蒲生譲二と喫茶店で落ち合った。
私のセカンドバッグを見て、
「なんやそれ、ヴィトンのパチもんけ?」
「失礼な、本もんですって」
「うそこけぇ、そんなカエルみたいな色のヴィトンがあるけ」
「ありますって!」
関西では「偽物」のことを「パチもん」という人がいる。
「本物のええとこをパチッてきた」物という意味だろう。
「パチる」がわからん?
「盗む」ってことよ。

よく似た言葉に「ばったもん」がある。
そういう品物を扱うお店を「ばった問屋」とかいう。
これは「偽物」ではなくホンマもんなんだけど正規ルートで仕入れていない物なのだそうだ。
「正規でない」とはたとえば「倒産品」とか「盗品」「質流れ」「棚ずれ品(長期在庫品)」「展示品」などなど。
「ドンキ」なんてのも、もとは「倒産品」を扱うバッタ問屋でしょ?違ったらごめんね。
「会長、なんでばったもんて言うんです?」
「あれはな、そやな、バッタバタと倒産するからやろ?」
「ほんまでっかいな」
「わしも知らんわい」
会社が左前になって倒産すると、債権者がよってたかって在庫品を買いたたく。
そういったものを安く仕入れて安く売れば、薄利多売でしのげるってわけ。
蒲生もそれで一旗揚げたころがあったと話していた。

日本では偽物を売っても買っても罰せられるんで要注意ですよ。
「このヴィトンは本物です!」
「わかった、わかった」
蒲生は、煙たそうにタバコを吸いながら、「週刊現代」を開いていた。
「柏木のやつ、おっそいな。もう二時回ってんど」
「また、女でしょ」
「そやろな」
私も腕時計を見た。
山科は春だった。
サクラは来週には咲くんじゃないかしら?

慣れないスーツ姿の「マーシャル」こと柏木勝が店に入ってきた。
私たちを認めると、足早にテーブルに近づいてきて、
「すんません。おやっさん」
「何分待たせるんや。先方さん、逃げよるで」
「車の手配がちょっと」
「ええ車、あったけ?」
「黒のフーガで、どうです?」
「レクサスっていう話やなかったけ?」
「それがその…」
「まあええわい、とにかく急ご。なおぼん、これでここの支払い」
そう言って蒲生会長は、万札を私に握らせた。
「釣りはとっとけ。行き掛けの駄賃や」そう言って蒲生はにんまりと笑みを浮かべた。

駐車場にみんなして向かうと、真っ黒でピッカピカのフーガが停めてあった。
「わ…やて。レンタカーまるわかりやん」
私はマーシャルに小突きながら、小声で言う。
五分刈りの頭を掻きながら、彼は、
「言わんといてぇな」
と苦笑い。
「マジックで「ね」に書き換えとこか?」
「つかまりまへんか?」
「そのときは、そのときやん。ぜったい、わかれへんて」
「お前ら、何をごちゃごちゃ言うてんね。柏木、早よ出せ。なおぼん、乗らんかい」
「はいっ」

私たちは、とある資産家を瞞着するために、大芝居を打つつもりなのだ。

蒲生会長がファイナンシャル会社の社長で、柏木が営業マン、私がプレゼンターという設定だ。
「あの爺さんは、いけるで」
「ほうですか」
フーガのハンドルを切りながら柏木が応える。
「小金塚の土地を二束三文で転がすんや」
「あんなとこ、宅地にもなりまへんで」
「いや、宅地が迫っとる。もう遅いくらいや」
「へぇ」
とかなんとか言いながら二人がしゃべっているが、私はまったく興味がなかった。
「会長、わたしどんな顔して座ってたらええんです?」
「あほみたいにニコニコして、わしの隣に座っとったらええ」
「・・・」
会話が途切れたとき、蒲生会長がおもむろに口を開いた。
「お前ら、なんであそこが小金塚って言うか知ってるけ?」
「知りまへん…けど」
「埋蔵金があるんや」
「ほ、ほんまでっか?」
マーシャルが蒲生の方を見る。
「ちゃんと前向いて運転せぇ、ドアホ!」
「すんまへん」
「ほんまやでぇ。ひひひ」
私は眉に唾をつけて聞いていた。
京都市山科区四ノ宮小金塚…
私は取り寄せてきた登記簿をバッグから取り出して読んだ。
国土地理院の2万5000分の一の地図の写しも広げる。
区画整理され住宅がすでに建って久しい。
ここのどこに埋蔵金があるというのだ?
塚というからには古墳かなんかだろうが、四ノ宮自体、天皇家となにやら関係がありそうだ。
拡大鏡を見ていると車に酔ってくるので、私は車窓に目を移した。