巽ていは、高安重吉と結婚して女の喜びを知ったのだと思う。
私の幼いころの思い出として、巽夫人の厳しい面しか知らないが、上の二人の男の子と、その妹のゆらさんと、末っ子の和夫さんが似ていないことに気づいていた。
もしかして、巽夫人には人に言えぬ秘密があるのではないかと、今も疑っているのだ。
その夫人もすでに鬼籍に入ってしまわれたが。
巽家は、星田妙見の権現を祀る家柄だった。
家紋は「九曜紋」と言われる独特のもので、大きな円の周りに八つの小さな円が取り囲んでいる紋だった。
その神事というのがふさわしいのかどうか私にはわからないが、月に一度、巽家では「宇宙の神様」の信者が集まってなにやら音曲を奏でて、踊る様子が、私たちには奇異に見えた。
ゆらさんや和夫さんもそこに混じって、踊りなどをやらされていたのかもしれないが、私は多くを知らなかった。
私の母などは巽夫人のことを良く思っていなかったので、何かにつけて悪しざまに言うことが多かった。
父は、巽家から借家をしていたためか、あまり悪口を言わなかったが、重吉が満州でおこなったと言われる悪行については、よく語っていた。
だから重吉大叔父の印象は、すべて私の父の受け売りである。
ここからは私の想像だと思って読んでいただきたい。
ていは、ほぼ新婚生活に満足していた。
なによりも両親の期待通りに男の子を、それも二人も授かったことに、巽家の長女としてこの上ない満足を感じていた。
「重吉さんは、頼もしいし、なんでも言うとおりにしてくれる…」
世間知らずの、ていにとって重吉が世間のすべてを知っているように映った。
ていの知識は、ほぼ重吉から得たものに等しかった。
次男の武夫が幼稚園に通う頃になると、重吉が体を求めてくることも少なくなってきた。
外に女ができたといううわさも聞かないので、あまり気にしてはいなかった。
重吉はその頃、門真の町役場に水道局職員として働いていた。
門真の名士である、ていの父親の口添えと町会議員の淀井照正(てるまさ)の計らいで、当時、成り手のない公務員の職に、無試験で就けたのである。
地方の公務員の一部にはコネクションでなれた人も多かった。
重吉は元来、難しい仕事に向かない性格であり、飽きっぽく、酒と煙草をこよなく愛すだけの趣味のない人間にとって、水道局は極めて居心地のいい職場だった。
いつも朝九時半に出勤して、事務員の淹れてくれた茶を飲み、新聞を読んで、おもむろに「出回り」と称して近所の喫茶店に入って、コーヒーを飲み、昼に帰ると、届いている仕出し弁当をつつく。
そうして、午後一には一応の書類に目を通し、ハンコを突くだけの毎日を終えて、五時に帰宅するのだった。
これで退屈しなかったのは、事務の塚谷瑛子(つかたに えいこ)という三十路の職員と昵懇になっていたからだ。
水道局は町役場の建物とは離れていて、「二番」と呼ばれる地域の端の方にあり、瑛子はその近所のアパートに一人暮らしていた。
仕事の合間に二人は別々に職場を離れて、アパートで落ち合っていた。
よほどうまくやっていたのか、このことがバレる様子はなかった。
瑛子が「お局」然としていて、浮いた話とはまったく無縁の地味な女だったからだ。
重吉はそんなことはお構いなしに、体のいい女を嗅ぎつける天才だった。
瑛子の裸体はすばらしかった。
度のきつい眼鏡をはずすと、得も言われぬ、妖艶な潤んだ瞳をしていた。
声は低いが、そのため喘ぎ声は熟しており、ささやくような愛の交歓が、ていには無いものだった。
「えいこ、お前はどこでこんなことを覚えたんや?え?」
ねっとりと、重吉の男根を舐め上げる、厚い唇を見ながら、重吉が訊く。
「女やったら、だれでもしてるんちゃうの?」
「そんなことあるけえ。水商売でもやっとったんやろ?」
