石油が古生物の死骸の堆積物から生じたとするならば、なぜに中東やカスピ海周辺に多く産出するのか?この疑問は、塾頭の和多田先生からの中学生の塾生たちへの設問だった。

私もこの問題について高校時代の地学でディスカッションをした経験があった。
古生物学ではパンゲア大陸という三億年ほど前の地球を舞台に、プレートテクトニクス理論で説明すると、パンゲアが五大陸もしくは六大陸に別れていく過程で赤道付近に大きな「地中海」ができたと説明される。
これを「テチス海」と呼ぶ習わしだ。
この海は浅く、熱帯で、生命を育むゆりかごとなったのである。
浅いから太陽の光をたくさん受けて、酸素を発生する微生物が生まれ、数億年で三葉虫などの複雑な古生物が進化していった。
この大量の微生物の死骸の堆積が石油の元になると推定されるわけだけれど、そのテチス海のなごりがカスピ海やアラル海、黒海、そしてペルシア湾だというのである。
もっとも今の地中海もその名残であると言われている。
パンゲアが五大陸に別れていったという状況証拠は、地形とともに出てくる化石である。
テチス海はほぼ隆起して、今はユーラシア大陸の背骨と言われるヒマラヤ山脈になり、そこから海底の化石がたくさん出るという。
インド亜大陸が移動してローレシア大陸(ユーラシア大陸の原型)にぶつかって今も押しているから、ヒマラヤ山脈の山々は年々高くなっているらしい。
インド半島は昔は島というか亜大陸という大きな陸の塊だったのだ。

テチス海の存在した時代は長く、その陸地には原始の植物が繁茂していた。
大量の原始植物は巨大で、これらが化石となり炭化したものが石炭だと説明され、その植物の全盛期を「石炭紀」と呼ぶ習わしである。

私は、和多田先生に指示を受けて塾生に渡す資料を作った。
パンゲアから今の大陸に分割されていく地球図と、プレートテクトニクス理論の簡単な説明、そして地球歴の年表である。

ヒントとして、私から「メタンハイドレートというメタンガスを含む物質が「しんかい2000」や海洋調査船「ちきゅう」などによって深海から発見されているがこれはマリンスノーが降る場所でもあるという事例を出した。

男子はけっこう、知識として持っているようで、おおむね期待通りの結論にたどり着いている。女子も石油がアラブ各国の主要輸出品目であることは知っていて、その地域にとくに埋蔵されているのかに興味を持ってくれた。
実は彼女たちは、産油国をアラブ以外にも見つけ出し、それらが赤道付近からあまり離れない部分に集中していることに気づいた。
メキシコ湾岸、コロンビア、ブルネイなどである。
テチス海がそういった地域まで伸びていたのではないか?と彼女たちは推定した。
暖かい海と微生物の繁茂が石油に大きく関係しているということに気づいたのだった。
女子の一人は、恐竜の死骸が石油になったと思ってたといい、実は私も高校生の時そう思っていたのだ。
これは間違いで、かつての恐竜の個体数と微生物の死骸を比較したらそれはまったく勝負にならないくらい恐竜のほうが少ないのである。
これは現在の地球の生物全般の比率も同じである。いくら人口爆発だと人間が騒いでも、地球上の全有機物からすれば微々たるものであるし、全脊椎動物をひっくるめてもまだまだ微生物には足りないだろう。
それほど微生物の死骸の堆積は莫大なものなのだ。
大きな生物も死ねば、微生物によって分解され微生物の体になってしまうのだから。

彼らとの議論は白熱し、小学生の塾生が先に帰ってしまって、午後九時を回っても続いた。