ベンネビス山はスコットランドの高山らしいが、このふもとにスコッチ「ベンネビス」で有名なベンネビス蒸留所がある。
もっとも私は「ベンネビス12年」なんていう高価なお酒を口にしたことはない。

ただ物理学を学んだとき、ウィルソンの霧箱という実験装置で荷電粒子を可視化したチャールズ・ウィルソンが、この装置をベンネビス山の山頂で気象観測をしていたとき、雲の湧くのを見て着想したというので、私の印象に残っている。
ウィルソンは気象学者だったようだ。
彼はこの業績でノーベル物理学賞に輝くのである。
※荷電粒子とはα線やβ線、電子線のことだが、ウィルソン自身はレントゲン線(現在のX線)を可視化するために霧箱を考案した。

霧箱とは過飽和の水蒸気を含む空気が満たされた箱である。
水蒸気はその中の塵などを核にして凝結が起こり、雲を生じるのだった。
ある条件(塵がない)で水蒸気の過飽和状態をつくり、そこに荷電粒子が飛び込むとそれが核となって雲ができる。
荷電粒子の通った跡が飛行機雲のように軌跡を描くので、目に見えない放射線の存在が可視化できるのである。

水蒸気の過飽和状態を作るには霧箱内の空気を断熱的に膨張させる(吸引して減圧する)か、ドライアイスや液体窒素で冷やす方法(拡散法)がとられる。
ウィルソンは前者の方法を考案した。
いずれの方法も一長一短があるが、拡散法が手軽かもしれない。

コンプトン散乱はこの霧箱なしには発見されなかっただろう。
実験には甘いとされるノーベル賞だが、理論は、巧みな実験装置や観察装置によって実証されて初めて、受賞に輝くものだ。
いくら立派な理論でも、実験が伴わなければ空論と揶揄されても仕方がないからだ。

実験上手のマイケル・ファラデーも、時代が時代ならきっとノーベル賞に輝いたことだろう。