私は、夏休みになると高安の祖父母の家に宿題を持って泊まることにしていた。
門真の借家住まいは叔父も同居しているから手狭で、ずっと家にいる私にとって息苦しかった。
そんなことよりも、同い年の従弟の浩二に会いたくて…というのが正直なところだった。
浩二の両親は、祖父母の家の敷地に離れを建てて一人息子と三人暮らしをしていた。
私の父の兄、つまり浩二の父親は交野市の役人で、水道局に勤務していた。
おばさんは、婦人会だの、ママさんバレーボールの練習だので、ほとんど家にいなかった。
夏は盆踊りや地蔵盆で婦人会の仕事も忙しかったようだった。
祖父母は、祖父がもう体が不自由になっていて、祖母が看病していた。
すると、孫の私たちは、勝手気ままに夏休みを、この自然豊かな高安の裏山や納屋、大師堂で過ごすのだった。

お大師さんと私たちが呼んでいる「大師堂」はその昔、大師講を盛大に催していたころの名残で、十畳余りもある広間に、お大師様を祀った仏壇があり、大きな鉦(かね)や木魚が鎮座していた。
今となっては省みされず、祖母が毎月二十一日に掃除をして花を手向けるだけだった。

ところが、私と浩二にとっては格好の遊び場なのだった。
北側になるのか、ほぼ日が当たらず、夏はひんやりしていた。
壁際には使われなくなった布団が、布団袋に入れて置かれていたり、もうめんどくさいのか、そのまま畳んで布団が置かれているのもあった。
私が浩二より半年ほど早生まれで学年が上だったので、浩二は弟のようになついた。
甘えたで、一人では何にもできないくせに、裏山では「主」のようにどこに何があるかよく知っていた。
この山は半分以上、高安の敷地であり、祖父の所有だった。
残りは慈光寺という浄土宗のお寺の寺域になっていて、その境に小川が流れている。
裏山には、山頂らしき小高い丘があり、西の方に開けていて、国鉄(当時)の鉄橋が見え、模型の鉄道のように小さな電車が走るのが見える。
そこを私たちも、親族も「高安山」と呼んでいたが、もちろん地図にもそんな名前はない。
高安山には山頂に至る細い道があり、途中に大きなクスノキがそびえ、また祖父のまた祖父が植えたという三本の桜が毎年春に満開の花をつけた。
浩二の「調査」によれば、クスノキの手前が切通しになっていて、ふもとの高安の屋敷の「おせど」につながっている道が通っているが、そこに穴を掘ってタヌキの親子がいるといい、また切通しの斜面には「化石」が出るとまで言うのだった。
私も半信半疑で、彼の化石とやらをみせてもらったが、すべて木の葉であり、ただの堆積物で炭化も珪化もしていない生(なま)しいものだった。
「これはまだ化石になってないよ。新しいものだよ」と教えてやったら、不満そうだったが。

私が中三の夏休み、浩二は中二だった…
その前の年の秋に祖父が危篤になり、亡くなっていた。
お通夜の晩に、私たちは男女の関係になってしまい、それから会うたびにセックスをした。
中学最後の夏休みで、高校受験を控えていた私は、やっぱり高安の家で過ごしていた。
浩二もだいぶ背が伸びて、男らしくなってきていた。
セックスを経験すると、お互い、大人びるのが早いのかもしれない。
声変わりも終え、野太い声でぼそぼそ言いながら、お大師様の部屋で私は彼の愛撫を受ける。
「なおぼんの胸、おっきくなった?」
「そうやねぇ、もうブラなしでは学校に行かれへんわ」
「ええ?ブラなしで行ってたん?今まで」
Tシャツが捲られ、ブラも持ち上げられて、双乳がもみしだかれる。
「今年の冬なんか、そのままシャツ着てた」「うそやん」「ほんまよ。ブラ、めんどうやし」
乳首が、汗を浮かべ、うっすらと髭の生えた浩二の口で吸われる。

