わかっているようでわかっていないものに「酸化数」がある。
この理論は「便宜的」なものゆえ、学校の授業でも軽く流される傾向にあると私は感じていた。
大学受験を控えたS君(元塾生)から「酸化数ってのが、ようわからへんねん」と訪ねてきたのだった。

酸化数を議論する場合に、最初にすべきことはその化合物のどの元素の酸化数を取り上げるのかということを明確にすることなのだが…

「硫酸第一鉄と硫酸第二鉄はそれぞれ硫酸鉄(Ⅱ)と硫酸鉄(Ⅲ)と試薬瓶などには書かれているんやけど、その「第一」と「ローマ数字のⅡ」とかの関係がわからへんねん」とS君。
確かに、化学をやりだすと、こういうところにつまづきを生じるものだ。私もそうだった。
「まず化学式を比較してみましょ。硫酸第一鉄とその第二鉄の式はどうなってる?」
「えっと、これ」手描きのノートを広げたS君。なかなか細かい字を書く青年である。
硫酸第一鉄(硫酸鉄(Ⅱ))はFeSO4
硫酸第二鉄(硫酸鉄(Ⅲ))はFe2(SO4)3
※いずれも結晶水を持たない無水物として論を進める。
このローマ数字が酸化数であり、正確には電子過剰なら-、電子欠乏なら+を頭に付すのだがこの場合鉄原子についてのイオン価の区別のみなので省略されている。

硫酸第一鉄は次のように電離(イオン化)する。
FeSO4 → Fe++  +  SO4--
この硫酸第一鉄の鉄原子に注目し、その酸化数を出す。
第一鉄イオンの価数が「2⁺」なのでその酸化数は「Ⅱ」となる。

酸化数の定義は以下のようだったはずだ。
①元素単体(化合もイオン化もしていない)の酸化数は「0」とする。
②単原子のイオン価がその酸化数であり、イオン価がマイナスなら電子過剰であり、プラスなら電子欠乏である。
③電気的中性化合物の酸化数の総和は「0」である。
④化合物を構成している水素の酸化数は「+Ⅰ」、酸素の酸化数は「-Ⅱ」とする。
【例外】金属水素化物の水素の酸化数は「-Ⅰ」、過酸化物中の酸素の酸化数も「-Ⅰ」とする。
⑤多原子イオン(例SO4--)や多原子分子(有機化合物など)は構成しているすべての元素(原子)の酸化数の総和はそのイオン価や化合物の酸化数に等しい。

ならば、硫酸第二鉄はその電離式はつぎのようだ。
Fe2(SO4)3 → 2Fe+++ + 3(SO4--)
第二鉄イオンの価数が「3+」なのでその酸化数は「Ⅲ」となる。
「じゃあ、なんで第一鉄だの、第二鉄っていうんやろ?」
「これはね、酸化数の定義が提唱されるまえに性質の異なる鉄イオンを順に番号を振っていったからだと思う。私も詳しいことは知らないんだけれど、化学の歴史的な背景があるんだと思うわ」
「そうなのかぁ」
「だから、S君のいう矛盾はみんな思っていることなのよ」
「ふ~ん」

有機化合物でも酸化数の議論は拡張される。
よく教科書に出ているのが、つぎのメタンの酸化の問題だろう。
メタン(CH4)は酸化されてメタノール(CH3OH)、さらに酸化されてホルムアルデヒド(H2C=O)、さらに酸化されてギ酸(HCOOH)、さらに酸化されて二酸化炭素(CO2)になる。

炭素原子に注目してその酸化数を追いかける。
メタンの炭素の酸化数は炭素原子の四つの腕に水素原子がそれぞれ四つ共有結合している。
イオン結合ではないが、多原子分子の定義⑤によりC----と4H⁺に分割できそうだ。
よってメタンの炭素の酸化数は「-Ⅳ」と書くことができる。
次にメタノール(メチルアルコール)は酸素原子が一つ結合に加わる。
メタンが酸化されたわけだ。
C--と3H⁺ そしてOH-(これはO--+H⁺=OH-)ゆえ、その総和が「0」になるのだから、炭素原子の酸化数は「-Ⅱ」となる。
ホルムアルデヒドになると、2H⁺とO--が炭素原子に化合しているので総和が0だから、炭素原子の酸化数は「0」にならざるを得ない。
ギ酸はちょうどメタノールの逆であり、炭素原子に化合しているH⁺とカルボニルのO--、水酸基OH-と総和が「0」になるためには炭素原子の酸化数は「+Ⅱ」でなくてはならない。
ついに二酸化炭素にまで酸化が進むと炭素原子には2O--が結合しているのでその総和が「0」である以上、炭素原子の酸化数は「+Ⅳ」である。

よく大学入試で問われるのは塩素系化合物だろうか?
もっとも簡単な塩酸(HCl)の塩素原子に注目した酸化数はH⁺とCl-に電離するので「-Ⅰ」であることはすぐにわかる。
しかし、次亜塩素酸HClO、亜塩素酸HClO2、塩素酸HClO3、過塩素酸HClO4と酸素原子が増えていくと塩素原子の酸化数はどうなるのか?
やはり塩素原子に注目して、次亜塩素酸ならH⁺とO--が塩素原子に結合しているとみて「+Ⅰ」となり、亜塩素酸なら「+Ⅲ」、塩素酸なら「+Ⅴ」、過塩素酸なら「+Ⅶ」となるだろう。

わかってみれば、なんのことはない、麻雀の点数計算よりも簡単ではないか。