「水道局やもんね。水商売には違いないわ」
「ふん。うまいこと言いやがって。あ、それ。たまらんなぁ」
鈴口に尖った舌先をねじ込まれ、重吉がのけぞった。
重吉が瑛子と交わるときには、かならずサックを欠かさなかった。
瑛子がナマを許さなかったからだ。
重吉もややこしくなることを嫌って、避妊具を用いることにしぶしぶ従った。
対面座位で二人は長い時間、向き合って口を吸いあった。
「ああん」
「んむ」
瑛子の長い舌が、重吉の鼻の穴にまで伸びる。
重吉の口回りは瑛子の唾液で鈍く光っていた。
新しい玩具を見つけた重吉は、ていに飽きてしまったのだった。
巽家の行事では、信者の男衆(おとこし)の出入りも多くあった。
若い子は十八、九で親に連れられて入信してくる。
三十五になったていは、武夫も手を離れたころでもあり、父から受け継いだ祭祀司として充実していた。
そのはつらつとした姿に、一人の若者が熱いまなざしを向けていた。
「先生、こんどの土曜でも映画に行きまへんか」
積極的な、その青年の誘いに、最初はていも軽くいなしていた。
しかし、夫に顧みられない毎日にいらいらしていたていは一度だけのアバンチュールをしてみようと思った。
武夫を母に任せて、その青年、岡島圭一と梅田に出た。
岡島は、二十五で失恋したことから、入信したと打ち明けた。
「そうなんや…その子とはもう」
喫茶店でクリームソーダを飲みながら、ていが青年の相談に乗ってやっていた。
緑色の液体を見つめながら、圭一は、
「ええ、会ってません。でも、もうええんです。先生がいてくれはるから」
「は?」
ていは、その意味を測りかねていた。
「だから、巽先生に付き合ってほしいんです」
ゴクリと、ていはソーダ水を飲みこんだ。
くびすじに汗を感じた。
「私、夫がいるし、子供もいるのは知ってるんやろ」
「ええ、まあ」
「それって、不倫やんか」
「そうなんですけど…」
上目遣いに圭一が、ていをみる。
そのまなざしが、ていの心を揺さぶった。
かわいい…
そう思えた。
「わかったわ」
ていは、低い声で言った。
「ええんですか?」
訊き返したのは圭一の方だった。
「映画なんかやめて、これからホテル行けへん?」
圭一が、こんどはびっくりするほうだった。
ほんの三十分後に、大阪環状線の桜の宮駅にほど近いラヴホテルの一室に二人はいた。
ていは、排卵期が近いのか妙に体がうずくのだった。
そんなときに、頼れる夫は求めてくれない。
自分から物欲しそうにするのは、巽家の長女としてプライドが許さなかった。
男の方からひれ伏して、自分の体を求めてほしいのだった。
「さあ、わたしを自由に抱いてええのよ。圭一君。宇宙一体となりましょう」
妙見信仰と真言密教の一派「立川流」を合祀する巽家では、男女和合こそ御仏に救われる道と説く。
だからか、ていも性に対しては、その教えに従い、若い童貞を導くのも教義のひとつだと思っていた。
「あ、はい」
嬉々として、圭一は、ていに抱き着いて、口を吸ってきた。
ブラウスはもみくちゃにされ、スカートは大きくまくられた。
ストッキングに伝線がいくのもお構いなしに、乱暴な若い手が股間をこする。
強い男の体臭が、ていを狂わせる。
「ああ、もっと抱いて」
「せんせ」
硬くなった圭一の股間が、いやでも腿に当たる。
「脱ごうよ。圭一君」
このままではどうにもならないので、ていはいったん離れた。
圭一の精悍な体躯と、雄々しい勃起がていの前に開陳された。
腹筋は割れ、夫の重吉の体とは別のものに見えた。
勃起も鋭角で、ていを見据え、ていは思わず手を伸ばし、頬を寄せた。
崇拝すべき聖なる器官だと、ていは思った。
「サ、サックは…」
圭一が、カラカラになった口で、ていに尋ねてきた。
ていは、避妊についての知識がまったくといっていいほどなかった。
