焦点(focus)は光学で使われる語だが、数学でも二次曲線(面)で必ず出てくる。
レンズの焦点距離という物理的な性質は良く知られているし、カメラ撮影で知っておきたい知識である。

ここで話題にしたいのは光学から発展して、光線を電波に拡張してもなおこの焦点が重要な意味を持つことである。
つまりパラボラアンテナである。
天文学では早くから「電波望遠鏡」という光(可視光)では見えない星の姿を見る方法として登場しているけれども、その原型は第二次世界大戦でドイツで開発されたレーダー「ウルツブルグ」であろうか。
「ウルツブルグ」には巨大なおわん型の「パラボラアンテナ」が装備されていた。
アルキメデスの知恵で、シラクサ包囲戦(第2次ポエニ戦争、BC214ごろ)で海岸に鏡を放物面になるように並べさせ、沖の敵の軍船に焦点が当たるようにして焼き討ちしたという言い伝えがあるのが「パラボラ利用」の最初かもしれないが…

この「パラボラアンテナ」がどうして「パラボラ(回転放物面)」であらねばならないのか?
それは馬目秀夫氏の論文に詳しい。
詳細は論文をご覧いただくとして、つまりはパラボラに平行に入射した光や電波は焦点に集まるのであり、反対に焦点から発せられた光や電波はパラボラ面に反射するとすべて互いに平行な光線(電波)で放射されるということだ。

アンテナの特性として「指向性」というものがあるが、これはアンテナを目的に向けた時に、どれだけまっすぐに電波を放射できるか(集中できるか)、またはどれだけ遠くの電波を集められるかという指標である。
パラボラアンテナはこの指向性が極めて高く、それが回転放物面という数学的な性質から来ていると説明できる。
光に近い短い波長の電波を扱う天文学やレーダー技術ならびに衛星放送では、パラボラアンテナは極めて有用なアンテナである。
このことは、戦時中からドイツではレーダー索敵システムに注目されていた。
日本もその点では同じだったが、当時の日本のエレクトロニクス技術が未熟で、また軍部も電波兵器には懐疑的であったという経緯から予算も割かれず、あまり進まないまま、ミッドウェー作戦で日本海軍が大敗を喫することになったことは有名である。
のちに「マレーの虎」の異名を持つことになる山下奉文(ともゆき)陸軍大将は、ドイツと同盟を結ぶことで科学技術の交流が盛んになり、連合国に打ち勝つことができるとして、自ら視察団を組織してドイツにおもむいたのであったが、レーダーについては懐疑的だったのか、ドイツが秘匿したのか、当初は日本にはもたらされなかった。
昭和十八年になって、遅ればせながら、同盟国ドイツに範を求め最新式レーダー「ウルツブルグ」を譲渡してもらうことになったが、相手は遠くヨーロッパの地であり、輸送に困難を極めた。
潜水艦による遣独交流がおこなわれ、潜水艦にウルツブルグをばらして積み込んで日本に持ち帰ったのは奇跡だった。
これらの苦労は吉村昭氏の『深海の使者』(文春文庫)や津田清一氏の『幻のレーダーウルツブルグ』(CQ出版社)に詳しい。
また、中川靖造氏の『海軍技術研究所 エレクトロニクス王国の先駆者たち』(日経新聞社)も参考にされることをお勧めする。

焦点について、すこし数学的な面から掘り下げてみたい。
高校数学ですでに焦点は取り上げられ、高校物理でも球面レンズや球面鏡で実験をしているはずだ。
とくに「放物面」でなくても焦点は存在するのであり、楕円には二つの焦点があり、円は楕円の特別な場合、つまり二つの焦点が一つに重なって中心になったものと考えられ、また双曲線にいたっても焦点は存在する。
馬目氏の解説でもあるように、放物面だけが焦点からの放射光を平行線に変換できるという特異な性質を有している。
楕円の場合、一方の焦点から放射した光は、楕円面に反射してもう一方の焦点に命中するという、ビリヤードのような美しい光路を描くのだった。
双曲面は二つの相似形が向かい合っていて、この関係性が焦点とちゃんと関わっている。
一方の双曲線の焦点から光を放射すると、その光はもう一方の双曲線に反射して、あらぬ方向に光路を描くように見えるが、その光路を反射の反対側に延長した先には、もう一方の双曲線の焦点で交わるのだった。

幾何学的に、放物線の場合、焦点Fと放物線上の点Pを結んだ直線FPの長さと同じ長さの直線をPから垂らした足の点Qの集合はx軸に平行な直線を成す。
これを準線Lというそうだ。
FP=PQ=aとすると、Pを中心とした半径aの円が描け、FもQもその円周の上にある。
この放物線は断りのない限り、下に突で頂点の座標O(0,0)、つまり原点である。
焦点F(0,a)、準線y= -a 放物線の式y=x^2は、aを用いて次のように書き換えられる。
y+a=√{x^2+(a-y)^2}
∴ x^2=4ay