アルツハイマー型認知症患者の脳にはアミロイドβ(ベータ)というペプチド(たんぱく質の一種)が蓄積して斑(はん)を形成している。
この事実だけで、アミロイドβがアルツハイマー型認知症の原因物質であると説明されている。

しかし、アミロイドβがいったい脳にどこから来て蓄積し、何を起こしているのかの説明が少ない。
そんな中でアメリカCortexyme社のスティーブン・ドミニィ博士らの論文がその謎に迫っていて興味深い。
これまで、アミロイドβはカビやウィルスから神経細胞を守る防御因子であるという根拠が示されてはいた。
つまり、アミロイドβは悪者ではないらしいのである。
アミロイドβがアルツハイマー型認知症の患者に蓄積している裏側に秘密が隠されているようなのだ。

スティーブン・ドミニィ博士らは歯周病とアルツハイマー型認知症の関係を調べていた。
この関係性は医療関係者の間ではほぼ常識であり、歯周病がアルツハイマー型認知症を悪化させるとし、老人の歯周病ケア、歯磨き指導が認知症予防に有効であることがよく言われる。

歯周病菌の一種、ジンジバリス菌がアルツハイマー型認知症患者の脳内で発見されたことが、この研究を大きく進歩させた。
ジンジバリス菌が分泌するたんぱく質分解酵素がヒトの脳神経を破壊し、一方で、それを防ぐためにアミロイドβが脳に集まって蓄積することを突き止めたのである。
これはジンジバリス菌に感染したマウスの脳でアミロイドβが増加したことで、ある程度証明された。

ジンジバリス菌は歯周ポケットから繁殖して人体内をめぐり、とうとう脳の関門を通過して脳内に侵入するのである。
45~54歳の約88%の日本人が歯周病に罹患しているから、ひとごとではない。

高齢者の脳の断層写真においてアミロイド斑(すでに神経細胞が侵された病巣)がしばしばみられるが、単に老化と片付けられていたものも、予防可能だということだ。
アミロイドβは水に溶けず、分解されない限り脳に溜まっていき、破壊された神経細胞と一緒に凝り固まってアミロイド斑になってしまうのだろう。
インシュリンが、唯一アミロイドβを分解することができるホルモンなので、糖尿病患者はインシュリン感受性が低下しているから、余計にアルツハイマー型認知症になりやすいという報告もある。
それがそうだとして、アミロイドβを分解してしまうと、ジンジバリス菌が破壊する神経細胞は防げないのではないか?

ドミニィ博士らの、より一層の研究成果が望まれるが、この推論に立ち、歯周病ケアを今からしておくのは、我々の健康維持のために必要なことなのではなかろうか?
(参考文献:毎日新聞2019年6月13日付「Dr.白澤 100歳への道」白澤卓二)