私の会社がお世話になっている「シスポート株式会社」が毎月発行している情報誌があります。

その第138号の記事「(=^・^=)の穴」というコラムがあります。

今回のテーマは「生産管理システムと効率化」で、アメリカの病院の話が引かれていましたのでご紹介します。
「アメリカのある救急病院のお話です。この病院は、手術室に大きな問題を抱えていました。32の手術室で年間3万件あまりの外科手術が行われていて、予定を組むのが難しい状態でした。手術室は、常に予約でいっぱい・・そのために急患が出ると予定の組み直しに四苦八苦、スタッフはしょっちゅう、予定外の残業をしていました」
とありました。

「この危機的状態から劇的に改善します。どうやって? 簡単なことだったようです」

つまり「32ある手術室の内、1つを緊急手術用に常時空けておく」たったこれだけだったそうです。

空きがないのに敢えて、1つ手術室を空けておくという方法をとったことで、以後2年間、病院の手術件数は年間7~11%も増加したのだそうです。

手術には大きく分けて2つあると言います。
工程分析すると、計画的な手術と急患のイレギュラーな手術の2つです。
急患を入れるとイレギュラー対応で計画手術の組み換えをしなければならない。
手術室が空いても、その用具と薬剤のセッティングやスタッフの準備から全部整えないといけません。
失敗が許されない医療現場では、イレギュラー対応によるリスクの増加が致命傷になります。
パニックになり、疲労も溜まり、医療ミスにつながりかねない。

この状況下で、「急患用に1部屋余裕がある」ということで、スタッフに心の余裕を生み出すことになったのです。

この手法を「壱Q」記者は、
「行動経済学では「スラック(余地とか、余裕)を設ける」というそうです。私達が進めている、「システムを使って効率化を図りましょう!無駄を省きましょう!」って真面目に考えると、どうしても無駄を省くことばかりに注視してしまいますよね。(中略)敢えて「スラック」を設けることで効率性や生産性がグッと上がるかもしれません」
と結んでおられました。

行動経済学とは、経済学と銘打っているけれども、既存の経済学批判から興った学問だといいます。
今では、経済学の一翼を担う重要な研究対象であり、数学的なアプローチがなされ、経済学の中でも客観性に富んだ、説得力ある学問です。

有名な理論ではリチャード・セイラーの唱えた「ナッジ(nudge)理論」があります。
男子小便器において「床にこぼさせない方法」として、小便器内にハエの図柄を描いたところ、使用者はそのハエを自分の小便で流そうと「一歩前に出る」ことで、結果的にトイレが清潔に保たれたというものです。
使用者(男性)の「小便を命中させる」という射幸心のような欲望(行動バイアスという)を利用した巧みな方法ですが、こういう行動バイアスの利用で結果的に効率を上げる理論を提唱したのがセイラーです。
セイラーは2017年のノーベル経済学賞に輝きました。
「ナッジ」とは「肘でつつく」という意味らしい。
ナッジ理論の例」を見てみてください。
これは、これからのビジネスにとても役に立つ理論であります。

「スラックを設ける」ということから話が拡大しましたが、「行動経済学」はこれからも人に問いかける学問として、発展していくでしょう。