「親指シフト」という和文キーボードの叩き方があった。
過去形なのは、今のワープロソフトではまったくといっていいほど、使われなくなった技だからだ。

高橋源一郎氏など、プロの作家で、そこそこの年配の方の間では今も健在だそうだ。
一度なれると、なかなかメリットの大きい打法だそうで。
しかしそれも「親指シフト」ができる鍵盤配置のキーボードなればこそである。
かつて、富士通の「OASYS」というワープロ専用機があって、スクールもあった。
キャノンの「キャノワード」と業務用ワープロの双璧をなしていたといっていい。
これらのキーボードは日本語化されていて、親指シフトがやりやすい配置なのだ。
そして「親指シフト」のメリットをいかんなく発揮する入力は「かな入力」なのだ!

私たちローマ字入力派は、「かな入力」なんて遅いと思っているから相手にしなかったが、なんのなんの、「かな入力+親指シフト」の達人の早いこと、早いこと。

脱帽です。
m(__)m

こんな話を書いていると、アマチュア無線のCW(モールス)を思い出す。
モールス符号を生成する装置の「電鍵」には縦振り型と、横振り型がある。
私は縦振り型しか使ったことがない、つまり「親指シフト+かな入力」派に等しい、旧人類だ。
現在のCW通信はほとんど「パドル」という横振り型で、スクイズ打鍵で、早くきれいな信号を送信する。
横振り型も原型は「バグキー」という、横に動く一本の竿と左右の接点で、振り子錘(バグ)で接点を戻す方式だったのが、電子回路(エレキー)で、ドット(短点)とダッシュ(長点)を左右二枚のパドルに担わせて、自動でドットとダッシュを生成するようにしたものである。
CW自体、もはや過去の遺物感まるだしの通信術だけれど、それでも打鍵の仕方に世代間格差があるのだった。
キーボード入力も、日本語ワープロの親指シフト、パソコンで主流のローマ字入力、ガラケーのトグル入力、スマホのフリック入力と発展している。
そんな文字入力と同じような、モールス送信にも進化があったことを、今さらながら思いを致すのである。

私はこれからも縦振り電鍵(海軍での通称:米つきバッタ)でモールスを奏でるのだ。
遅くって、手崩れ(味のある)したモールス符号をね。
映画『ジョニーは戦場へ行った』のジョニーは、爆発に会い手足をもがれ、目も耳も発声も奪われたけれど、モールスで首を振って外と会話できた。
モールスが命をつないだ瞬間だった。

モールス符号による通信技術がユネスコ世界遺産(無形文化遺産)に選定されるかもしれない。
日本アマチュア無線連盟などがその活動をしているので見守りたい。