「はぁん」思わず声が出てしまう。
クマゼミの声がやかましかった。

とうとう、浩二の手指が、キュロットのなかに侵入してきた。
クロッチに届いてなぞってくる。
「あの」「なに?」「生理が終わったとこやから、匂うかも」「なおぼんのやったらかまへん」
そういってくれる浩二だった。
ショーツは下ろされ、濡れかけの谷筋が浩二の前にさらされた。
「ちょっと匂うな」「そやろ?」
それでも、浩二は顔を近づけて、汁をなめとろうとする。
「あひ」
「きもちいい?」
「うん」
犬がミルクを舐めるような音を立てて、浩二が私を舐める。
男が女のそこを舐めるというのは、浩二から教わった。
彼は、伯父の部屋からそういうたぐいの本を盗み読みしていたらしい。
大人の男はそういう下品な雑誌などを読むものだと、私は思っていたから、別に何とも思わなかった。
「ほら、ここ、クリトリス」
私は診察を受ける患者のような気分だった。
額の汗があごを伝って、胸元に落ちた。
浩二は医師のように、私を「診察」した。
「やん、そこ」
クリトリスとやらが、刺激を感じやすいことを私は学習していて、自分でも触ってしまうことや、机の角に当てて快感を得ることを覚えていた。
「えへへ、なおぼんも触ってぇな」
そういうと、いつの間に脱いだのか、下半身をむき出しにして膝立ちで私の方を向いている。
そこには、隆々と立った赤黒いペニスがあった。
最初に見た時より、一回り大きくなっているようだった。
皮は完全に後退して、頭の部分が露出して、くびれもはっきりしている。
そして、先の口からは、糸を引くような液体があふれていた。
私は手を伸ばした。
「かったぁ」「なおぼんのせいや」
それは、骨でも入っているかのように硬かった。
そして熱い。
親指の腹でにじむ液体を掬い取ってやると、蛇のようなそれはびくびくと打ち震えた。
真剣な表情で浩二は分身がなぶられるのを見ている。
「すごいよ、これ」
「めっちゃ興奮する」
「まだ、出したらあかんよ」
「わかってる。なおぼんの中で出すねん」
「ふふ、赤ちゃんできたらどうすんの?」
私も、興奮していた。
「できたら、できたや。産んで」
「あほ。そんなことできません」
私はきっぱりと言った。
「もういいやろ?」
「ちゃんと外に出してよ」
「わかってるって」
私は、お布団の袋に背中を当てて、M字に開脚し、浩二をいざなった。
私の足の間に入って、浩二が狙いを定める。
にゅる…
それは、力強く入ってきた。
私は、かすかな痛みに禁忌を犯していることの興奮を覚えていた。
完全に私の胎内に埋没させた浩二はおおいかぶさって、私の口を吸う。
この接吻がたまらない。
唾液を交換するような濃厚なキスをして、互いの欲望をぶつけ合った。
激しく腰を振る浩二。
浩二の汗が私に降りかかる。
シャツが雨にあったように汗で染みを作っている。
おっぱいは彼の手で押さえつけられ、苦しいくらいだ。
セミの声は遠くに聞こえ、代わりに私たちの喘ぎ声が部屋に響いた。
祖母は耳が遠く、今はお隣の瀬尾さんちでお茶を飲んでいることだろう。
浩二の両親はもとより家にはいない。
私たちは存分に体を重ね、快感に酔いしれた。
浩二に裏返され、後ろから突かれた。
私は布団に顔をうずめながら、むせび泣いた。
「ああっ!だめぇ、こわれるぅ」
「なおぼん、なおぼん」
硬い異物感が私の仙骨付近の神経をざわつかせた。
胎内はかき回され、潤滑するための私の体液があふれ、ながれ、内腿を伝う。
「なおぼん、上になってぇな」「わかった」
騎乗位と呼ばれる体位は、のちになって知るが、私たちは先に経験していた。
こうして浩二を下に敷いて、私の意思で腰を使えるのは好きだった。
しかし、この方法だと、浩二が射精するときに間に合わないのだが…
それでも理性のふっとんだ私にはどうでもよかった。
生理の終わったところだ、安全だろう…
「だめだぁ、なおぼん、のいて」「のかない!」「でちゃうって」「だしてっ」
私はついに、理性のタガを外してしまった。
愛する浩二の精液を受けたかった。
赤ちゃんができたっていい…浩二といっしょになればいい。
そんな幼稚な考えで私は満たされた。そのとき…
「あああ、でてまうー」
びゅくびゅくと浩二が私の下で痙攣して、果てた。
私も胎内に無限に広がる、彼の愛を感じた。
私は、慈しむように、浩二にかぶさり、つながったまま彼の口を求めた。
「ありがと、こうちゃん」
「なおぼん…おれ」
「なんも心配せんでいいから」
「ほんまに?」
「ほんまよ」
私は浩二のほほを撫でた。
とたんにセミの声がやかましく耳に響いてきた。

浩二は夏休みの課題図書として北杜夫の『幽霊』を選んで読んでいるという。
「おもしろい?その本」
「うん」
「怪談なん?」
「ちがうんや。おれも最初、怪談かと思ったけど」
軽くキスを交わしながら、夏休みの話になっていた。
主人公が、薄命の姉や、母親に思慕する心情、そして青年期を信州の山で過ごし、大地を相手に自慰をするシーンが心に残ったという。
私も読んでみたが、よかった。
どくとるマンボウとは違った、北杜夫の一面が垣間見れた。
のちに、私が北杜夫の親友の辻邦夫に傾斜するきっかけになった『幽霊』だった。

「パンツ、履きや」「うん」

私たちはお大師様の前で罰当たりな行為にふけったので、お参りすることにした。
お座布の上にふたりして座って合掌した。