気体定数Rはマイヤーの式から、等圧比熱Cpと等容比熱Cvの差であるとされる。

 CpCvR …①

そして気体定数は、
 R=287.03 Joule/(kg・K) …②

ここで空気の比熱比κは1.40とされている。

すると、空気の比熱をそれぞれ求めてみると、
κCp/Cv=1.40 …③
CpCv=287.03 ...④
を解いて、
Cp=1004.6 J/(kg・K)…⑤
Cv=717.6      J/(kg・K)…⑥
と求まる。

以上は空気を理想気体とみなして、理論的に求めた比熱である。

ところで、エネルギーは熱であると説くのがマイヤーの式だった。
もう少し詳しく言えば、「エネルギーは最終的には、すべて熱に変わってしまう」ということになる。
たとえば、位置のエネルギーを運動のエネルギーに変え、その過程で、音や摩擦などの別なエネルギーや熱に変換されるけれども、別なエネルギーもまた摩擦熱に変わっていくのである。
ジェットコースターの経験で、我々が経験するのは、運動エネルギーでコースターの速度が上がり、大きな摩擦音や風切り音を聞き取ることができ、風圧を感じ、車輪とレールやガイドには摩擦熱が発生しているはずだ。
これらの失われた合計エネルギーはコースターの落下前の位置エネルギーに等しい。

「という説明で、わかってもらえましたか?」
私は、ホワイトボードの前で塾生たちを見回した。
江田君は、理系に行きたいという高校二年生なので、なんとか理解してくれているようである。
藤原さんは、お母さんと同じ、看護師になりたいとかで、やっぱり試験で簡単な物理や化学の知識を問われるらしい。
「熱は冷めますよね。そしたら、熱いものから熱が流れ出ると考えてええんですか?」
と、江田君が尋ねる。
「一般に、そう考えて間違いではないけれど、こういう考え方もできるんよ。氷が解けるのは、熱をもらって、氷の温度が上がるからと」
「ああ、立場が変わればってやつですね」
「するとね、氷の話だと、まあ、水に浮いた氷が融けるのを考えてみてほしいんやけど、水が高温で氷が低温だよね。水が熱を氷に与え、氷も低い熱を水に与えているとも言えるでしょう?」
「ややこしいけど、わかる」と、藤原さん。
「ヒートポンプやん。なおぼんせんせ」
「おお」私は、江田君の反応に驚いた。
「江田君は、そういうの知ってるの?」
「エアコンなんかがそういう仕組みやって、新聞かなんかで読んだことがあるよ」
「その通りやねん。こうやって熱の出入りを電気の力でサイクルにするとエアコンができるのよ」
「夏は冷房、冬は暖房」と江田君がニンマリとして言う。
「コマーシャルが上手やねぇ」藤原さんも笑う。
「まさに、熱を流体としてとらえて、外気が低温なら、その温度差を利用して熱を取り出すと暖房になり、その逆なら冷房にすることができます。こういうサイクルは冷蔵庫や冷凍庫にも使われています」

「それから、ヒートポンプではない自然の状態では、熱は平均化されます」
「へいきんか?」
「難しいことはありません。沸かしたお茶が冷めていくとき、その温度はどこに落ち着きますかね」
「室温!」と江田君が答える。
「そうやね。部屋の温度も少しはお茶から熱をもらって上がるんだけど、お茶に対して部屋の空気は広くてたくさんあるから、ほとんど変わりませんが、お茶は確実に室温に近づいていきます。これを平均化と言うんです」
「うんうん」と藤原さんもうなずいている。
「部屋の空気がたくさんあるということは熱容量が大きいということです。これは相対的な話しで、熱源がお茶のように小さい場合には、大きな熱容量を持つ空気にはほとんど影響を与えません」
「お風呂の沸かしすぎで、水でうめますやん。なかなか冷めへん」
江田君は、おっさんみたいな言い方をするので、おもしろい。
「よう観察してるね、きみは。そういうの大事ですよ。大量のお風呂を冷ますにはその熱容量に見合った水を入れないと冷めません。おちょこ一杯の冷水では無理です」

これらの話はエントロピー変化という話題につながっていくんだけれど、それはまたの機会に。