったら、ぼくが…」
「だめだよ。血がつながってるから」
「だよね」
そう言って黙ってしまったぼくを、のぞき込むように叔母が、
「しよっか…なんか、あたし、もう先が短いような気がして、このまま死んじゃうんなら、淳ちゃんにしてもらったら思い残すこともないわ」
そんな縁起でもないことを早口で叔母は言ってのけたのだ。
「そんなこと言うなよ。ひでちゃん」
「ごめんね。迷惑だよね」
「そんなことないんだけど、死んじゃうなんて、考えたくないよ」
「すぐにね、このごろ息が切れるの」
「心臓が弱ってるのかな?」
「そうだと思う。先生は激しい運動はやめた方がいいっていうし」
「セックスなんか激しいよ」
「そうだね。ここで裸で死んじゃったら淳ちゃん、困るよねぇ」
「そんな冗談、よくないよ。もう」
「やっぱ、やめようか」
「でも、したい」
ぼくは、いったい、何を考えているのだろう。

ぼくたちは、叔母の部屋のベッドで裸で抱き合っていた。
やっぱりすることにしたのだ。
ここならもしものことがあった場合でも言い訳ができるだろうというのが叔母の考えだった。
濃厚なキスを交わし、白い肌をぼくは抱いた。
硬いペニスは叔母の腿に挟まれ、邪魔にならないようにしてくれた。
「すっごく硬いね」
「うん、ひでちゃんだから、ギンギンさ」
「お世辞でもうれしいわ。でも男の子ってすごいな」
そう言って握ってきた。
「だめだよ、そんなに触っちゃ出ちゃうよ」
「そうなの?出ちゃったら出ちゃったでいいじゃない。見たいわ」
「一度出すと、もうできないかも」
「そうなの?じゃ、我慢して」
ぼくは叔母の割れ目を指で探った。
「あん…そこ、感じる」
「濡れてる…」
「そうよ。知ってるんでしょ?女が濡れることくらい」
「うん」
クリトリスに触れた時、叔母は電撃を食らったように痙攣した。
「あふっ!」
「やばい?」
「いま、来た…なんか、びびっと」
「いったの?」
「わかんないけど、そうかもしれない」
「舐めてあげようか」
ぼくは、女性のそこを舐めるという行為を知っていた。
「やだぁ…はずかしいから」
「平気だよ」
「汚いからよして」
そう言われると、無理強いはできない。
「じゃあ、入れてみようか」
ぼくのほうから、尋ねてみた。
「うん、優しくしてね。淳ちゃん」
「コンドームとかないけど」
「外に出してくれたらいいから」
「うん」
「我慢できなかったら、中でも大丈夫だよ。無理しなくていいからね。安全な日だから」
そう言ってぼくを安心させてくれるのだった。
ぼくは正常位で向き直って、自身の先端を叔母のぽっかり空いた穴に当てがった。
「入れるよ」
「来て」
ぬち…
にゅうっとぼくは押し込んだ。
そして腰が密着するほどまで押し付けて叔母に抱き着く。
「ああん、すごい…」
「入ったよ。痛くないかい?」
「少し痛かったけど、大丈夫」
叔母の中は熱く、きつく締め付けてきた。
あまり動けないくらいだった。
このまま抱き合っているだけでも、心地よかった。
自然と口と口が合わさり、熱い接吻になる。
叔母と甥ではなく、もう恋人同士だった。
ぼくの胸板に叔母の柔らかい双乳が押し付けられる。
叔母の甘い体臭に鼻翼が膨らむようだった。
肌を重ねているうちに、腰に快感が走り、このままでは叔母の胎内に射精してしまう。
「ひでちゃん、抜くよ。出ちゃう」
「抜かないでっ」
叔母はあろうことか両足でぼくの腰を締め付けて、がっしりと組み合った。
「あはあ、ああ、出たぁ」
びくびくびく…
ぼくは今までにない快感に襲われ、長い射精を叔母の胎内に放った。
「ひでちゃん…出しちゃったよ…中に」
「いいのよ、いいの…」
叔母は涙ぐんで言うのだった。
ぼくはまたキスをねだった。
む…ちゅっ…
「ああ、また…」
叔母が気づいたようだった。
そう、ぼくはまた硬さを取り戻していた。
差し込んだままぼくたちは抱き合っていたのだ。
ぼくは叔母を犬のように犯したい衝動にかられた。
「ねえ、うしろから」
いったん離れて、ぼくはねだった。
「そんな…」
ためらいながらも、叔母は四つ這いになってお尻を突き出してくれた。
「これでいい?」
「うまくいくかなぁ」
高さを合わせるのが難しかったが、何度か押し付けるとにゅるりと入り込んだ。
「うあっ!」
叔母が大きな声を出した。
パチンと二人ははまり合い、叔母の尻とぼくの下腹がくっついた。
「こわいわ。すっごく奥まで…深いの…淳ちゃんの」
「だいじょうぶだよ」
「はあっ、はっ」
「ひでちゃん、ひでちゃん!」
ぼくは一度出しているので余裕で突いた。
でもあまり激しくすると、叔母の心臓に負担がかかる。
しかしこの締め付け感がたまらなかった。
きゅうきゅうと搾るように叔母の胎内が動くのだ。
ぼくは腰を使ってゆっくり出し入れした。
「やん、すごい、だめぇ!」
「いいの?ひでちゃん」
「いい、良すぎる。こわいよぅ」
さっき射精した精液がぼくのペニスにまとわりついて、掻き出されてくる。
泡を噛んだ、結合部分は粘液質の音を立てて部屋に響く。
ぬち、ぬち、ぬち…
また射精感が到来した。
腰がしびれて、ぼくは叔母にかぶさるように抱き着き、乳房をつかんだ。
「やめっ、いくっ」
そう言ったのは叔母の方だった。
ぼくも遠慮なく叔母の奥に精液をしぶかせた。
びしゅっ…
「ああん…」
叔母がへしゃげ、ベッドに突っ伏した。
肩で息をしていて、しんどそうだった。
ぼくは今度は直ちに離れてあげ、楽にしてやった。
「ああ、ちょっと不整脈が出てる…もう、かんにん」
涙目で叔母がぼくに訴えた。
叔母の膣から、ぼくの出したものが流れ出し、叔母のベッドのシーツに大きなシミを作っている。

ぼくは叔母の在りし日の姿を思い浮かべて涙した。
雨が小降りになったのか窓ガラスを潤していた流れは切れていた。
下を見ると、あの日のようにヒガンバナが畦に咲き誇っている。

別れは秋に、突然やってきたのだ。
ぼくが学校に行っている間に、叔母が庭で苦しみ出したらしい。
母がいたので救急車を呼んだけれど、意識の戻らぬまま病院の集中治療室に運ばれて、ぼくが担任の先生から帰宅するように言われたときにはもう叔母は旅立ってしまっていた。
病院に急いだけれど、ぼくを待っていたのは安らかに眠っているような叔母の顔だった。
そばで母が嗚咽を漏らしていた。
窓際で祖母と祖父が静かに泣いていた。
父は仕事場からこっちに向かっているらしいが、まだ到着していなかった。
ぼくは、叔母の手を取り、その暖かみの残る指にぼくの指を絡ませた。
今にも目を開いて「淳ちゃん」と呼んでくれるように感じた。
でもその手指は力なく、握り返してくれることはなかった。
「ひでちゃん…」
ぼくには、そのあとの言葉が涙で続かなかった。
視界が潤ったガラスのように流れ、ひでちゃんの顔は笑っているように見えた。

(おしまい)