精液を外に出してもらえたらそれでいいと思っていた。
「サック?」
「これですよ」
ベッドの枕元に、薬のような包みがあった。
「何それ?」
「センセは知らないんですか?これをちんぽにかぶせて精液が、センセの体の中に入らないようにするゴムの袋ですよ」
「そんなものがあんの?知らんかったわ」
「じゃ、センセはご主人といつもナマで?」
「ナマって…普通そうやないの?外に出してくれたら、それでええわ」
「はぁ…じゃあ」
バカ話はそれくらいにという感じで、ていは圭一のくびにまとわりつき、唇を求めた。
妊娠について、ていは神からの授かりものだと教えられてきたから、たとい誰が相手でも妊娠したら産むつもりだった。
「圭一君、無理に外に出さんでもええわよ」
「せんせ」
「わたしが妊娠するのもしないのも、宇宙の神さんがおぼしめし…」
ていはそうつぶやいて、ベッドに倒れこんだ。
圭一は激しく、ていを抱き、我慢ならないという感じで挿入してきた。
「あっ」
鈍い痛みが膣に走ったが、快感の方が勝った。
ひさしぶりの充実感に、ていの両足が空を掻く。
「せんせ、気持ちええっすか?」
「ええわぁ、あんた、上手え」
長い陰茎を使った、ストロークに、ていは酔った。
船に揺られるような、その交接に重吉にはないものを感じた。
「圭一君は、童貞やないでしょ」
「まぁ、高校の時に、うちの隣のおばはんに捧げてから、卒業するまでの二年間ずっと」
「そのひととやってたん?」
「受験のときとか、むしゃくしゃしたら、隣の家に入り浸って」
「その人、家族はいいひんの?」
「小学生の女の子がいたはずやけど、見つからんようにしてました」
「だんなさんは?」
「いてたけど、タクの運転手で、ほとんど家におらんかったんです」
揺られながら、硬い圭一を胎内に感じながら、ていは圭一の過去の話を聴いていた。
「せんせ、バックからええですか?」
「してくれるの?好きやねんそのかっこ」
ていが自分からくるりと体を入れ替えると、いったん抜けた圭一が後ろから突き刺してきた。
「あうっ」
思わずていの口から声が漏れる。
「せんせ、よう締まりますわ」
「そんなん、言わんといてぇ」
ぎっしぎっしとベッドが軋む。
正常位より激しい突きが、ていを襲う。
ていは、シーツをわし掴んで、衝撃に耐えた。
陰門がめくれ、淫靡な音が部屋に響く。
「ああん、あはん」
「せんせ、どうです」
「ええわ。奥まで来てる」
「入ってますよ。全部」
「ああ、もうだめ」
「ぼくも逝きます」
「中に出してええよ」
「ほんまですか?」
「そうでないと宇宙の神さんが、怒らはる」
「そうなんですか?ほんなら」
圭一の動きが、早くなった。
ていの尻肉が大きく押し広げられ、圭一の突入を受けている。
豊かな乳房はあらぬ方向に揺らされ、その激しさを現わしていた。
「せんせ!いきます」
「ああっ!ほしいっ!」
若い樹液が大量に注ぎ込まれた。
圭一は抜かずにそのまま、ていの上に覆いかぶさり、余韻を楽しんでいた。
硬さを保ったまま…
ていは知っていた、由良と和夫が圭一の子であることを。
重吉はそれを知ってか知らずか、何も問わず、我が子のようにいつくしんでくれた。
元より、養子の身である重吉は、楽しく生きていければそれでよかった。
子が多いからとて、生活に困るような家柄ではなかった。
圭一は巽家の男衆として住み込み、祭祀の裏方を喜んでしていた。
その間も重吉の目を盗んで、二人は交接を楽しんでいたのだろう。
一方で、重吉も瑛子との腐れ縁を切ることができず、泥沼のような関係を続けていたらしい。
私の想像は、この辺で終わる。
今年の正月に門真の巽家付近に訪れたが、すっかり変わってしまって、あのお屋敷の影も形もなかった。
あの一族はどうなったのだろうか?
