律子は、人妻ゆえの閨房の術を私に披歴してくれた。
お乳の愛撫の仕方、女陰の触り方、舐め方まで教えてくれた。

そして、向かい合ってつながり、座ったまま口を吸い合い、後ろから突けと言われその通りにすると、これまでにない大声をあげて律子は悶えた。
「戸田さん、あなた女泣かせだわ。あの人ならとうに、くたばっているところよ」
「そんなにすごいのかい?私のは」
「全然違う。もうこれ以上だめだけど、わたし、戸田さんから離れられないかも」
そういって腕を絡ませてくる。
「ねえ、もしもよ、戸田さんが、えっと、角野さんだっけ、その人とご結婚なさって、わたしが飯塚と別れられなくても、こんな風に、わたしと会ってくださらない?」
と、真剣なまなざしで、鼻の頭がすれそうな間近でつぶやくのだった。
「ああ、そうしよう」
私も同意すると、「ちゅっ」と鼻先に唇をつけて、そのまま風呂場に消えた。
胎内の後始末をするのだろう。
私は鞄からスマホを取り出した。
メールの着信があったようだ。開くとまんの悪いことに、角野秀子さんからのメールだった。
「明日土曜日、お時間があれば、お会いできませんか?神戸あたりでも散策しましょう。お返事ください。今日は遅くまで起きています。秀子」
とあった。
どうすべきか…
風呂場のシャワーの音が止んだので、私はすばやく鞄にスマホを放り込んだ。

「あら、もうこんな時間。ものは相談だけど、戸田さん、明日予定ある?」
十一時前だった。
「え、ああ、まだ」
「泊って行こうか?このまま」
「なんだって?」「だめ?」「いや、かまわないけど」
「朝ごはんついてくるし、泊まっちゃおうよ」
「そうするか」
私は、また「できる」という、盛りのついたサルの気持ちで同意した。
どうせ、いまから京都駅に向かうと終電も危うい。
角野さんには、メールでお断りしよう…それか、昼頃に三ノ宮で待ち合わせてもいいだろう。
そう算段した。

私は、女と初めて裸で抱き合って寝た。
「また、する?」
「いいのか?」
「抱いてほしい」
「ほんとに好きなんだね」
「インランなのよ。あたし」
暗がりで目が光った。
「ほら、こんなになってるじゃない」
そう言って、私の三度目の勃起を握っている。
「飯塚が最初の男だったのかい?」「ううん。ほんとはね…劇団の仲間の男の子たち」「たちって」
彼女の話では、飯塚にも話していないそうだが、劇団の同期の三人の男性団員と経験があったそうだ。
一緒に芝居の練習をし、親密になることは自然なのかもしれないが、同時に三人と関係を持つという異常性に私は興奮した。
「するときは別々なんだろう?」「ううん、三人同時にやったこともある」「うそだろう?」「ほんとよ」「今もそいつらとやってるの」「まさか、みんな結婚して平和な家庭を築いてるわ」
私は少し安心したが、彼女の性的魅力が、そんな性癖というか経験に基づいているのだと改めて理解した。
「あたし、そのときから妊娠しにくい体なんだなと気づいてた。だから、あの人にもそう言っていたのよ」
「そうか」
律子は私のペニスを舐めながら、しゃべっている。
「子どもなんかいらないって、あの人言ってたのよ。なのに」
「男は勝手なものさ。ああ気持ちいいよ」
「戸田さん元気ねぇ、もうこんなにパンパンに大きくして」
「きみが上手なんだよ」
「うれしいわ。じゃ、ごめんあそばせ」
そう言ってまたがってくる。このやり方が、彼女は好きらしい。
背筋を伸ばして、目をつぶって律子は私を胎内に収める。
「はひぃ」
しっかりと、はまった感じがした。律子の体温が直(じか)に感じられる。
入り口がきゅっと締まるのは、律子が意識してそうしているのだろうか?
ゆっくりと律子が動き出す。
ほぼ抜けるくらいに腰を引き、どんと落とす。
手を私の肩に置き、腰だけを上下させて、私を絞り上げるのだ。
にっち、にっち…と粘質な音が響く。
ベッドの弾力も手伝って、彼女の弾みが大きくなり、ともすればペニスが抜けてしまう。
それでも尻の位置だけで狙いを定め、器用に外れた私をくわえこむのだった。
私も、受け身では申し訳ないので下から突き上げる。
「ああ、いいわぁ。もっと突いてぇ」
「こうかい?」
「そう、そう」
短時間で、私は律子によって相当な寝業師になったように錯覚した。
女を逝かせることで、新たな自分を見つけ出せたように思えた。
ペニスが赤剥けするほど、律子をつらぬき、眠りについたのは午前三時を回っていた。
寝ている律子を起こさずに、私はスマホ取り出してトイレにこもった。
こんな時間に角野さんが起きているはずもなく、朝にでもメールを見てくれたらいいと思い、昼頃に三ノ宮駅で会おうと伝えた。

私には、取り返しのつかない深みにはまっていくような予感がした。