カワハギと誤ってソウシハギという毒魚が市場に出回り、買って食べたというニュースがあった。
幸い、食べた人には何も起こらなかったという。
「さかなクン」の説明では、ソウシハギの毒はフグ毒(テトロドトキシン)の50倍も強いという。また、ソウシハギがこの毒を持つのは食物連鎖の末のことだという。
つまり、ソウシハギがある種のイソギンチャクを食べると、そのイソギンチャクが持つ猛毒を体内に蓄積してしまい、ソウシハギには毒性を示さないがこれを食するヒトを含む外敵には猛毒性を示し、二度と自分たちを襲わせないように身に着けた性質だという。
こういった毒はフグやアオブダイの毒性にも見られ、食餌から毒を獲得するというやり方である。
換言すれば、そういった毒性の餌を摂取せずに育てば、彼らも毒を帯びないということだ。
今回の事故は、福井県沖で水揚げされたソウシハギが原因であり、この海域には毒を持つイソギンチャクがいなかったことが幸いし、ソウシハギも無毒だった可能性があるということだった。
トラフグも猛毒性だが、幼魚からの養殖で無毒化することも可能であるのは同じ理由である。

化学の面からソウシハギの毒物を考察してみよう。
ソウシハギの毒はパリトキシンという。
パリトキシン
 C129H223N3O54)分子量約2680

ご覧のように、この毒物はとても大きな分子で、「繰り返し単位」の続く高分子化合物を除き、たんぱく質以外でこのような巨大分子は珍しい。
実は、パリトキシンに限らず、シガトキシン(シガテラ毒)も巨大な分子である。
こんな複雑な構造が解析され明らかになったのは、ここ半世紀のことである。
マススペクトロメトリー(質量分析)とガスクロマトグラフィーを組み合わせて、それでも放射性元素を使って標識したり、ありとあらゆる手段を用いて、構造決定に至った。
ガスクロマトグラフィー(以下ガスクロ)ではパリトキシン自体を分離できるが、構造が明らかにならない。そこでガスクロから分離されたフラクション(分画)をさらにマススペクトル(質量分析計)に導入して分解した分子の破片から構造のあらましを知ることができる。
つまり「ガスマス」というガスクロとマススペクトル分析計が一体になった装置があるのです。
ガスクロは今はFID(水素炎検出器)という方式で水素炎の中に有機化合物を導いてイオン化させ、その通電によってブリッジ回路のバランスを崩して検出します。
もしキャリアーガス(窒素かヘリウムを使う)だけなら水素炎に通してもなんら電流は流れない。
有機化合物が水素で燃やされると、イオン化(フラグメントイオン)するので電荷を持ち、それが電流となって検出されるのがガスクロFIDの原理だ。
※水素で燃やすからできるのです。もしメタンガスや都市ガスなら有機ガスなので電流が流れっぱなしになりますから。

ガスクロで分析されたイオンはそのまま空気中に逃げて行ってしまいますが、これを逃がさずに強力な磁界に導くとその質量に応じて検出器までの到着時間が異なることでどんな分子種なのかを予測できるわけ。
今の装置は解析ソフトが充実していて、オペレータがなにもしなくても、機械が「元はこんな分子とちゃいますか?」と数種の候補をみつくろってはじき出してくれます。
だから、こんな複雑な分子でもなんとか構造を明らかにすることができるようになったんですね。
もちろんガスマスだけでは不斉炭素を含む光学異性体のフラグメントイオンは分離できませんので、パリトキシンのような天然物は、ほかの手法も駆使しないと構造決定は不可能です。
※光学異性体は構成元素が全く同じなので、ガスクロの検出時間とかマス(質量分析)では分離できません。

パリトキシンは加熱しても煮汁に移行するので、毒性はなくなりません。
これはフグ毒もシガテラ毒も同じです。
また魚類の体内では筋肉よりも内臓(キモなど)に集中的に分布しているようです。
症状は、あまり事例が多くないので参考にならないかもしれないが、要は筋肉を融解するらしい。よって心筋などが冒されて死に至るのだといいます。
厚生労働省のHP

フグの美味しい季節です。また沖すきなどの鍋料理でカワハギも食卓に上るでしょう。カワハギに似たソウシハギは要注意です。一般に「ハゲ」と心ない呼び方で取引される鮮魚は皮をはがれているので皆同じ見えます。皮をはがれるとソウシハギもカワハギもウマヅラハギも区別がつきません。
漁業関係者、仲買人、お魚屋さんにぜひとも注意をお願いしたいと思います。