お降りや 竹深々と町のそら (芥川龍之介)

「お降(さが)り」もしくは「御降り」とは、雨(雪)のことで、天から降(さが)ってくるからそういうらしい。
それでこれの季節は「お正月」なんだそうだ。
「季寄せ」などには「正月三が日に降る雨や雪」のことだと書いてある。

この句を最初に見たのはいつだったか忘れてしまったが、曇天のあたたかい正月なんじゃないかなと勝手に思ってた。
もちろん芥川の真意は、今もってわからないけれど。
「氷雨や小雪かもしれないから、そんなにあったかくないぜ」と元気なころの夫が反論してきたのを思い出す。

今年の北陸はまれに見る豪雪で、大きな被害が出てしまった。
福井の丸岡っていうところや、芦原温泉の周辺、三国港付近は私が昔に勤務していた化学会社の工場があったのでよく行ったし、知り合いも多い。
安否が気遣われる。

それにしても京都市内や南部はそういう災害にあわない。
内陸なので、日本海側や紀伊半島の高い山で雪や雨が落とされて、寒風だけが吹いてくる。
盆地特有の底冷えは避けられないが、豪雪とは縁がない。
『今昔物語集』に「実因僧都の強力」というお話がある。
寒い冬の京の都の夜、比叡山の僧都、実因がある盗人に狙われた。
追いはぎである。
男は僧都を背負ってあげましょうと言葉巧みに誘い、僧都を背負って寂しいところで強盗を働こうという魂胆だったようだ。
それがわかると実因は僧兵上がりの力持ちだから(本当は高僧)、背負われたまま両足で彼の腰を締め上げたからたまらない。
「僧都様、許してください」と懇願するが…
聞けば、彼はその日の生活も事欠くありさまで、しかたなく僧都を狙ったという。
実因は、ただ許すのは盗人のためにならないと考え、夜中の都大路を西へ東へと盗人に負わせて走らせる。
盗人が許しを乞うと、まだまだとばかりに、実因は負われた状態で両足で万力のように盗人の腰を挟むのだった。
盗人は泣き泣き都をひた走った。
夜も白白明けるころ、実因は盗人を解放してやる。
そして実因が身につけていた高価な僧衣や持ち物をその盗人にくれてやった。

そういうお話。
あたしは、京都の夜寒を知っているからこのお話の状況がよくわかる。
盗人も可哀そうだが、道徳を庶民に訴えるにはこういう法話じみたものがよく伝わるのだろう。

さて、スコッチをすすってから寝るとしますか。
今夜も寒いです。