熱力学をうまく説明するモデルはいくつかあるのですが、中高生あたりに考えさせるには「水飲み鳥」という玩具が良いと思います。
というのも、私が熱力学を大学で学んだ時に、担当教授がこれを教壇に持ってきたのでした。
「水飲み鳥」はアマゾンでも一羽800円ぐらいで売っています。
水飲み鳥
(写真はアマゾンから拝借しました)

昭和世代なら一度は見たことがあるでしょう。
ガラス管の首とフラスコ状のお尻、そして布のカバーで顔とくちばしが覆われていて、首の中ほどに支点のナイフエッジが設けられ、両足に形作られた台に支えられています。
この状態で鳥の体はシーソー運動できるのです。
さらにフラスコ状の尻の中には色のついた液体が入っていて、首とされるガラス管がフラスコ内の底につく寸前まで差し込まれて融着固定されています。
つまり、鳥の体内はガラスによって外の世界と完全に隔離されているのです。

この鳥の体内を色のついた液体が行き来することができるようになっている。
また液体が行き来することで鳥の体のシーソー運動が可能になる。

それでですよ。
内部の液体がどういう性質のものなのか?水なのか?それともほかの液なのか?

水であっても、同様の装置は作れますが、室温程度の環境では、この鳥は動きません。
そこで、低沸点有機溶剤を使うのです。
たとえば、ジエチルエーテルとかジクロロメタン、アセトンなどです。
この「水飲み鳥」にはジクロロメタンが使われているとアマゾンの仕様には書かれている。
ジエチルエーテルは可燃性なので危ないから不燃性のジクロロメタンが選ばれたようです。
しかし毒性が強いので決して中身を出すようなことや、破壊しないでくださいね。

お腹の中にジクロロメタンが半分くらい入っていて、そこにガラス管が通されている。
いわゆる液柱(えきちゅう)です。ほら水銀柱とかありますでしょう?あれと同じです。
水銀柱は気圧を知るのに使いますが、この水飲み鳥も同じで、鳥の体内の気圧(気化したジクロロメタン)で液柱の液頭が上下します。
※体内の空気はあらかじめ抜かれてジクロロメタンだけが封じられているそうです。

ですからジクロロメタンは「液封(えきふう)」なんです。
「液封」は下水や水洗トイレに使われる「U字管」や「サイフォン」にもみられますね。

ガラス管の一方は鳥の頭の形のガラス球で閉じられています。
液封が鳥が傾くことによって破られ、頭の気圧とお尻の気圧が均等になると、ジクロロメタンがみなお尻に落ちて鳥の体は元通りに立ちます。
しかし、鳥の体が立った状態では再び液封が生じますから、お尻が外気の温度で温まってお尻の空間のジクロロメタンの気圧が蒸発で上がって液体のジクロロメタンを押し下げ(管内の液面は上昇)るのか、水で湿ったくちばしの気化熱が頭の熱を奪い、頭の中の気体のジクロロメタンが凝結して減圧になるから、お尻のジクロロメタンが吸い上げられるのか、はたまたそれらの合力なのかで、とにかく液柱のジクロロメタンの液頭が上昇します。

液体のジクロロメタンはしまいに、鳥の頭のなかにあふれ出します(見えません)。
このとき、鳥の体はトップヘビーになってお辞儀をします。
お辞儀をすることを利用して、くちばしが浸る位置にコップに汲んだ水(室温)を用意しておくと、そこにくちばしがついて、鳥の頭が冷えますと同時に、ジクロロメタンの液封が切れてお尻のほうにジクロロメタンがみな落ちていきますと、鳥の体はボトムヘビーになって立ちます。
※水にくちばしがついたことで冷えるというより、このくちばしを覆っているフェルト生地が毛管現象で水を吸い上げ薄膜にして蒸発しやすくし、気化熱を奪いやすくしているのです。

この「水飲み」運動の繰り返しが、ずっと続きます。
だから、この鳥は「永久機関の例」だと早とちりする人がいます。

熱力学では「永久機関の不存在」を証明しており、「水飲み鳥」が永久に動くことを否定しています。
なぜなら、外気の温度、コップの水の温度のやり取りがあるから、その供給がある限りにおいて永久に動くということだから。
目に見えないエネルギーのやり取りが「水飲み鳥」の周辺で起こっているのを、見過ごしているのです。
試しに動いている「水飲み鳥」の水の入ったコップを取り除いてしばらく置いてみてください。
最初は、まだ動きます。
しかしだんだん振れが小さくなり、くちばしが乾くと、ついに止まってしまいます。
くちばしについた水の気化熱がどうしても運動を続けるのに必要だったのがわかります。

ジクロロメタンという物質が液体~気体の状態を、外の熱を受けて変化させることに気づいてもらいたいのです。
そして液体→気体(蒸発または気化)で「断熱膨張」が起こり、体積が、いや増すから定容(水飲み鳥の体)の世界では圧力が増します。
それが液体のジクロロメタンをお尻から頭へ移動させるのでした。
また一方で気体→液体(凝結または液化)で「断熱収縮」が起こり、体積が急に小さくなって定容の世界では減圧状態になりますから、頭のほうにジクロロメタンが吸い上げられるということに気づいてほしいのです。
これが熱力学の示す系(世界)の振舞いであり、私たちの生活の中でとても身近だが見えにくい現象なのだ言うことに行きついてほしい。
お天気や、台所でお湯が沸くこと、寒暖計や湿度計の原理などさまざまなことに熱力学は隠れています。

「水飲み鳥」はスターリング機関と原理が同じであることが、熱力学の教科書には書かれていると思います。

スターリング機関(エンジン)は外気の温度差によってピストンを動かし回転運動を取り出す熱機関です。
アマゾンなどでも3~4千円程度でキットが手に入ります。
これはすばらしい機械です。ぜひ、手に取って、目の前でその動きを見ていただきたい。
熱力学をかくも明確に表現した工作物はないでしょう。
もちろん「水飲み鳥」だってすばらしい発明には違いありません。

私は、塾でこの「水飲み鳥」を見せて、塾生にいろいろ問いかけてみて、考えを深めてもらう授業をしています。
マイケル・ファラデー先生みたいになれたらいいな。