(E,2S,3R,5R,8R,9S)-10-[(2R,3R,4R,5S,6R)-6-[(1S,2R,3S,4S,5R,11S)-12-[5-[(8S)-9-[(2R,3R,4R,5R,6S)-6-[(E,2S,3S,6S,9R)-10-[(2S,4R,5S,6R)-6-[4-[(2R,3S,4R,5R,6S)-6-[(2S,3Z,5E,8R,9S,10R,12Z,17S,18R,19R, 20R)-21-[(2R,3R,4R,5S,6R)-6-[(Z,3R,4R)-5-[6-[2-[(2R,3R, 5S)-5-(aminomethyl)-3-hydroxyoxolan-2-yl]ethyl]-4, 7-dioxabicyclo[3.2.1]octan-3-yl]-3,4-dihydroxypent-1-enyl]-3,4, 5-trihydroxyoxan-2-yl]-2,8,9,10,17,18, 19-heptahydroxy-20-methyl-14-methylidenehenicosa-3,5,12-trienyl]-3,4, 5-trihydroxyoxan-2-yl]-2,3-dihydroxybutyl]-4,5-dihydroxyoxan-2-yl]-2,6, 9,10-tetrahydroxy-3-methyldec-4-enyl]-3,4,5, 6-tetrahydroxyoxan-2-yl]-8-hydroxynonyl]-1,3-dimethyl-6, 8-dioxabicyclo[3.2.1]octan-7-yl]-1,2,3,4, 5-pentahydroxy-11-methyldodecyl]-3,4,5-trihydroxyoxan-2-yl]-2,5,8,9-tetrahydroxy-N-[(E)-3-(3-hydroxypropylamino)-3-oxoprop-1-enyl]-3,7-dimethyldec-6-enamide

さてこれはなんでしょう?
これだけで一つの名前なんですよ。
先のブログで取り上げた「パリトキシン」のIUPAC名がこれです。
どこから取りついたものか…

パリトキシン
もう一度、パリトキシンの構造を上に示します。
こういう化学名は、最後の部分が主鎖を指します。
つまり「3,7-dimethyldec-6-enamide」
この「エナミド」からは、主鎖に窒素原子を含むことと、その窒素はアミドでありアミンではないということがわかります。
「エン+アミド」で「エナミド」なんで、二重結合を含むアミドということですね。
この構造はすぐ見つかりませんか?上からたどって右のほうに行って、下にさがって、左に折れてS字に曲がり、その先のしっぽ。
「3,7」と「dimetyldec」がヒントです。
メチル基が二つ、「dec」は「dimetyldene」で二重結合を持つことを表している。
「2,5,8,9-tetrahydroxy-N」はこのしっぽの左から二つ目の窒素(NH)の窒素原子から右へ延びる鎖を追います。
するとその窒素のすぐ右隣りの炭素原子を1として順に2,5,8,9番炭素に4つの水酸基「tetrahydoroxy」が置換しています。
そしてさっきの「3,7-dimethyldec-6-enamide」も同じ要領で、左から3,7の順にメチル基が置換し、6位に二重結合がありました。

じゃあこの窒素原子の右側はどうなっているのか?
これが入れ子括弧[]の部分です。
(E)-3-(3-hydroxypropylamino)-3-oxoprop-1-enyl」ですね。
まず「(E)」という接頭語は必ずカッコつきで書き、幾何異性体のtransを表し、IUPACでは誤解のないよう(E),(Z)表示とします。
cis体は「(Z)」と書きます。
※主鎖の6位の二重結合のE,Zがこの名前には表現されていないのですが、なんでだろう?