(おしまい)
私の幼いころの思い出として、巽夫人の厳しい面しか知らないが、上の二人の男の子と、その妹のゆらさんと、末っ子の和夫さんが似ていないことに気づいていた。
もしかして、巽夫人には人に言えぬ秘密があるのではないかと、今も疑っているのだ。
その夫人もすでに鬼籍に入ってしまわれたが。
巽家は、星田妙見の権現を祀る家柄だった。
家紋は「九曜紋」と言われる独特のもので、大きな円の周りに八つの小さな円が取り囲んでいる紋だった。
その神事というのがふさわしいのかどうか私にはわからないが、月に一度、巽家では「宇宙の神様」の信者が集まってなにやら音曲を奏でて、踊る様子が、私たちには奇異に見えた。
ゆらさんや和夫さんもそこに混じって、踊りなどをやらされていたのかもしれないが、私は多くを知らなかった。
私の母などは巽夫人のことを良く思っていなかったので、何かにつけて悪しざまに言うことが多かった。
父は、巽家から借家をしていたためか、あまり悪口を言わなかったが、重吉が満州でおこなったと言われる悪行については、よく語っていた。
だから重吉大叔父の印象は、すべて私の父の受け売りである。
ここからは私の想像だと思って読んでいただきたい。
ていは、ほぼ新婚生活に満足していた。
なによりも両親の期待通りに男の子を、それも二人も授かったことに、巽家の長女としてこの上ない満足を感じていた。
「重吉さんは、頼もしいし、なんでも言うとおりにしてくれる…」
世間知らずの、ていにとって重吉が世間のすべてを知っているように映った。
ていの知識は、ほぼ重吉から得たものに等しかった。
次男の武夫が幼稚園に通う頃になると、重吉が体を求めてくることも少なくなってきた。
外に女ができたといううわさも聞かないので、あまり気にしてはいなかった。
重吉はその頃、門真の町役場に水道局職員として働いていた。
門真の名士である、ていの父親の口添えと町会議員の淀井照正(てるまさ)の計らいで、当時、成り手のない公務員の職に、無試験で就けたのである。
地方の公務員の一部にはコネクションでなれた人も多かった。
重吉は元来、難しい仕事に向かない性格であり、飽きっぽく、酒と煙草をこよなく愛すだけの趣味のない人間にとって、水道局は極めて居心地のいい職場だった。
いつも朝九時半に出勤して、事務員の淹れてくれた茶を飲み、新聞を読んで、おもむろに「出回り」と称して近所の喫茶店に入って、コーヒーを飲み、昼に帰ると、届いている仕出し弁当をつつく。
そうして、午後一には一応の書類に目を通し、ハンコを突くだけの毎日を終えて、五時に帰宅するのだった。
これで退屈しなかったのは、事務の塚谷瑛子(つかたに えいこ)という三十路の職員と昵懇になっていたからだ。
水道局は町役場の建物とは離れていて、「二番」と呼ばれる地域の端の方にあり、瑛子はその近所のアパートに一人暮らしていた。
仕事の合間に二人は別々に職場を離れて、アパートで落ち合っていた。
よほどうまくやっていたのか、このことがバレる様子はなかった。
瑛子が「お局」然としていて、浮いた話とはまったく無縁の地味な女だったからだ。
重吉はそんなことはお構いなしに、体のいい女を嗅ぎつける天才だった。
瑛子の裸体はすばらしかった。
度のきつい眼鏡をはずすと、得も言われぬ、妖艶な潤んだ瞳をしていた。
声は低いが、そのため喘ぎ声は熟しており、ささやくような愛の交歓が、ていには無いものだった。
「えいこ、お前はどこでこんなことを覚えたんや?え?」
ねっとりと、重吉の男根を舐め上げる、厚い唇を見ながら、重吉が訊く。
「女やったら、だれでもしてるんちゃうの?」
「そんなことあるけえ。水商売でもやっとったんやろ?」
「水道局やもんね。水商売には違いないわ」
