「スク水君は、スク水少女以外に好きなものはあるの?」
私は、番組収録中に訊いてやった。
「ぼかぁ、昆虫なんかが好きです」
「むし?」
「中学生くらいの頃は、昆虫採集をやってましてね。あ、そうそう今日の新聞に、関西学院大学の研究者がおこなった、アリの最新の研究成果が載ってました。おもしろいですよ」
「へぇ。じゃ、そのことをリスナーの皆さんにお話してもらおうかな」
「いいんですか?」
「ロリコンの話よりはいいと思うよ。リスナーのあんたへの印象も変わるかもね」
「下地博之っていう進化生態学の先生が英国王立協会紀要の電子版に発表なさったんです」
「ふんふん」
私は、こういうアカデミックな話題なら歓迎だった。
「横山さんが、アリの生態のことをどれだけご存知かしらないですが、それでもアリが社会性の昆虫であることはご存知でしょう?」
「そりゃ、まあ」
「働きアリがみなメスであることも知っておられますか?」
「知ってるよ。女王アリがみんな産むんだよね」
「そうです。単為発生といって、交配のない、つまり交尾によって生まれない発生なんです」
「それがどうかしたの?」
「じゃあ、働きアリのメスたちが卵を産むことはあるでしょうか?」
「ないんじゃないの?女王だけなんでしょ?卵を産むのは」
「それがそうとも言えないのが、下地先生たちの観察結果だったんですよ。新発見です」
「へぇ、その子たちもメスなのかしら?」
「どうやらオスらしい。しかし育たないんです」
「育たないの?」
「沖縄に棲息するトゲオオハリアリの生態をつぶさに観察すると、彼女らは100匹程度の小集団で生活している。そのままだと、働きアリは卵を産んだりしません。でも産む力を持っている。それがどんなときに発現するのか、隔離してみたんですよ。一定期間集団から隔離しますとね、メスの働きアリの卵巣が肥大してくるんです」
「産めるんだ…」私は少なからず驚いた。
「次にですね、先生たちは、このおなかの大きな働きアリをもとの集団に戻すんですよ」
「どうなるの?」
「ほかの働きアリたちが、その臨月の働きアリを羽交い絞めにして、産卵させないように邪魔するんです。彼女らにとって、女王以外が卵を産むことは許されないことらしい」
「そんでも産まれたらどうすんのさ」
「卵を食べちゃう。もしくは破壊するという行為が観察されたそうですよ」
「ひどいわね」
「ところがね、トゲオオハリアリよりも大きな集団をつくるアリでは、こういう邪魔する行為などは減っていくのだそうです」
「へぇ」
「下地先生の見立てでは、集団が小さいときに働きアリの産卵を許すと、秩序が乱れ、生まれた雄アリも未熟で働くこともできず、集団の足手まといになるだけですから、お互いの産卵を許さない仕組みが集団に備わっているのだとしています」
「アリが集団の利益を優先するようになってんのね。全体主義が昆虫社会にもあるんだね」
「そのように記事は締めくくってました」
「そういえば、このあいだ、保育士の女性たちが、産卵じゃなかった、出産の順番を決めさせられて、その掟(おきて)に背いたら、厳罰が下るようなことが、往々にして実施されていて、人権侵害じゃないのかってブログに書いたけど、これとよく似てるわね。働き方と出産の関係性というか、つまりは、産休や育休が集団に迷惑をかける行為だという考え方よ」
「まさに、アリの世界ではそうなんです」
「生物の根源的な問題なのか…根深いわね」
「社会性動物の場合、よく観察すれば、集団優先の仕組みが見つけられると思いますよ」
「よくわかりました。スク水君、今日はどうもありがとう。あなたの少女趣味も何か、意味のある行為なのかもしれないわね」
「そうであれば、救われます。こちらこそ、どうもありがとうございました」

この番組の反響はどうだろう?
楽しみだ。