[]内は窒素原子への置換基の部分ですので、「
3-oxoprop-1-enyl」は左へ1番目の炭素に二重結合があり、3番炭素にカルボニルがあるプロペンであると示しています(この二重結合に関して(E)だと言っている)。
さらにその3番炭素には「
3-hydroxypropylamino」基が置換している(アミノとなっているがカルボニルに直接置換しているのでアミドなんですけどね)。
これが主鎖の名前の根拠です。

やっと、最初の「オキサン環」にたどり着きました。
六員環でその一部に酸素原子をひとつ含むものを「オキサン」、二つ含むものを「ジオキサン(ダイオキサン)」といいます。
これ自体が置換基になっている(もはや主鎖ではない)ので語尾に「yl」がつきます。
3,4,5-trihydroxyoxan-2-yl」酸素原子を1番として時計回りに3,4,5番炭素に三つの水酸基がつき、2番炭素から主鎖に置換していることを表現しています。
なぜ「時計回り」になるかというと、主鎖に置換しているほうから数える決まりになっています。
すると6番炭素になにやら長い置換基がさらに伸びていますね。
これが「
1,2,3,4, 5-pentahydroxy-11-methyldodecyl」に当たります。
「dodecyl」とは炭素数12個の炭化水素基を示します。
オキサンの6番炭素から外に伸びる炭素を1として、順にたどると12番までありますでしょう?
その向こうは、またおかしな立体構造が続きますが、それは置いといて五つの水酸基が1,2,3,4,5番のドデシル基炭素に置換していることを表しています。
おまけに11番炭素にはメチル基がついています。
続いて、つぎの妙な立体構造の部分です。
ここは「
1,3-dimethyl-6, 8-dioxabicyclo[3.2.1]octan-7-yl」とあります。
「dioxabicyclooctane」がこの置換基の基本骨格になり、「ジオキサン」構造を持つ「bicyclo」、つまり二つの縮合環化合物だというのです。またその環を構成する炭素数が8個の「cyclooctane」だということも表現されています。
「環を構成する炭素が7個しかねえじゃないか?」と疑問に思われました?あたしもそう思ったわよ。
どうもね「ジオキサン」を調べると、IUPACでは「dioxacyclohexane」と六員環の炭化水素「hexane」を使うらしいのよ。
この場合も、図を見れば、かご型の橋掛け構造のある立体で、酸素原子が二つ入って「ジオキサン」を含んでいます。

「bicyclooctane」の部分を取り出してみます。
パリトキシンのシクロオクタン環部分

「bicyclo」とあるのは二つの環ということで図のAとBのことで、環の構成元素の附番が私にはよくわからないので実際のIUPAC名からすると、このように番号を振ることができそうです。
7番炭素にドデシル基の部分が結合し(7-yl)、5番炭素から次の鎖の結合が始まります。
1,3-dimethyl-6, 8-dioxabicyclo[3.2.1]octan-7-yl」の[3.2.1]は1番炭素から5番炭素に向かう経路の頂点を示しています。
「3」は「2,3,4」の経路の3点、「2」は「7,6」の経路の2点、「1」は「8」を通る1点の頂点を表しています。
6, 8-dioxa」は二つの酸素原子の位置ですね。たぶん。
私もね、もう四十年も前に習ったことを思い出しながら書いてますんでね。
こうやってさかのぼって構造を書いて延々と書いていくわけですが、もう飽きてきました。
よくこんな複雑な化合物の構造決定ができたもんですね。
Wikipediaによれば、なんとこれを「全合成」した人がいるそうで、「有機化学合成の金字塔」と言われている物質なんだって。
そりゃそうだわ。
IUPAC名を付けるだけでも二、三日はかかりそうだもの。
だいたいこの命名だって正しいかどうかだれかに確認してもらわないとね。自信ないよ。
この名称の冒頭部分に「R,S表記」が並んでいますね。これは不斉炭素の中心をフィッシャー投影式で表したときに紙面の向こう側か手前に飛び出ているかを文字で示す方法です。
図で表すなら点線が紙面の向こう、実線が紙面から手前に飛び出しているなどと、表現できますが命名法では必ず文字であらわさないといけません。
詳しくは「R,S表記」を参照してください。実は私も頭がこんがらがってうまく説明できません。

途中で投げ出す悪い癖ですが、家事もありますんで、この辺で失礼します。