「ふん。うまいこと言いやがって。あ、それ。たまらんなぁ」
鈴口に尖った舌先をねじ込まれ、重吉がのけぞった。
重吉が瑛子と交わるときには、かならずサックを欠かさなかった。
瑛子がナマを許さなかったからだ。
重吉もややこしくなることを嫌って、避妊具を用いることにしぶしぶ従った。
対面座位で二人は長い時間、向き合って口を吸いあった。
「ああん」
「んむ」
瑛子の長い舌が、重吉の鼻の穴にまで伸びる。
重吉の口回りは瑛子の唾液で鈍く光っていた。
新しい玩具を見つけた重吉は、ていに飽きてしまったのだった。
巽家の行事では、信者の男衆(おとこし)の出入りも多くあった。
若い子は十八、九で親に連れられて入信してくる。
三十五になったていは、武夫も手を離れたころでもあり、父から受け継いだ祭祀司として充実していた。
そのはつらつとした姿に、一人の若者が熱いまなざしを向けていた。
「先生、こんどの土曜でも映画に行きまへんか」
積極的な、その青年の誘いに、最初はていも軽くいなしていた。
しかし、夫に顧みられない毎日にいらいらしていたていは一度だけのアバンチュールをしてみようと思った。
武夫を母に任せて、その青年、岡島圭一と梅田に出た。
岡島は、二十五で失恋したことから、入信したと打ち明けた。
「そうなんや…その子とはもう」
喫茶店でクリームソーダを飲みながら、ていが青年の相談に乗ってやっていた。
緑色の液体を見つめながら、圭一は、
「ええ、会ってません。でも、もうええんです。先生がいてくれはるから」
「は?」
ていは、その意味を測りかねていた。
「だから、巽先生に付き合ってほしいんです」
ゴクリと、ていはソーダ水を飲みこんだ。
くびすじに汗を感じた。
「私、夫がいるし、子供もいるのは知ってるんやろ」
「ええ、まあ」
「それって、不倫やんか」
「そうなんですけど…」
上目遣いに圭一が、ていをみる。
そのまなざしが、ていの心を揺さぶった。
かわいい…
そう思えた。
「わかったわ」
ていは、低い声で言った。
「ええんですか?」
訊き返したのは圭一の方だった。
「映画なんかやめて、これからホテル行けへん?」
圭一が、こんどはびっくりするほうだった。
ほんの三十分後に、大阪環状線の桜の宮駅にほど近いラヴホテルの一室に二人はいた。
ていは、排卵期が近いのか妙に体がうずくのだった。
そんなときに、頼れる夫は求めてくれない。
自分から物欲しそうにするのは、巽家の長女としてプライドが許さなかった。
男の方からひれ伏して、自分の体を求めてほしいのだった。
「さあ、わたしを自由に抱いてええのよ。圭一君。宇宙一体となりましょう」
妙見信仰と真言密教の一派「立川流」を合祀する巽家では、男女和合こそ御仏に救われる道と説く。
だからか、ていも性に対しては、その教えに従い、若い童貞を導くのも教義のひとつだと思っていた。
「あ、はい」
嬉々として、圭一は、ていに抱き着いて、口を吸ってきた。
ブラウスはもみくちゃにされ、スカートは大きくまくられた。
ストッキングに伝線がいくのもお構いなしに、乱暴な若い手が股間をこする。
強い男の体臭が、ていを狂わせる。
「ああ、もっと抱いて」
「せんせ」
硬くなった圭一の股間が、いやでも腿に当たる。
「脱ごうよ。圭一君」
このままではどうにもならないので、ていはいったん離れた。
圭一の精悍な体躯と、雄々しい勃起がていの前に開陳された。
腹筋は割れ、夫の重吉の体とは別のものに見えた。
勃起も鋭角で、ていを見据え、ていは思わず手を伸ばし、頬を寄せた。
崇拝すべき聖なる器官だと、ていは思った。
「サ、サックは…」
圭一が、カラカラになった口で、ていに尋ねてきた。
ていは、避妊についての知識がまったくといっていいほどなかった。
