またこんな本が出た。
『日本人に生まれて、まあよかった』(東大名誉教授 平川祐弘、新潮社)である。
「朝日新聞を定期購読でお読みになる皆さんへ」という項をたてて、自虐思想を指弾する意見を述べている。
全体に、「朝日新聞を読むサヨク」に対する批判的な「決めつけ」意見で、とうてい承服できかねる。
百田尚樹が「子供の頃から左翼が嫌いだった」といっているのと変わらない。

朝日に対するバッシングが、根拠なき(彼らはあるという)、それこそ「些末な、重箱の隅」のことをあげつらうことからスタートし、すべての日本人の誇りを奪う「自虐的、左翼的」考え方を「考え直せ」と慇懃にいうのである。
大きなお世話だ。
お前らこそ、頭を冷やせよ。ばかものめ。

どんなことをほざいているかというと、こうだ。
「朝日新聞からは近年も、中国特派員を辞めた後、北京の日本向け宣伝誌『人民中国』の編集部に勤めていた者がいました。こんな様(ざま)では公正な中国報道がなされるはずがない」と決めつけている。
「それとも、あれもこれも職業選択の自由のうちでしょうか」と皮肉る。

まるで、中国で働いただけで犯罪者扱いだ。
嫌中思想が根底にあることが明白で、とうてい公正な意見とは思えないし、東大名誉教授の名が泣くぜ。

朝日新聞としては中国情勢に明るい人物を採用して紙面の充実を図ろうと、経験者を雇い入れるのは当然の意思決定だと思う。
平川氏こそ、この当該朝日記者が批判される記事を書いたのかどうかお調べになったのだろうか?
「職業選択の自由」と「役人の天下り」を同レベルで議論している平川氏こそ、本質を見ていない。
彼は文科省の天下り事件に近しいのか、擁護するような意見を述べている。

また、
「世間には『朝日新聞』の主張と異なる意見を述べると『日本の右傾化』と騒ぐ人がいます。だがそうした人は『朝日新聞』の左傾化という現象に気が付かない」
と相対論を述べ、「日本国がきちんと自国の安全を守ることができるよう法律を改めることを右傾化と呼ぶのは、日本人に軍隊を持たせればわが国がまた必ず軍部主導の国家となると決めてかかるようなもので…」と、まさに政府御用学者の意見をしゃあしゃあと述べている。
日本を取り巻く国々は、日本に軍隊を持たせれば、またもや軍国主義が起こると本気で思っていることは事実で、それはわれわれ日本人でもそう思っている。
もう過ちは繰り返してはいけない。
その反省が戦後世代には伝わらず、若い人ほど、反省と自虐をいっしょくたにしている。
そもそも平川氏や百田氏、櫻井氏らの扇動がネトウヨを元気づけているのだ。
今の、安倍政権が右傾化していると指摘されていることを受けての平川氏の意見だろうが、まさに、日本会議などが懸念していることをそのまま述べているに過ぎない。

「自国の防衛を自分でできない永遠の十二歳の子供」という日本会議が好んで使うフレーズを持ち出して、自立を煽る。
国防が自立のすべてであるかのように。
しかしその実、アメリカの核の傘の下で、安保条約というカラ手形に寄り添うありさまは、十二の子供どころか飼い犬ではないか。

私は、日本の誇りというものは「武力」ではなく、「反省し、貢献する力」にあると思う。
そういうところに日本の誇りを見いだしたい。
サッカーW杯での日本サポーターのごみ拾い行動や、日本での外国人へのおもてなしの気持ち、世界の人々と手を携えて平和を実現する態度こそ、自発的愛国心を育むものだと信じている。
核を保有して抑止力を日本も持つのだなどと櫻井よし子氏などは言うけれど、元ジャーナリストが簡単に口にすべきことではないだろう。

朝日をこきおろすより先に、すべきことがあるだろうと私は思う。
朝日新聞には、こういったバッシングに負けないように、良いバランスをとって、正確な報道をお願いしたい。
足元をすくわれないうに。