「こんにちは、森田検索です。今回はですね、横山尚子さんと、内外小鉄デスクを交えて「悩める男の『非モテ』論」を論じてみたいと思います。この毎日新聞の記事が元ネタなんですが、皆さん、読まれましたか?」
「立命館大学の院生、西井開さんの研究ですね。非モテの定義が目を引きます」
と、内外デスク。
「私が読んでみます。①複数の異性から好意を寄せられたいのに、かなわない。②自分が好きな異性から好意を寄せられない。③恋愛未経験などの性愛的挫折がトラウマ化している。という、なんとも身勝手な定義ですわね」と、あたしはシラケた気持ちで淡々と述べた。
「ここで断られているように、あくまでも主観的な状態の定義だそうです」
「そこで、もうアウトやね。定義は客観を旨とすべしですもん」と、あたし。
「まあまあ、横山さん、ここはひとつ、寛容に」
「はいはい」

「西井さんは、なんでモテにこだわるのかと問いかけるんです」
「あたし、こだわんない」
「西井さんは「人は」とモテの主語を決めているようですが、おそらく彼は「男は」と内心おもっているのではないかな」と、デスクがぼそりという。
「そうよ、この人、最初っから男のモテ論を言いたいのよ」
あたしは、まぜっかえした。
「まあまあ、西井さんはもともとジェンダー論に関心が深く、この研究に進んだと新聞にも書いてあります。彼は一応彼女もいるらしいですが、何か物足りなさを感じているとも告白しています」
「勝手よねぇ。相手だってそう思っているわよ」
「女よりも、男がモテる、モテないを気にするのは動物として当然なんじゃないかな」
デスクは冷静に述べた。
「そうよ。改めて論じるまでもないわ。男は自分の遺伝子を残したいから、女にもてたいわけでしょう?」
「そうなんですが、現に人間の若い男の子は非モテに悩んでいる。それを心理学や社会学の面から掘り下げようというのが西井さんの取り組みなんですね」
「動物行動学からアプローチすれば、わかりそうなもんじゃないの?」
「当然、西井さんもそれは考えておられると思いますよ」
「だいたい、この①の複数の女性から好意を寄せられたいなんて、男ならみんな思ってるでしょうよ。だから不倫が無くならないんだから」
「いい畑を見つけたら種を蒔きたいという男の心理だね」内外さんがほくそ笑む。
「②だって、自分勝手よね。だれだって、意中の相手から好意を寄せられたいわよ。相思相愛なんて夢物語なんだから。適当なところで妥協するしかないのよ」
「身もふたもないですな、なおぼんにかかっちゃ」
「西井さんも言っているように、男はファンタジーを求めるんだそうです。だから過度な要求と裏腹になって、こんなはずじゃなかったとなるらしい」
「それこそ、身もふたもないじゃない」
あたしも、あきれた声を上げた。

「西井さんは、非モテからの解放を模索し、これで悩み苦しまない、我欲を満たすだけの異性関係を求めない方法を見つけ出したいと言っています。さらに別の形のモテを確立するんだとも」
「はぁ?ばかじゃないの?いい歳こいて、この人、何言ってんのよ」
「研究ですから」
「研究費の無駄ね」
「学問の自由は保障されているんで…」
「勝手にしな」
あたしは、もう言うことはなかった。