「陽菜、寝ちゃったね」と、規子(のりこ)さんが台所の後片付けを終えて、手を付近で拭きながらそばにやってきた。
ホットケーキを、昼にごちそうになったおれは、ひなちゃんと絵本を読んで少し遊んだ後、眠そうにしてたので、添い寝してやっていた。
「そうやっていると、ほんとの兄妹って感じよ」
「そうかな」
おれは、ひなちゃんを起こさないように小声で応えた。
規子さんは、おれの背中のほうに、おれとひなちゃんを包むようにして横座りした。

「あそこの衣装ケースの裏にね…穴が開いてるの」
規子さんの指さす方に、プラスチック製のホームセンターで売っている衣装ケースが四つ、縦に積んであった。
ちょうど、おれの部屋の奥の間のところになる。
穴が開いていることに、おれは全く気付いていなかった。
「覗いてたんや。のりこさん」
「たつお君だっけ、お父さんがそう呼んでた」
「そうや。あっ」
規子さんの手が、ジャージズボンの前をさすってきた。
「たつお君の声が聞こえてきたの。あの高さだとよく見えないから、安心して」
「はぁ。でも…」
宮本さんの手の動きが、おれの硬くなっている部分をなぞるように動く。
「そしたら、女の子の名前を呼んでいたわ」
「…」
「じゅんこって」
そう言って、規子さんがおれの情けない顔を覗き込む。手は動いたまま。
「クラスの子?」
「あ、ああ。べ、別のクラスの」
「あこがれてんのね。ひそかに」
「ああ」
「してあげよっか?」
「は?」
「あたしが、ジュンコちゃんの代わりに」
「あ、いや、そんな」
「ここは、もうこんなになってるよ」
ぎゅっと棒を握られた。
「ううっ」
おれは、爆発しそうだった。
幸い、そうならなかったのは、さっき出していたからだろうか?

おれは、あこがれの宮本さんが「してくれる」というので、内心、「ラッキー」と思っていた。
そっと、ひなちゃんを起こさないように、おれはズボンとパンツを下ろした。
バインと勃起が飛び出す。
女の前でこんなものをさらすのはもちろん初めてだった。
恥ずべき形なのか、サイズなのか、おれにはわからない。
少し皮がかぶっているが、手で剥いた。
変なにおいがするのは、朝に自分でやって、始末を怠ったからだろう。
「あらら、元気ねぇ」
そう言いながら、やわやわとふくよかな手のひらで握ってくる。
皮を剥き下げられ、ふくれた亀頭がつややかに露(あらわ)にされた。
「声は聞こえたけどぉ、これは見えなかったの」
そうなのか。あの高さじゃ、障害物があって見えないのは当たり前かもしれない。
「でも、男の子が何をしているかは、わかったわ」
いたずらっぽく笑って、規子さんがぼくに話しかける。
このまま、一線を越えてもいいのだろうか?
「の、のりこさんは、旦那さんは?」
「別れたの。知らない女とロスアンゼルスに行っちゃった」
「そうなんすか。でも、再婚とかは」
「考えてないわ。もう男はこりごり」
あきらめ顔で、規子さんが答えた。
「あなた、童貞?」
「そりゃ、そうですよ」
「でしょうね。今日は手でしてあげる」
「今日はって」
「また、機会があれば、ホントにしてあげてもいいなと思ってる」
「うわぁ」
おれは、喜びの声をあげてしまった。
「うれしいの?」
「そりゃ、宮本さんだもん」
「こんな、子持ちのおばさんでも?」
「若いですよ。宮本さんは」
「お上手。さ、あたしに任せて」
規子さんの手に力が入り、かといって、痛いほどではなく、自分でするように加減してくれる。
どうしてこんなに上手なんだろうか?
友達が言っていたような、昔、風俗店に勤めていた女の人なのかもしれない。
「あの、規子さんは、こういう仕事をしてたん?」
「こういう仕事って?」
意味深に目が笑ってる。
「男の人に、エッチなサービスをするような」
「ふふふ。ませてんのね。そう。してました」
「そうなんですか。やっぱり」
「軽蔑した?」
「そ、そんなことないです」
「こういう技もあるのよ」
そう言うと、口を開けておれを頬張った。
「うわ」
「ううん(どう?)」って、聞こえた。
「ええです。気持ちええです」
頭を上下させて、あの「フェラチオ」という技を、今されているのだった。
高校生にはまったく未知の世界だった。
これはたまらない、急激にやばくなって、背骨の方から快感が襲ってきた。
「あの、やばいです」
「うんうん」
「でちゃう」
でも、規子さんは口を離してくれなかった。
どぴゅう…
どっきんどっきんと、ペニスが跳ね、規子さんのかわいらしい口に放っている。
一瞬、山本純子に規子さんが見えた。
朦朧とした頭が、現実と非現実をごっちゃにしているのだった。
虚脱感が襲い、情けなく、恥ずかしい思いでいっぱいになる。
ちゅっと音をさせて、ペニスを吸いながら口を離す規子さん。
口の中には大量の精液が含まれているはずだった。
それをこぼさないようにして手で覆い、流しの方に足早に行ってしまった。
おれはそのままパンツとジャージを引き上げて、ひなちゃんがまだ寝ていることを確認して立ち上がる。
「ごめんね」
規子さんが、謝った。
「え、気持ちよかったです。お礼を言うのはおれの方です」
「内緒にしていてね」
「もちろんですよ」
「また、してあげるから」
「はあ、お願いします。じゃ、おれ帰ります。ごちそうさまでした」
そう言うと、おれは玄関でつっかけを履いて、外に出た。

自分の暗い部屋にもどり、さっきの夢のような時間を思い起こしていた。
「ああ、やっちまった」
あれだけのことで、急に大人になった気分になった。
便所に入って、小便を放つが、快感の後なので、にょろにょろと力なく落ちていった。
規子さんの唾やおれの精液で、まだ、ぬらぬらと濡れている分身だった。
トイレットペーパーで念入りに拭った。

便所から出て、あの場所に目を移した。
たぶん、このあたりだが…
おれは穴を探した。
しかし、そのようなものは、針の孔ほども見つからなかった。
「規子さんは、嘘を言うて、おれをからかったんや」
そう思った。
「でもええわ。あんなことをしてもらえるんやから」
おれは一人、ニヤニヤとしていた。
不思議と純子への想いが、薄れて行ってしまった。
我ながら、現金なものだと自分に呆れた。