液体が蒸発するということは、その液体の分子が熱エネルギーを得て空気中に飛び出すことです。
そのときの外気に対する液体の圧力を、その温度と、その地点の大気圧での蒸気圧と呼びます。
その地点の大気圧と、液体の蒸気圧が等しくなったときに、激しく液体は泡立って蒸発します。
その時の温度が沸点です。
たとえば、1気圧で水は100℃で沸騰しますが、その時の水の蒸気圧は大気圧(1気圧)に等しいのです。

水はH2Oという分子式で書かれますが、この分子量18で沸点が100℃というのは、いささか高すぎるように思います。なぜでしょう?
酸素族の元素で、酸素(O)の次に大きな原子量の硫黄(S)の化合物で硫化水素(H2S)という有毒な、極めて臭い気体があります。
これは水の分子の酸素が硫黄に置き換わっただけで、分子量も34と水の倍近くありますから、重いわけです。
なのに常温常圧で気体であり、沸点はなんとー60.7℃と、とても低いのです。
これは硫化水素が異常なのではなく、水の沸点が高すぎるんです。
不思議でしょう?
ほんとうなら、水も常温常圧では気体であるはずなんですよ。
でも、そうではない。もしそうなら、水の惑星「地球」は存在できず、私たち生命も生まれはしませんでした。

水の分子をもういちどながめてみますと、H-O-Hという形をしています。
酸素原子には、最外殻電子として6つあり、2つは水素と結合して使われていますが、残り四つ電子はフリーです(自由電子という意味ではない、孤立電子対と呼ぶ)。
つまり酸素原子は電子過剰の状態で、電気的にマイナスを帯びていると考えてください。
反対に、水素の原子は電子が酸素原子に引っ張られて結合に使われていますので電子欠乏状態でプラスの電気を帯びている。
このように水分子の中で、電気の偏りがあるのです。
すると、水の分子どうしが、この偏りを補うために寄り集まってくる。
水は液体の場合、一個の分子が単独でいることはまずなく、ひとつの水分子の周りに四つの水分子が静電的な引力で寄っています。
この電気的な引力を、水素が中心となっていることから「水素結合」と呼んでいます。
正四面体の頂点に水分子がおのおの配置されるような形です。
氷の場合、この正四面体構造が延々とつながって、結晶化していると考えてください。
液体の水の場合(変な言い方ですが)、そういう規則正しい構造がかなり乱れており、温度が上がるにつれて、水分子そのものの運動が活発になって、それぞればらばらになっていきます。
最終的には、沸点に達すると液面から外気に水分子は単独で飛び出します。
これが蒸気(気体の水)です。
湯気は蒸気ではありませんよ、あれは冷えて凝結して水に戻ったものです。
つまり水の沸点が高いのは、水分子が水素結合によって互いに引っ張り合って高分子化しており、その結合を解くためには高い熱が必要なのだということです。
一方で、硫化水素には水素結合を発生するほどの電気的偏りが分子内に少ないのです。
だから、硫化水素分子はほぼ、単独で空気中に飛び出していきます。
硫化水素分子同士が引きあったりする影響が少ないのですね。

水分子はこのように集団で存在する(クラスターを形成するという)ので、常温では蒸発しにくいわけです。
でも、まったく蒸発しないわけではない。
もしそうなら、洗濯物はいつまでたっても乾かないでしょう?
常温でも蒸気圧を示すのが水です。
空気と水の界面で起きていることをモデルで考えてみましょう。
空気はほぼ窒素と酸素と考えると、それら気体分子は常温で激しく運動しています。
一方で水も液体という束縛の中で、結構活発に熱エネルギーを得て運動しています。
ビリヤードのように、たとえば窒素分子が水の界面で水分子に当たり、その運動エネルギーを得て、水分子が空気中に飛び出すことが頻繁に起こっています。
そうして常温でも、水分子は気体分子のエネルギーを得てたくさん空気中に飛び出していると考えられるのです。
そのようにして水は一定の温度と大気圧の下で蒸気圧を示すのです。
空気は、それでもいくらでも水分子を受け入れられるわけではない。
飽和蒸気圧とは、その限度の水の蒸気圧をいいます。
飽和蒸気圧を超えると気体の水は結露して、液化します。
湿度が高いと洗濯物が乾きにくいのは、もはや水の空気に対する飽和蒸気圧に近いからです。
乾球湿球湿度計はまさにその原理を利用した湿度計なんですね。

わが魔羅の日暮れの色も菜種梅雨(なたねづゆ) 加藤楸邨

これはどういう意味なんでしょうか?(笑)