精液を外に出してもらえたらそれでいいと思っていた。
「サック?」
「これですよ」
ベッドの枕元に、薬のような包みがあった。
「何それ?」
「センセは知らないんですか?これをちんぽにかぶせて精液が、センセの体の中に入らないようにするゴムの袋ですよ」
「そんなものがあんの?知らんかったわ」
「じゃ、センセはご主人といつもナマで?」
「ナマって…普通そうやないの?外に出してくれたら、それでええわ」
「はぁ…じゃあ」
バカ話はそれくらいにという感じで、ていは圭一のくびにまとわりつき、唇を求めた。
妊娠について、ていは神からの授かりものだと教えられてきたから、たとい誰が相手でも妊娠したら産むつもりだった。
「圭一君、無理に外に出さんでもええわよ」
「せんせ」
「わたしが妊娠するのもしないのも、宇宙の神さんがおぼしめし…」
ていはそうつぶやいて、ベッドに倒れこんだ。
圭一は激しく、ていを抱き、我慢ならないという感じで挿入してきた。
「あっ」
鈍い痛みが膣に走ったが、快感の方が勝った。
ひさしぶりの充実感に、ていの両足が空を掻く。
「せんせ、気持ちええっすか?」
「ええわぁ、あんた、上手え」
長い陰茎を使った、ストロークに、ていは酔った。
船に揺られるような、その交接に重吉にはないものを感じた。
「圭一君は、童貞やないでしょ」
「まぁ、高校の時に、うちの隣のおばはんに捧げてから、卒業するまでの二年間ずっと」
「そのひととやってたん?」
「受験のときとか、むしゃくしゃしたら、隣の家に入り浸って」
「その人、家族はいいひんの?」
「小学生の女の子がいたはずやけど、見つからんようにしてました」
「だんなさんは?」
「いてたけど、タクの運転手で、ほとんど家におらんかったんです」
揺られながら、硬い圭一を胎内に感じながら、ていは圭一の過去の話を聴いていた。
「せんせ、バックからええですか?」
「してくれるの?好きやねんそのかっこ」
ていが自分からくるりと体を入れ替えると、いったん抜けた圭一が後ろから突き刺してきた。
「あうっ」
思わずていの口から声が漏れる。
「せんせ、よう締まりますわ」
「そんなん、言わんといてぇ」
ぎっしぎっしとベッドが軋む。
正常位より激しい突きが、ていを襲う。
ていは、シーツをわし掴んで、衝撃に耐えた。
陰門がめくれ、淫靡な音が部屋に響く。
「ああん、あはん」
「せんせ、どうです」
「ええわ。奥まで来てる」
「入ってますよ。全部」
「ああ、もうだめ」
「ぼくも逝きます」
「中に出してええよ」
「ほんまですか?」
「そうでないと宇宙の神さんが、怒らはる」
「そうなんですか?ほんなら」
圭一の動きが、早くなった。
ていの尻肉が大きく押し広げられ、圭一の突入を受けている。
豊かな乳房はあらぬ方向に揺らされ、その激しさを現わしていた。
「せんせ!いきます」
「ああっ!ほしいっ!」
若い樹液が大量に注ぎ込まれた。
圭一は抜かずにそのまま、ていの上に覆いかぶさり、余韻を楽しんでいた。
硬さを保ったまま…
ていは知っていた、由良と和夫が圭一の子であることを。
重吉はそれを知ってか知らずか、何も問わず、我が子のようにいつくしんでくれた。
元より、養子の身である重吉は、楽しく生きていければそれでよかった。
子が多いからとて、生活に困るような家柄ではなかった。
圭一は巽家の男衆として住み込み、祭祀の裏方を喜んでしていた。
その間も重吉の目を盗んで、二人は交接を楽しんでいたのだろう。
一方で、重吉も瑛子との腐れ縁を切ることができず、泥沼のような関係を続けていたらしい。
私の想像は、この辺で終わる。
今年の正月に門真の巽家付近に訪れたが、すっかり変わってしまって、あのお屋敷の影も形もなかった。
あの一族はどうなったのだろうか?
(おしまい)